第99話 ピックアップ箱!?
火種ちゃんの灯りが、宝箱のフタを照らす。
隠されていた部屋にある箱。
見ると、ねじれた角のような飾りに覆われ、正面には爪を組み合わせたような留め金がついている。
「連理さん、見てください。あの装飾……初めて見る箱です!」
「ずいぶん怖い見た目だね」
「そうですね……。フタの細部まで、細かく作り込まれています!」
なんか微妙に俺とは違う意味で感心しているらしい。
乃々さんは身を乗り出して、《フライ》の前に出た。
「のの。背中ばかり映ってるよ」
「えっ? あっ、すみません! 箱は、こっちです!?」
あわてて横へよける乃々さん。
ようやく画面に収まった宝箱を見て、コメントが流れ出す。
『背中だけでも嬉しそうなの分かったw』
『その飾り、ピックアップ箱じゃない?』
『そんなものあるはずない』
『禍々しすぎで森』
「ピックアップ箱……!? そんな馬鹿な……これが?」
「ピックアップ箱?」
「都市伝説ですよ。ヤバすぎな……見た目的には開けていけない箱があるって……しかし、開けると同じような使途不明なものが入ってるという」
「実在するの?」
「私が知ってるのは、その話だけです。宝箱のおばけみたいなものですよ」
乃々さんは画面から顔を上げ、不思議な宝箱を見つめる。
俺も、あの爪のような留め金がどう開くのか気になってきた。
「確かめてみよう。火種ちゃん、しっかり照らしてくれる?」
「ひー!」
宝箱に触れる……その瞬間になって、《フライ》が映していたコメントにノイズが走り、やがて消えた。
『やば……ない……?』
『……かれ……ぴ……たれ』
『謌ヲ縺ョ蜴溽炊縺ォ隗ヲ繧後h』
『繧オ繧、繝、繧ッ縺瑚ィェ繧後k』
『……かゆ……』
「あれ……配信が切れました」
乃々さんが端末を確かめる間、俺は後ろを振り返った。
「おかしい……また……前に見たようなことになってます」
何か、気配のようなものを感じる。
気のせいだろうか。
「……ここはやはり普通の場所ではないのかもしれないわ。世界のハザマに近い場所……というか」
リィンはどこともなく、虚空に視線を向けた。
この宝箱のほかに何もない部屋。
壁も床もむき出しの石で、色味があるのは箱だけ。
「連理さん、仕方ないです。それでも……開けなくては!」
「のの、開けたいだけなんじゃ」
「ひー!」
言いながらニーナも俺の隣にしゃがむ。
「ニーナもやっぱり楽しみなんだね」
「こんな……変な箱……変に違いない!」
フタには鍵穴がなく、爪の間に指をかけると小さな音を立てて外れた。
案外、あっさり。
「開けるよ」
力をいれて持ち上げた途端、金色の光があふれた。
しかし、続いて赤のような色に変わる。
「金と赤……! 噂どおりです。やはりこれはピックアップ箱!?」
「この色、何ランクなんだろうね」
「分かりません。紫ならSランクですが……」
眩しさに細めた目で中をのぞく。
見たことのない輝きの中に……何かがある。
「中身は!」
「……中身!」
ニーナとリィンが箱の中に顔を突っ込む。
やっぱりというか、二人は変な声を出した。
「なにこれ」
「……なにこれ」
「何だろう。本……?」
「でも一枚しかないよ、レンリ」
中に入っていたのは紙片……のように見えた。
箱の底。
そこにあったのは、文庫本の一ページくらいの大きさをした、黒ずんだ何か。
「紙でしょうか。ずいぶん傷んでいますね」
乃々さんものぞき込む。
俺はそれをつまみ、持ち上げようとして、思わずもう片方の手も添えた。
「紙じゃない。これ、金属だ」
「その薄さで、ですか?」
「見た目より重いよ。曲がりもしない」
「レンリ、危なくない?」
「たぶん大丈夫。たぶんね」
ニーナは両手を広げてみせる。
貸して、と言っているようだ。
「変なの。紙に見えるけど、これはかたくて重い」
片側には小さな穴が並び、反対側は大きく欠けている。
黒ずんだ表面を傾けると、細かな文字がびっしり刻まれているのが分かった。
「……その穴、何かでとじていた跡かしら」
「つづりから抜けた一つ、ってこと?」
「……ええ。しかし、ずいぶん重い本だったでしょうね」
リィンが指で示した穴の周りには、こすれたような跡がある。
「こっちは、文字みたいなのが途中で切れてるね」
「残りも入っていないでしょうか。連理さん、箱の中をもう一度見せてください」
乃々さんがのぞき込めるように身を引く。
フタの下まで確かめた彼女は、やがて顔を上げた。
「うーん、ありませんね」
「ピックアップ箱、なのにね」
ニーナは少しがっかりしたような様子だ。
金属の表面には文字が続いているのに、俺には一つも読めない。
異世界語にも見えるが、何か違う。
何かの記録なのか、誰かへの手紙なのか。
それすら、今は分からなかった。
「ピックアップって、欲しい物を狙う時の言葉だと思ってたんだけどな」
「でも、レアなものなのでしょうか? これは……」
乃々さんは空になった箱と、ニーナの持っているものを見比べる。
「何か強いアノマリーでも出るのかと期待していたんです。でも、これ……何が書いてあれば、こんな金属片に?」
「……何かを伝えたかったのかもしれないし、何か大切なものかもしれない。でもわたし……何か……」
「リィン?」
リィンは出てきたものをジッと見つめている。
確かに変な感じだ。
欲しかった物を引き当てたというより、渡された……ような、そんな感覚。
「読む相手が俺たちでよかったのかな。俺には、さっぱりなんだけど」
「……どうかしら」
リィンは何か深く考えているようだ。
それを見つめていると、乃々さんが体を揺らして視界に現れた。
「宝箱から出てきたものなら、ニーナちゃんなら何かわかるかもしれません」
「確かに。ニーナ、お願いできる?」
「うん。やってみる」
ニーナが金属片へ手をかざす。
不思議な場所と不思議なもの……それでも、魔力が流れ輝きはじめた。
「《宝具解放》」
魔力が流れを作り、金属片の周りへ輪のように広がった。
わかるのだろうか。
武器には見えない。
けれど、取るに足らないものなら、何故こんな隠された場所の宝箱から現れた?
「真名というか、名前は分かったよ、レンリ」
ニーナが顔を上げる。
乃々さんもリィンとともに、ニーナの次の言葉を待った。
「これは《災禍の断章》」




