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第93話 止まらぬ祈跡


「祭壇の白い屍者、同じ言葉を繰り返して……今、声が低くなりました」


「……祈り……詠唱よ。祈跡がくる」


 掲げた掌から金色の光があふれ、バチバチと音が鳴る。


 そして光が大きく輝いた後、そこに現れたのは……。


「霊体……ですか? 細身の剣を持つ白い霊を召喚しました!」


 ゆらり、と立ち上がる霊体。


 複数の影がうごめく。


「ひー!」


「ボクが右を受ける」


「京には耐衝撃、みゅーには魔砲の魔力補助を入れたよー。切れたら戻ってきてねー」


「フライを引きます。白の霊体が左右に二体ずつ——全部で四体です!」


「霊体でもバリバリ物理」


 高城が盾を正面へ向けて前に出る。


「右の二体は引き受けた! 手前はボクが斬る。みゅー、奥を撃て」


 右から迫った二体の剣を受け、まとめて押し返す。


「奥、見えた! 撃つよぉ!」


 高城の片手剣が手前を斬り、魔砲が奥の一体を貫く。


 同時に崩れ、光の粒へ変わった。


 物理は効くらしい。


「右は終わりだ」


「左はまかせて……《刹那の種》に《刻の縫い針》……」


 種が膨張していく。


「《反咲き》!」


 幾重にもからまるツルの槍が二体の霊体を貫く。


 左に現れた霊体も光となり消滅する。


 再び詠唱と祈りをはじめた祭司長。


「白い屍者の頭上に……光が五つ……長く伸びて、先端がとがっていきます」


「……《聖なる棘》……光の槍を飛ばす祈跡よ。気をつけて!」


 次々と放たれる光槍。


 正面に落ちた光は地面をえぐって大きな穴を開けた。


「あれは痛そう……《結晶盾》」


 ニーナの両手から広がった結晶の盾が、飛来する光の槍を受け止める。


 ガギン!


 魔力の盾と祈跡がぶつかり、耳慣れない音を立てた。


「こっちのは消したよ」


 しかし、まだ祭司長には一撃も与えられていない。


 人がこれだけいても、攻めきれないとは……。


「このままじゃ、防戦一方だ! どうにかならないかな」


「今なら祈跡の切れ間だ。日野枝、中央を走れ!」


「わかった!」


 俺は相手の動きを待たず、敵へ向かって駆けた。


 祭司長のまわりに障壁などはない。


 一方、白い屍者は俺へ顔を向けず、胸元で指を組み直す。


「……気をつけて、レンリ! 祈跡よ!」


 敵は祈跡の祈りに入っている。


 チャンスだ。


 このまま切り裂く……。


 だが。


 詠唱が終わった瞬間、全身に衝撃が走った。


「ぐっ!」


 剣を振る前に足が床から離れ、視界が逆行していく。


「レンリ、跳ね飛ばされた」


 見えたのは光。


 それが円形に広がって、気づいたら走る前の場所まで吹き飛ばされた。


 剣先を地面につけ、膝をつく。


「日野枝、返事をしろ。大丈夫か」


「なんとかね……」


 全身は痛むが、脚には力が入る。


「そう簡単には近づけないね」


「細いからウチらの遠距離攻撃は当たんないよ!」


「あの衝撃波は連続ではない。ボクの盾で受けて、その後ろから日野枝が斬る。楽勝だ」


「京には耐衝撃を重ねるよー。今の衝撃なら、一度はもつ」


 高城が盾を構え直す。


 すると、リィンが杖を握りしめて、こちらを見据えた。


「……わたしが祈力の流れを乱すわ」


「リィン、できるの?」


「……たぶん。衝撃の威力を減らせるはず」


 リィンが微笑んで返す。


 金色の二つしばりが揺れた。


「なら万全だ。名付けて日野枝突撃作戦だ!」


 夏は瓶を握ったまま笑った。


「京の考えたようで考えてない作戦だねー」


「うるさい! 夏、良いから早く!」


「耐衝撃、入ったよー」


「よし! いくぞ!」


 高城が駆ける。


 彼の上下する体越しに、祭司長の姿がわずかに見えた。


 祈りの体勢に入っている。


「願う。地脈と祈りの主。輝きの元に在るものよ、応えよ」


 背後にリィンの詠唱が聞こえた。


「祈りの光を下げよ、我に仇為すものを妨げよ。薄弱なる影、浄滅」


 気のせいか、輝きが弱くなった気がする。


「衝撃が来るぞ! 日野枝!」


「祭司長の祈跡が発動しました!」


 俺は姿勢を下げた。


 衝撃が盾を鳴らし、高城が後退する。


 ……が。


 構えは崩れず、こちらに衝撃は来なかった。


「日野枝、行け!」


「ありがとう! 届く——《燻り火の剣》!」


 盾の横を抜け、駆ける。


 踏み込んだ勢いのまま《燻り火の剣》を振り抜いた。


「グゥゥゥゥ!!!」


 袈裟に斬り裂くと、死者はよろめき、距離をとる。


「届きました……! 連理さんの剣が届いて、白い屍者が祭壇から下がりました!」


 けれど何故か……開いた眼窩は俺の後方……リィンに向いている。


「白い屍者が、斬った連理さんではなく……リィンさんを見てます……?」


 直後。


 低い祈りの声が地下に響いた。


 今までより長い。


「う、上です! なんでしょうかあの光の数!」


 頭上を覆う……祈跡らしき幾多の塊。


 金の光が増えていく。


 別の祈跡か。


 俺はみんなの元へ急ぐ。


「これは……まずいぞ!」


 高城の声を背に、さらに足を早めた。


「……詠唱が終わる。この場所すべてに、光が降るわ」


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