第75話 また宝箱からなんか良い物出たーーー!!
「では、ボクたちは先へ進む。中々できるじゃないか。評価を変えなくてはね」
高城は装備を整えると、通路の先へ身体を向けた。
みゅーと夏も、その両脇へ並ぶ。
「分かった。みんながいてくれて助かった。ありがとう」
「礼は結構だ。ボクたちは当然の働きをしただけだからね。君たちも、気をつけることだ」
言い終えるより早く、みゅーが高城の肩越しに大きく手を振った。
「じゃーね、連理っち! またよろしくね!」
「連理っち……えーと、よろしくねみゅー」
「みんな、気をつけてねー。ニーナちゃんは、ちゃんと休んでねー」
夏に声をかけられ、ニーナは眠たそうな目を指でこすった。
「少し眠いだけだから、大丈夫。三人とも、またね」
「……あなたたちも、気をつけて」
「ありがとうございました!」
三人分の足音がコンベアの陰へ遠ざかり、機械の駆動音に紛れた。
「……静かになったわね」
「さっきまで七人いたからね。俺たちも進む前に、隊長戦の跡を確認して――」
言いかけたところで、乃々さんが俺の横を抜けた。
「連理さん。隊長が消えた場所の奥、何かありますよ……これは宝箱の匂い!」
何に使うかよくわからない機械の隙間から、くすんだ金具がのぞいていた。
「何か……影に金具が見える。まわりは木製……。あれは……木箱だね」
背筋をのばす乃々さん。
《フライ》が翼を広げ、床近くの箱を正面から映す。
「木箱です! 気づかないところでしたが、木箱ですよ! やったー!」
『報酬か?』
『久々の木箱w』
『高城たちが帰った直後w』
『今度は何が出る?』
ニーナの目が、箱を見つめたまま開いていく。
「さっきまで眠かったけど、宝箱を見たら少し目が覚めた。近くで見たい」
「木箱の効き目が早いね」
火種ちゃんは木箱のそばで身を揺らしている。
「ひー!」
乃々さんは木箱の前でゴホン、と一つ気合を入れるように咳払いをした。
「それでは——本日の木箱です。低級素材、低級ポーション、壊れた小物などが主な排出候補です。期待しすぎないでください。私は期待しています!」
「周りに動く敵はいない。開けるよ」
「ニーナも期待してる。レンリ、開けて」
留め金を外し、フタを持ち上げる。
隙間からあふれた紫の光が、配管の並ぶ天井まで照らした。
木箱の中央には、小さな輪が一つだけ収まっている。
「紫です! 木箱から、またSランクが出ました!」
「ひー!」
『紫きたあああ!』
『またSランクw』
『指輪!?』
『木箱が強すぎる』
「なにー!」
「……楽しみね!」
ニーナとリィンが宝箱に顔を突っ込む。
そして声をあげた。
「指輪!」
「……指輪!」
指輪?
割と宝物らしいものが出たな。
「端末に読み込ませてますが……うーん……多分、既存アノマリーではないですね」
指輪を手の上で転がしながら、不思議そうに見つめるニーナ。
「銀色の指輪。中で、魔力が動いてる。レンリ、少し借りる」
「お願い」
魔力が流れていく。
銀の輪が、その手の中からわずかに浮いた。
「《宝具解放》」
「指輪の周りに、青白い稲妻が走っています……!」
稲妻が収まると、ニーナは指輪を目の高さまで持ち上げた。
「真名は、《雷帝の指輪》。魔力を込めると、いちばん高いところへ雷を落とす。ただし、物や生き物みたいなちょっと落ちやすそうなところに落ちる」
「強力ですが、かなり癖のある効果です……!」
「またの名を——《高い所へカミナリング》」
ニヤリ……。
決まった……的な顔をするニーナ。確かにちょっとわかりやすい。
『高い所へカミナリングw』
『今回はうまい』
『正式名より覚えやすい』
『でも使いにくそう』
指輪を受け取り、右手の指にはめる。
「あと能力がまだある。《雷帝の指輪》は当たった対象がギャグ展開みたいになる」
「どういうこと……?」
歩きながら説明を聞いていると、乃々さんが立ち止まった。
「あ、あそこ……ちょうどよくコボルトがいますよ」
コボルト盾兵が一体、こちらへ盾を向け警戒している。
一体だけ……何してるんだろうか……。
そいつの頭上には金網の足場が渡されていたが、見える範囲に別の影はない。
「先の通路にコボルト盾兵が一体いる。頭上の足場は空いてる。だから……当たるよね」
俺は盾兵へと足を進め、指輪へ魔力を送った。
指輪から魔力が流れ、それは段々と大きくなる。
「《雷帝の指輪》!」
銀の輪を青白い稲妻が包んだ。
「《雷帝の指輪》、初使用です! 連理さんが魔力を……」
ズガン!
轟音が配管を震わせた。
「ギャウッ!」
頭上で金網が鳴る。
盾兵も上を見上げた。
あれ?
「上の足場に弓兵! 陰から出てきました!」
「今、そこへ出てくるのか……」
見ると、弓兵は雷撃を受けて両手を開け、頭をアフロみたいにしている。
ガイコツが点滅して、わかりやすくなんかギャグ漫画みたいな……!
「ひー!?」
「弓兵に直撃! 全身が真っ黒です! 毛が逆立って、目を白黒させ、口から煙を出したまま倒れました!」
焦げた臭いが足場から漂い、弓兵は光になって消えていく。
「狙った相手は違ったけど、雷はちゃんと一番高いところへ落ちた。指輪的にはたぶん満足してる」
「使う側は、かなり納得できてないけどね」
「あっ、最初に狙った盾兵は無傷です! でもびっくりして逃げて行っちゃいましたね」
『配慮演出みたいになったな』
『上に出た瞬間黒こげ』
『威力は本物』
『仕様に忠実すぎる』
『なぜギャグ漫画的演出にw』
近づいてきたリィンが、倒れた弓兵のいた足場を見上げた。
「……強いけれど、味方が高い場所にいたら使えないわね」
「周りにいる人と高さを確認できる時だけ使おう。威力が高い分、間違えた時が危ない」
乃々さんはコメント欄を追い、こらえきれない様子で口元をほころばせた。
「コメント欄では、もう《高い所へカミナリング》の方が定着しています!」
「ふふ。ニーナがつけた名前の方が強かった」
「そこで正式名に勝とうとしなくていいと思う」
俺は指輪を外さず、その先へ続く工場砦の通路を見る……。
通路を抜けた先に気配。
その時。
ダァン!
銃声と共に、辺りに緊張が走った。




