第76話 すなー!
パァン!
乾いた銃声が響き、魔力の弾丸が俺のつま先をかすめた。
見上げると、高所の通路に複数の探索者が並んでいた。
全員が魔銃を構え、中央の踊り場に立つ男だけが銃口から煙を上げている。
「止まれ。この先は俺たちが押さえた。通行料は、ここまでに拾った報酬全部だ。払えないなら、そこで下から見上げていろ」
「俺たちは奥へ行きたいだけだよ」
「誰が交渉していいと言った?」
男が魔銃を振ると、左右の銃口へ青白い光が集まった。
「伏せて!」
俺は乃々さんの肩を抱え、大きな機械の陰へ飛び込んだ。
直後、連続する銃声。
魔力弾が鉄板を激しく叩き、大きなへこみをつくった。
機械の上を抜けた弾が背後の配管へ穴を開け、白い蒸気が噴き出す。
「右へ回れ! その機械の裏を取れ!」
頭上で足音が鳴る。
早い……!
手すりの切れ目から魔銃が見えた。
「見つけたぜェ!」
撃たれる……と思った時。
ニーナが両手を広げた。
「《結晶盾》」
透き通った結晶が俺たちの頭上へ広がり、飛び込んできた魔弾を受け止める。
「こいつ!! 魔法か!」
結晶の表面で青い光がはじけた。
続けて同じ場所へ弾が刺さり、白い亀裂が広がっていく。
「同じところを狙われてる。長くはもたない」
割れかけた結晶を見上げたまま、魔力を送り続けるニーナ。
「レンリが出るまで、残す」
「ありがとう。タイミングを探してる」
結晶の盾の下で、全員が固まる。
このまま待っても、勝機はない。
「……上から撃つことしか考えていないわね」
「あちらの探索者が上の通路を移動しています! こちらを挟むつもりです!」
右の階段で靴音が鳴った。
降りてくるのではない。
途中の踊り場に並び、こちらの側面へ銃口を向けている。
「見えたぞ! 撃ち込め!」
俺は《燻り火の剣》を抜き、駆けた。
発射された魔力弾が刃にぶつかる。
斬断され、二つになった弾丸が消えていく。
「こいつ!? 魔弾を斬りやがった!?!?」
次の弾までは短い。
けれど、同時ではない。
「出たぞ!」
高所通路の銃口が一斉にこちらへ向いた。
駆ける。
放たれる魔弾。
階段まで、あと……もう少し。
「上を取らせるな! 足を撃て!」
踊り場の男が叫び、長い銃身を手すりの上へ置いた。
「《結晶星》」
ニーナの声と同時に、背後から魔法が飛ぶ。
結晶の塊が敵を狙った。
「魔法が来る! 場所を変えるぞ!」
男は舌打ちし、さらに上の踊り場へ続く階段を駆け上がった。
男がいたところに大穴を開ける……ニーナの魔法。
「階段が壊れやがった! リーダー! そっちにはいけねぇ!」
「どのみちアイツも来れねーよ! 大丈夫だ!」
白い蒸気の上から身を乗り出し、俺へ魔銃を向け直す。
俺は階段の途中で足を止めた。
男の頭上には、もう誰もいない。
前に使った時は、狙った盾兵ではなく、上の足場にいた弓兵へ落ちた。
今は違う。
この区画で、一番高い場所に立っているのは、あの男だ。
「狙い撃ちだ!」
モヒカンの男が声を出す。
俺は《雷帝の指輪》をはめた右手を、頭上へ向けた。
「《雷帝の指輪》!」
ズガン!!
工場の天井を揺るがす雷鳴。
魔力が走り、青白い稲妻が最上段の踊り場へ落ちる。
「ぎゃーーーー! 突然雷すなー!」
しびび〜! という文字が浮かんだ。
モヒカンが逆立ち、全身が明滅する。
コミカルなガイコツが見え、光った。
目がぐるぐる渦巻きになって、口から煙を吐いて倒れる。
人相手でもギャグ描写になるのか……!
でも威力はギャグじゃない。
「リーダー!」
銃撃が止まった。
その隙に、俺は階段を駆け上がる。
他の探索者も……無力化しなくてはならない。
「近づけるな!」
一人が我に返り、階段の上から魔銃を向けた。
「もう遅いよ」
引き金が動くより先に、銃身を真っ二つに切り裂く。
「次は後ろ……っと」
背後で銃声が鳴る。
振り返ると、階段を上がってきたリィンが儀仗杖で銃口を押し上げていた。
弾は天井へ外れ、相手の両手から魔銃がねじり落とされる。
「……まだ続けるの?」
もう一人が銃を向けようとしたが、その横ではニーナが手を広げている。
「レンリばっかり狙いすぎ」
魔銃が床へ落ちた。
残った探索者たちも、リーダーと俺たちを見比べ、銃口を下げる。
俺は指輪をチラつかせた。
「ひぃ! やめろ! 通れ!」
使っても当たる保証はなかったが。
効果は十分だった。
「最初から、それだけでよかったんだけどね」
俺が剣を鞘へ戻すと、乃々さんが遅れて通路へ上がってきた。
「配信、途切れていません。落雷も、そのあとの接近戦も、全部入っています! すごい! 見せ場でしたね!」
『なんかしびび〜って文字出たぞw』
『ガイコツ! なんだあれ!』
『指輪が外したんじゃなくて、一番高い奴へ正直だったのか』
『髪まで一番高くなってる』
火種ちゃんが、倒れたリーダーの逆立ったモヒカンのそばまで寄っていく。
「ひー?」
「火種ちゃん、もう大丈夫だよ。多分……死んではいないはず」
倒れた男の仲間が壊れた階段をよじのぼり、呼吸を確かめた。
「リーダー! 呼吸はある……」
「大丈夫ですかー! 大丈夫ですかー!」
「あなたはAEDを持ってきてください!」
「AEDは多分いらねーよ! 急いでおろせ!」
どうやら死んではいないらしい。
ダンジョンでは地上の法は適用されない……が、寝覚めが悪くなるところだった。
「よかった。じゃあ、俺たちは先へ行くよ」
《雷帝の指輪》は何となく使い方がわかった。
だが、わかったのと使いこなすのは別だということにも気づいた。




