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第98話 洋食屋さんの名前です


「強力な一撃か……それなら考えがある」


 リィンがこちらを見る。


 俺は剣を納め、アノマリーケースに触れた。


「……何か思いついたのね」


「うん。危険かもしれないけどね」


「……無理しないで、レンリ」


 祭壇の前で、爪を床へ突き立てる白い獣。


「ギィィィ……」


 後退させられた身体を起こし、低く声を出した。


「ニーナ、これから無防備になるかもしれない」


「レンリが狙われたら、待たずに撃つよ」


「助かる。頼りにしてる」


 《刹那の種》を取り出し、種をまく。


 足元を芽が覆い、絡みあうツルが広がる。


 そして、さらに伸びはじめた。


 視界いっぱいに花が咲いた。


「ギャァァァァァァァァァ!」


 白い獣が跳ぶのが見える。


「結晶の光の名の下に。答えよ。其は塊。跳ねよ!」


 ニーナの詠唱。


 信じよう。


 俺はツルをつかみ、伸びる勢いにあわせて足を掛けた。


「《結晶星》!」


 爪が迫る寸前、結晶の塊が獣を打った。


 白い巨体が祭壇へ押し戻される。


「助かった、ニーナ!」


 さらに上へ。


 高い。


 すべてが俺の足より低くなる。


 俺は片手で身体を支え、もう片方の掌を高く掲げた。


 獣が俺を見上げ、胸の前で両手をあわせている。


 金色の光が指の間から漏れた。


「地脈……神の名に……天の高みを統べるものよ……応えよ」


 わずかに詠唱が聞こえた。


 すると。


 光が雷となり、獣の両手から輝きを増していく。


「《神雷》」


 獣の叫びと共に、稲妻が俺へ向かって流れた。


 空気を裂く轟音。


 リィンが儀仗杖を獣へ向けるのが見えた。


「高きに在るものを地へ。抗うものに裁きを。天の威を示せ!」


 杖の先端が紫色に輝く……。


 強大な祈跡《神雷》に、紫の光が絡みついた。


 雷が千切れていく。


「……今よ、レンリ!」


 装備していた指輪に魔力が流れるのを感じ、俺は拳を握りしめる。


「《雷帝の指輪》!」


 巨大な雷が、真っ直ぐ俺へ落ちてくる……。


 同時に敵の《神雷》が下からこちらに向かってきた。


 俺は瞬時にアノマリーケースに手を突っ込む。


 取り出したのは……《竜化の手》。


「あれは!? まさか!」


 乃々さんが叫ぶ。


 そうだ。


 落ちてくる雷。


 それを……つかむ。


「《竜化の手》!」


 落雷が俺を焼くより早く、雷そのものが掌でうごめく。


 枝分かれした閃光に爪が生まれ、光の先端が牙に変わった。


 青白い竜が、俺の手から首をもたげる。


「雷が……竜に……!」


 乃々さんの声に重なって、竜の咆哮が響く。


「グオオオオオオオ!!!」


「祈跡を越え、敵を倒せ……《竜閃》!」


 雷の竜……《竜閃》が《神雷》へ飛び込んだ。


 バチバチバチバチ!!


 凄まじい音と共に雷撃と雷撃がぶつかる。


「連理さんの放った雷……《竜閃》が白い獣の祈跡と噛み合っています!」


 白い獣が両腕を突き出す。


 祈力を送っているのか。


 しかし、祈力は紫の光に包まれて消えた。


「押し切れ!」


 《神雷》が弾けた。


 放った《竜閃》はそのまま、白い獣に向かい……その身を割いた。


「ギィィィィィィィィィ!!!」


 言葉にならぬ叫び。


 竜が獣の両腕をつつみ、胸を貫いた。


 まばゆい輝きが消えていく。


 白い獣が崩れ落ちる。


 現れたのは淡い輝き。


 全てが光の粒となり、最後には祭司長としての影が残り……消滅した。


『すげええええ』

『雷が竜になった!?』

『工場で外した指輪が!?』

『押し切った!』

『みんなすげええええ』


 轟音がやんだ後も、耳の奥に音が残っていた。


 安堵も束の間。


「まずい! のぼった後のことを考えてなかった!」


 枯れていく《刹那の種》。


 落ちる!


「レンリ」


 ニーナが魔力を集め、落ちてきた俺を包み、抱きかかえた。


 逆お姫様抱っこ……。


「なんか……逆じゃない?」


「そう? ニーナは良いと思うけど」


 地面に足をつけると、膝が震えた。


「ありがとう。助かったよ」


 リィンもふうと息を吐いて、杖を下ろした。


「……強い一撃とは言ったけれど、まさか自分へ雷を落とすなんて」


「俺もあの雷の下に立つのは怖かったよ」


 幸い、痛みや焦げた跡はない。


「でもリィンのおかげで無駄にならなくて済んだよ」


 リィンは目を見開き、儀仗杖を抱え直した。


「リィンちゃん、あたりに祈力を感じますか?」


「……消えたわ。もうきっと……大丈夫」


 乃々さんは背伸びをした。


「連理さん、最後の技名をもう一度お願いします。雷の音で、聞き取れなかった方がたくさん……」


「《竜閃》だよ。何となくね。昔好きだった料理屋さんがそういう名前で……」


 《フライ》のホログラムがコメントを流していく。


 ようやく、落ち着いてコメントを見ている自分に気づいた。


『竜閃!!』

『料理屋の名前w』

『超かっこよかった』


「そうですよね。超かっこよかったですよ! まだ信じられないです!」


 端末を見つめる乃々さんに、ニーナが顔を寄せる。


「のの、ニーナにも見せて」


「はい。あとで一緒に……」


 その時。


 奇妙な音に、乃々さんが顔を上げた。


 祭壇の奥……閉ざされていた裏門。


 ゴゴゴ……と音を立てて動いていた。


「ひー!」


 ゆっくりと開く扉の間へ、火種ちゃんの灯りが入っていく。


 ゆらり、宝箱の影が……見えた、気がした。


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