第72話 また何かグレートだぜが出たーーー!!
「では、開けましょう。銅箱です!」
「乃々さん、さっきまで緊張してた分、声が弾んでるね」
「宝箱の前まで持ち越さないようにしています」
「切り替えが早い」
《フライ》が銅箱の正面へ回り込む。
俺の隣にしゃがみ、箱の中をのぞこうとするリィン。
反対側で、フタが開くのをじっと待っているニーナ。
「いくよ……!」
留め金を外し、重いフタを持ち上げた。
中から青い光が漏れる。
「あ、Aランクです!」
『宝箱キターーーーーー!』
『Aランクwすごすぎるw』
『何この人たち、どゆこと』
『新規だとビビるよな』
コメントも流れが早い。開ききった瞬間、少女?たちが顔を突っ込んだ。
「みるー!」
「……なにかしら!」
ニーナとリィンが真っ先にのぞき込む。
謎の同調感だ……。
「クシ!」
ニーナが取り出す。
収まっていたのは、細かな装飾が施された一本のクシ。
どこから見ても、髪をとかすためのクシ。普通の。
「クシですね」
「戦闘のあとの報酬だから、武器か防具が出ると思ってた」
ニーナが少ししょんぼりする。
「戦闘報酬でも、武器や防具が出るとは限りませんからね!」
「宝箱に詳しい人が言うと、説得力があるね」
クシを手に取るニーナ。
「でもまだわからないです……既存アノマリーにもクシはありますが……明らかに大きい、クシ型の武器ですね」
なんだそれは……そんなものもあるのか。
思っていると、ニーナが手をかざす。
「《宝具解放》」
魔力の光が集まり、クシが輝く。
「真名は《偉大なるクシ》。髪をとかすと、その人にいちばん似合う、威厳のある髪型になる。すんばらしいクシだよ」
「威厳のある髪型……ですか?」
「そう。またの名を《グレート・クシ》」
「なるほど! そのまんまですね!」
「えーっと……そう」
なんかそんな感じのプロレスラーがいた気がする。
「……髪をすぐセットできるのは素晴らしいわ。宝物ね」
リィンは長い金髪の毛先をつまみ、そこへ視線を落とした。
「使ってみる?」
「……お願いしてもいい?」
「では、リィンちゃん。根本から少しずつとかしますね」
乃々さんがリィンの背後へ回った。
長い巻き髪を片手で支え、根本から少しずつ金のクシを通していく。
クシの歯から金色の光が移り、リィンの髪がひとりでに動き始めた。
「わぁ……通すたびに、まだ触れていない髪までゆるっと持ち上がって、流れを変えていきますよ」
左右に広がっていた巻き髪は、金の髪飾りを中心に均等に分かれた。
額にかかる細い髪は頬の輪郭に沿っており、肩へ落ちる毛先は黒紫のドレスの上へきれいにそろった。
幼さの残る顔立ちは変わらない。
「リィンちゃん、すごいです! 本当に、長い眠りから目覚めたお姫様みたいです。すごくかわいいです!」
「実際に長い眠りだったみたいだけどね」
乃々さんが端末の画面をリィンへ向けた。
画面には、《フライ》が正面から映したリィンの姿が映っていた。
アップになったリィンの顔を見て、さらにコメントの流れが早まる。
『かわいいいいいい』
『リィン様〜』
『神の眷属かな?』
『そら封印もされる』
リィンは画面の中の自分を見つめ、肩へ流れた巻き髪に触れた。
「……髪をとかれるのは、少し懐かしい気がするわ」
「何か思い出せそうですか?」
「……まだ。でも、きっと幸せな思い出なのね」
乃々さんはそれ以上尋ねず、残りの髪を最後までとかすと、クシを髪からそっと離した。
「今日は、それだけでも十分だよ」
リィンはつまんでいた毛先を離し、小さく頷いた。
「……かわいいというのは、威厳があるという意味なの?」
「少し違います。今のリィンちゃんにとてもよく似合っていて、見ている私まで嬉しくなる、という意味です」
「……それなら、悪くないわ」
リィンの口元が、ほんの少しだけ上がった。
乃々さんが《偉大なるクシ》を俺へ返そうとすると、ニーナが先に受け取った。
そのまま、俺の方に振り返って笑う。
「次は、レンリ」
「威厳が必要そうに見えた?」
「そうじゃなくてレンリのも、見たい」
リィン一人で効果を判断するより、もう一人試した方がいい。
そういうことにして、ニーナに任せた。
数分後、俺の前髪はきれいに上げられ、横の髪も後ろへ流れていた。
「あはは!」とニーナ。
耳も額もすっかり出て、さっきよりずっと真面目そうに見える。
目は細いままだったが、今までの感じよりもなんとなく……威厳がある、気がする。
「ふふ」
乃々さんが俺と、端末に映った姿を見比べた。
「連理さん、王様というより村長です!」
「異世界では村人だったから、王様よりは近いかな」
「……似合っているわ。見ていると、何か……安心する」
「ありがとう。威厳より安心感が出たみたいだ」
ニーナも俺の正面へ回り、しばらく髪型を眺めた。
「レンリは、村長。あはははは」
こんなに笑っているニーナは初めてだ。ツボに入ったのか?
「二票入った。村長で決まりらしい」
俺は村長らしい髪型のまま、《偉大なるクシ》を乃々さんに手渡した。
「それじゃあ、高城たちを追おうか」
戦闘区画を出ようとしたとき、前髪を上げた額に冷たい風が当たった。
風は、工場の奥へ続く正面通路……《オブリージュ》が向かった方向から吹いてきたものでは、ない。
壁に並んだ棚の横あたりから……。
「額が寒い」
「威厳の代償ですか?」
「たぶん、前髪を上げた代償かな。あっちから吹いてる気がする」
風の出所を確かめようと、棚の脇へ回った。
隙間をのぞこうと壁に手をついた瞬間、その内側で、がこん、と留め金の外れる音がした。
「あ! 連理さんが何かを破壊しました」
「あーこわしたー」
「……レンリ、壊したのね」
工具棚が横へずれて……
「あれ?」
俺は思わず声を出した。
現れたのは小さい通路。
『ココ! 秘密の抜け穴♡』と書いてある。
その下には、《工場砦》の区画図……マップがある。
「な、なんですか……これは?」
よく見ると……マップでは、正面通路は設備や運搬通路を避けて大きく迂回していた。
「この《秘密の抜け穴》は設備の裏側をまっすぐ抜けて……同じ次の区画へつながる構造をしてますね。このマップを信じるなら……」
乃々さんが正面通路と、現れた秘密通路を交互に見た。
「これ……サイズ的にコボルト達の裏通路じゃないですか?」
「確かによくわからないところから出てた」
「そうだね。突然湧いてきたりしたのはもしかして……」
「これ! 秘密ルートですよ! 次のエリアへの!」
乃々さんが興奮し飛び跳ね、ニーナとリィンがウキウキしながら続く。
「これが村長の力……!」
「……村長は、工場でも強い力を発揮するのね」
「村長効果なのかな……」
だが前髪を上げていなければ、額に当たる風には気づかなかった。
高城たちが正面通路を進む一方で、俺たちは銅箱を開け、髪を整え(?)、そのおかげで近道まで見つけた。
「髪を整えたことが、攻略にまでつながりました! 《偉大なるクシ》は本当に偉大です!」
その時「はっ!」という表情をしたあと、ニーナが不敵な笑みを浮かべた。
「かクシつうろ……ってね」
「…………」
「…………」
「…………」
先に出た《オブリージュ》を追いかけるはずが、この《秘密の通路♡》なら、向こうより早く次の区画へ着くかもしれない。
村長らしい髪型も、もう少しだけこのままでいいかも……いや、どうかな。
なんとかなれーッ!伝われー!
と思って書きました




