第94話 猛攻、そして……
天井を覆う金の光が、無数の細い線へ分かれていく。
祭壇の近く……白い衣服の屍者が両手を組んでいた。
干からびた喉から漏れる声は途切れ途切れだが、祈りの言葉だけは崩れない。
「浄化……撃ち払う光……流れる一線は……衝撃を生じよ……眩む……貫く……」
リィンが何かに気づいた様子で呟く。
「……これは《アクティナシア》。広範囲の祈跡よ」
「アクティナシアぁ!? って、あれ全部落ちてくるの!? 逃げる場所ないじゃーん!」
「リィン、どんな《祈跡》?」
「……見たまま、天井から光を降らせる術よ。貫いた場所へ、衝撃まで広がるわ」
広範囲……ほぼ地下の祭祀場全てだ。
先ほどまでの祭司長の祈跡攻撃は詠唱も聞こえないほど短い、簡易的な攻撃だったということ。
今回は本気だ。
「まかせろ。ボクが受けられる分を受ける。みゅーは落ちる前に減らせ」
「耐衝撃使ってるー。でも、あの数を全部は受けきれないよー」
夏の瓶から広がった魔力は、まだ装備を包んでいる。
高城が盾を上げ、みゅーと夏はその後ろへ。
俺はリィンの前に立つ。
「乃々さん、ニーナのそばにいて。リィンへ抜ける光は俺が受ける」
「ま、このぐらいだったらふせげる」
ニーナの声。
同時に鳴動する……地下の柱。
「来ます! 天井を埋めていた光が、一斉に落ちます!」
キィン、キィン!
高い音を立てて祈跡が発動していく。
「ぐっ!」
高城の盾へ何本か突き刺さり、重なった衝撃に体全体が押される。
その頭上では、みゅーの砲撃が落下中の光を次々と砕いていた。
俺は《燻り火の剣》で弾く。
リィンはその度に「きゃっ」と小さく声を出した。
「盾越しに腕まで来るな。だが、まだ……!」
「京、次はもたないよー。腕まで壊す前に離してねー」
「京ちゃん、それ以上は無理! 盾ごと持ってかれるよ!」
「分かっている。気をつける」
「大丈夫。ののは傷つけさせない」
続いた光が盾を貫き、金属片が弾ける。
高城の盾の悲鳴を聞いて、ニーナが踏み込んだ。
「仕方ない……《結晶盾》ちょっと強く」
広い範囲に白い結晶が広がり、頭上を覆った。
「すごっ……全部止めた!」
音と衝撃が消えた……。
だが。
「神なる……応え……。汝……牙……剣に。仇為すもの……止めよ……。光……万象を繋ぐ影……」
光は一本の剣となり、祭司長の前に浮かぶ。
「……封光の剣」
「……封印の祈跡よ! ニーナに飛んでいく……」
ニーナの足元に突き刺さる光の剣。
外れた……?
「む」
ニーナの周りに渦巻いた魔力が弱まり、だんだんと消えていく。
「魔力を集められない。盾も消えちゃった」
「くっ……祭司長め! 魔力の中心を選んで封印したか!」
唇を噛む高城。
「ニーナ、大丈夫だ。ちょっと休んでてくれ」
「うん。ニーナはレンリを信じて待つ」
しかし、祭司長はすでにこちらを見据えて、詠唱と祈りをはじめている。
「神なる……御手よ。五つに分かれ……光の槍となれ……。祈りを阻むもの……貫け……」
祭司長が手を挙げる……あれは。
輝く槍だ。
巨大な光の槍が次々に生まれていく。
「危険です! 猛攻を仕掛けて、こちらが防戦してる間に詠唱を……」
乃々さんが叫ぶと同時に、五本の光槍が一斉に放たれた。
「日野枝連理! ここは任せろ! 今のうちに何か!」
「高城、大丈夫なの!?」
「任せろと言ったら任せろ!」
「わ、わかった!」
「みゅー! 魔砲だ!」
最初の一発を高城の盾が弾いた。
ギィン!
「ぐっ!」
「ダメです! 高城さんの盾が!」
ひび割れていく……。
祭司長の放つ光の槍が、高城の盾を残骸へと変えた。
「だいじょーぶ! 連理っち! 任せてよー!」
「助かる! みゅー!」
みゅーの砲撃が光槍を相殺した。
今しかない。
俺はアノマリーケースに手を突っ込んで、急いで引き抜く。
「《刹那の種》! そして……」
ランスのような形へツタを絡ませていく《刹那の種》。
「《刻の縫い針》!」
「ツルと花が槍の形で止まりました。でも、震えはどんどん強くなっています! これは!」
「火種ちゃん、槍の先へ。表面に火をまとわせて!」
「ひー!」
小さな火がツルでできた塊を燃やし、炎のランスを形作った。
祭司長も早い。
すでに次の槍を準備している。
「……次の光が来るわ。祈力を操っても、止められない」
「止めなくていい。ここから先は、俺の槍で……全て受け止める——行くぞ! 《火尖槍》!」
針が手元へ戻った瞬間、止められていた成長が前へ解放された。
以前より巨大な炎の槍。
十分だ。
炎の槍先と光の槍先が正面から向き合う。
五つの光槍とぶつかる《火尖槍》。
が、祭司長の祈跡は光となり霧散し、衝撃音とともに消えた。
それでも《火尖槍》は止まらない。
「連理っち、抜いた! そのまま行っちゃえ!」
「祭司長まで——貫け!」
《火尖槍》は白服を貫き胸元に大きな穴を開けた。
「ウゥゥゥ!!!」
通った。
はじめて祭司長に一撃を加えた。
痛みはないはずだが、大きく後退する。
「よく通した! 勝機だ! ボクが直接狙う!」
「京、耐衝撃かけといたー。踏み込むなら今だよー」
身をひねった祭司長へ高城の剣が入る……屍者が片膝をついた。
屍者の指がまた胸元で組まれていく。
そして消えた。
「消えた!?」
「高城! さらに奥だ!」
何かの祈跡の力で瞬間移動した祭司長。
動きを止めず、また祈りの体制をとっていく。
「浄化……撃ち払う……光……」
再び、詠唱が広い地下で反響した。




