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第83話 ややこしや〜


 《工場砦》の正式クリアで条件は満たしたが、Ⅳ級になるには昇格処理が必要だ。


 ダンジョン管理機構の一室。


 千紘さんは俺の正面から端末をのぞき込み、残っている三か所を指先で示した。


「連理くん、残りは三か所。ここ、ここ、最後にここを確認してね〜」


「最後って聞くと安心するね」


「連理さん、さっきもそれで安心してましたね」


 確かに。


 隣に座る乃々さんの言葉に返すことができない。


「さっきは本人確認の最後。これは昇格処理の最後だよ」


「最後が何回も来るんだね」


「連理さん、《工場砦》を出た時より疲れてません?」


「身体はあっちの方が疲れたけど、こっちは別のところが疲れるね」


 事務系の申し込みは昔から苦手だ……。


 どうやら魂に刻まれているらしい。


 探索者と会ってもいないし、魔物に追われてもいない。


 それなのに、似た文面を読み比べていると、目の奥が重くなる。


「もう少しだから頑張って〜」


「その『もう少し』も、今日よく聞いた気がする……」


「今度は本当だよ〜」


「千紘さん、信じますよ?」


「信じて。お仕事だから、ね」


「それを言われると信じるしかないね」


 最後の確認欄に触れると、一覧の下に並んでいた未確認の印がすべて消えた。


 内容を上から確かめ、申請を送信する千紘さん。


「はい。全部確認できたよ。これで申請はおしまい」


「本当に終わった……!」


 乃々さんが両手を胸元で握る。


「……確かに、疲れたわ」


「飽きたー飽きたー」


「リィンちゃんとニーナちゃん、子どもみたいですねー」

 

 申請者の俺よりも、終わりを待ち望んでいたらしい。


「ダンジョンのクリア表示を見た時みたいな安心感があるね」


「じゃあ、本物の表示も出すよ〜。……更新完了」


 テーブル脇の公式端末が光り、俺の探索者情報が壁面モニターへ映し出された。


 等級欄にあった『Ⅲ級』が消え、新しい文字へ切り替わる。


「『Ⅳ級昇格』。おめでとう、連理くん!」


「出ました……! 連理さん、本当にⅣ級です!」


 乃々さんの声を聞きながら、モニター中央の文字を見つめる。


「おおー」


「……進歩というのはいつも嬉しいものね」


 自分の名前の横で、『Ⅳ級』の文字が光っている。


 ニーナもその文字を静かに見上げていた。


「うん。条件を満たした時より、今の方が実感があるね」


 向かい側では、リィンもまっすぐ画面を見ていた。


「……目指していたものに到達したのね」


「そう。やっと届いたよ」


 実感をともなって感情が動き始めた……気がする。


 Ⅲ式ダンジョンを四つもクリアして……なんとかここまで来た。


「少し休憩する〜?」

 

 その光をもう少し眺めていたい気持ちもあったが、俺には確認しておきたいことが残っていた。


「その前に、一つ聞いてもいい?」


「なあに?」


「これで、前に話してた特例任務候補にも進めるんだよね」


「うん。覚えてたんだね〜。条件はもう揃ってるよ」


「えっ、もう次に行くんですか?」


 昇格の文字と俺を交互に見る乃々さん。


 千紘さんは迷う様子もなく、公式端末へ新しい項目を呼び出した。


「行ける時に進めちゃおうか。……はい、こっちも反映されたよ〜」


 『Ⅳ級昇格』の下に二段目が加わり、千紘さんが新しい項目を読み上げる。


「『特例任務候補』だね」


 その文字にも一段目と同じ光が入っている。


「まだ昇格のお祝いも終わってませんよ!?」


「お祝いしながら進めようね」


「手続きが終わった途端、急に速くなったね」


「それと、もう一つ。こっちはまだ取得前だからね〜」


「取得前?」


 続いて三段目が現れる。ただし、その文字は灰色のままだ。


「『特認クラン相当』」


「……名前からして、急に重いです」


「これはまだ取ったわけじゃないよ。公式特例任務で実績が認められたら、その先に進めるの」


「じゃあ、今は『特例任務に参加できる』ところまでなんだね」


「そう。特認クランは現在六クラン。そうなれば特認クランダンジョンにもいけるし、今よりももっと色々広がってくるね」


 達成したもの、参加資格を得たもの、まだ届いていないもの。


 三つが同じ画面に並んだことで、現在地と次に進む場所がはっきり見えた。


「ただ、実績を作る機会なら、もうあるよ」


「もう?」


「うん。連理くんたちに出せる公式特例任務が一件」


「今日は本当に次が来るのが早いね」


「Ⅳ級になるまでは出せなかった話だからね〜。かなりレベルの高いダンジョンになるし」


「どんな任務なんですか?」


 千紘さんが次の資料を開く。


 いくつもの担当街区に分けられた区画図と、参加形式、攻略条件が並んだ。


「複数のクランが参加して、それぞれ担当街区を攻略する任務だよ」


「複数のクランで、街区を分けて……それ、今までよりかなり大きな任務ですよね」


「そうそう。公式特例任務だからね〜」


 公式。


 ダンジョン管理機構が調査目的で行うということ。


 これまで見てきたダンジョン資料とは、最初から作りが違った。


「任務名は――《旧市街》」


 区画図が縮小され、その中央に任務名が大きく浮かぶ。


「……《旧市街》……不穏な響きね」


 リィンは資料を注意深くみていた。


 参加手続きの欄を開き、俺の方へ端末を向ける千紘さん。


「候補入りしたからって強制じゃない。どうする、連理くん?」


 『特認クラン相当』だけは、まだ灰色のまま残っている。


 俺は《旧市街》の参加確認欄を見て、千紘さんへ顔を上げた。


「受けるよ」


 そう力強く、応えた。


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