第92話 疲れてると嫌味が出ますよね……
夏がみゅーの抱えた魔砲をツンツンして言った。
「みゅー、魔砲さげてー。まだ連理さんたちに向いてるよー」
みゅーが慌てて魔砲を地面へ向ける。
「あ、ごめ〜ん! ていうか、どこから出てきたの? 敵かと思ったじゃん」
「説明が難しい場所を通ってきたのは本当だよ……。それより高城、その盾……ずいぶん削られたね」
盾は欠け、傷つき、血に染まっている。
みゅーの魔砲と夏の服にも傷はあるが、高城は特に深傷だ。
正面で二人を守りながら進んできたのだろう。
「見れば分かることを口にしなくていい。端末に示された道を、ボクたちは突破した。これがその結果だよ」
「突破はしたけど、その盾はもう限界だよー。京、いい加減に貸してー」
「まだ使える」
夏の手を避けるように、高城は盾を引いた。
「京ちゃん、それさっきも聞いた。夏ちゃんに渡しなー?」
「みゅーは人の心配より、自分の魔砲を見てもらいたまえ」
「ウチはもう渡したよ? 京ちゃん、まだねばる感じ?」
「なっ」
みゅーの魔砲は、すでに夏の足元へ置かれていた。
「はい、捕まえたー。剣も一緒に見せてー。それと京、右腕を出して。さっきから血が止まってないよー」
「この程度、傷のうちに入らない」
「夏ちゃん、右腕も。京ちゃんの『この程度』も信用できないから」
「最初からそのつもりだよー」
高城は諦めたように盾を夏へ渡し、剣も鞘ごと腰から外した。
「キミたちは二人がかりで、ボクから装備を奪うのが好きだね」
みゅーがすぐに言い返した。
「京ちゃんが渡さないからじゃん」
「まったく。キミたちと来たら……」
夏は三つの装備を並べ、傷みを確かめていく。
高城も逆らわず、右腕を差し出した。
乃々さんが三人の装備を見比べる。
「高城さんたちでも、ここまで消耗するんですね」
「当然だ。ここまで来るには、相応の実力がいる」
「大変だったのは分かるよ。でも、俺たちも何もなかったわけじゃない」
「え、なにそれ! ウチ、すんごい気になる」
みゅーが身を乗り出す。
道が開いた理由も分からず、映像もない。
《降伏を禁じる白旗》まで含め、短く話せる内容ではなかった。
「俺たちも、まだ整理できていないんだ」
「自分たちでも分からないまま、よくそれで先へ進めたものだね」
乃々さんが高城を見つめた。
「私たちも、最初は端末の案内どおりに進んでいたんです」
「途中までは、そうだった」
ニーナの言葉に、高城はあきれて返す。
「途中まで……実にキミたちらしい言い訳だね」
みゅーが吹き出した。
「京ちゃん、ちょっと楽しそう」
「どこを見れば、そう見えるんだい?」
「嫌味がいつもより長いからじゃないかなー。はい、盾は修復アイテム使っといたよ。みゅーの魔砲も、今は大丈夫だよー。あとでお金返してねー」
「夏ちゃん、ありがとー。そろそろ読モしないとね」
夏が最後に高城の右腕へポーションをかけた。
「……あそこ。大聖堂の横に地下へ降りる階段があるわ」
そこには幅の広い階段が暗がりへ続いており、進む先は地下の闇に沈んでいる。
「端末が示している方向にあるのは、この階段だけです」
「ボクたちが進んだ道もここに終着する。準備がいいなら、先に入るよ」
「今度は無茶しないでねー」
「ボクに無茶をさせる敵へ言いたまえ。みゅーは後ろにつけ。夏はそのまま支援を」
「りょーかい。後ろから撃つ〜」
俺の前にふわり、火種ちゃんが姿を見せた。
「火種ちゃん、足元を頼める?」
「ひー!」
高城を先頭に全員で階段へ入った。
「……階段が深いわ。もう地上の音が聞こえない」
何度目かの折り返しを過ぎても、階段の終わりは見えない。
響くのは足音だけ。
みゅーがはぁ、とため息を吐いた。
「まだ下ぁ? これ、教会の地下って深さじゃなくない?」
「下に灯りが見える。広い部屋へ続いてるみたいだね」
俺が言うと、高城は手を広げて片方の口角をあげた。
「確かめれば分かる。今度こそ、勝手に別の方向へ消えないことだね」
「この階段で消えたら、俺も困るよ」
階段の先にあったのは巨大な門。
「門ですか……大きいですね」
「いやーな予感」
「ニーナが言うと危機感を感じるなぁ」
高城が触れると、門が金色の光を放ち、開きはじめる。
「キミたちは何を言ってるんだ。迎えてくれてるみたいじゃないか」
足を踏み入れると、そこは広大な空間だった。
高い天井を見上げるみゅー。
「うわ、広っ。これ本当に地下?」
支える柱が奥まで何列も続いている。
各所に置かれたロウソクが、中央の祭壇をぼんやりと浮かび上がらせている。
「教会の真下だけに収まる広さじゃないね……。これはなんというか、地上とは、完全に別の空間だね」
「中央に祭壇があります。ここが祭祀場のようです。その前に、白い服の人影が一つ……」
俺たちの足音が届いているはずなのに、人影は顔をあげない。
祈り続けるような体勢で、微動だにしない。
「……ここには、強い祈りが残っているわ」
「聞いていた中心部……祭祀場なら、祭壇の前にいるのが祭司長だろう」
口に手を当てて人影を見る高城。
「……あの人は、もう生きていないわ」
見えるその手は……生者のものではない。
誰も、祭壇へ向かって次の一歩を踏み出さない。
「ダンジョンボスということか。話は終わりだ。夏、後方。みゅーは右へ。ボクが正面へ」
「はーい。回復も支援も、まだ回せるよー」
みゅーが右へ移る。
「りょーかい。京ちゃん、射線は空けてね」
「注文の多い後衛だね」
「ニーナ、乃々さんを頼む。リィンは俺の後ろから……祈力の流れをみて」
「分かった。レンリも前へ出すぎないで」
ニーナの白銀の髪がゆれる。
スローモーションのように。
祭司長が、ゆっくり右手を持ち上げた。
「……連理、祭司長が手を上げたわ」
乾いた喉の奥から漏れはじめる……ささやき。
祭司長の掌に金色の光が集まり、何かが収束していく。
「京ちゃん! バチバチいってるよ!」
電気が走る音のような響きが、地下に反響した。
まずい。
直後。
高城の声が、その場を動かした。
「全員、散れ!」




