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第71話 一発しかないんすよ〜特別弾は予算外なんすよ


 舞い上がった粉塵の向こうで、鉄扉が天井まで上がりきった。


 奥にいたのは、新たなコボルト部隊。


 先頭の大柄な一体が、両腕で大型銃を抱えている。


 銃口から白い煙が上がり、砲身は赤く焼けていた。


 間違いなく……さっきの巨弾を撃った銃。


 大柄なコボルトが大型銃を床へ落とした。


 その左右から大盾兵が進み出て、通路をふさいで並ぶ。


 盾の後ろには、斧を構えた兵が隙間なく詰めている。


「銃は一発だけみたいです。でも、今度は部隊ごと押し込んでくるつもりです」


 細い通路では、盾の列を横から抜くこともできない。


 白兵戦か……。数が多い。


「正面はボクが受ける。夏、補助を頼む。みゅーは左右を狙え」


「京ちゃん、その盾、さっきからずっと働いてるっぽいけどぉ」


「持ち主に似て優秀だからね」


「壊れそうなところもー?」


「夏」


「直しまーすー」


 夏の修復アイテムの光が亀裂へ走る。


 中央の盾兵が盾の縁を床へ打ちつけた。


 左右の兵も続き、重なった金属音とともに盾の壁が前へ動き始める。


「いくぞ!」


「ウガァァ!!」


 高城が一歩踏み込み……先頭の大盾が正面から受けた。


 散る火花。


 群がるコボルト部隊。


 左右から加わった圧力に、高城の靴底が石床を滑った。


「いっくよ〜!」


「みゅーさんが魔弾を放ちました!」


 ギャリギャリギャリ!


 しかし、砲撃は大盾を少し破壊しただけで、戦列は動かない。


「前だけ止めても、後ろが押してきますね」


「足元を崩すよ」


 俺は《刹那の種》を大盾兵たちの手前へ投げた。


 床を割ったツルが、盾と兵たちの足首へ絡みつく。


「ウガゥ!」


 それでも盾兵は止まらない。


 大盾の重みでツルを踏み潰し、隙間から振り下ろされた斧が残った茎を断ち切っていく。


 まさしくゴリ押し、という形で迫ってくる兵士たち。


 これは生半可な攻撃では破れそうにない。


「ニーナ、大盾だ。魔法で薙ぎ払うように大盾にダメージを与えたい」


「わかった」


「ただ出力は抑えないと、ダンジョンが崩壊する。気をつけて」


「え?」


 え? 今気づいたのかな? 不安すぎる!


 思っていると、ニーナが盾兵へ右手を向けた。


 すらり、銀とも白とも言える輝く髪が流れ、魔力を纏う。


「結晶の光の名の下に……答えよ。其は波動。其は凪。其は放たれる」


 詠唱を聞きながら、高城に声をかけた。


「高城、タイミングを合わせて退がれる?」


「ボクに退けと言うのかい?」


 高城は盾兵に囲まれながら叫んだ。


「ニーナの魔法はかなり高威力で制御が難しいんだ」


「なら、最初からそう言いたまえ! ボクごと焼かれても困る!」


 高城が大盾を斜めに振り抜き、中央のコボルトを押し止める。


 その反動で通路の端へ身を引いた。


「とっても弱く……《閃光》!」


「ニーナちゃんの魔法! 薙ぎ払っていきます!」


 レーザーのような魔法……大盾兵たちが順番に魔法を弾いていく。


 押すために詰めていた隊列が、そのまま逃げ場を失った。


「こっちはまかせろ!」


 高城は通路の端で盾を構え直し、大盾の横から回ろうとするコボルトを押し戻した。


「こっちも大丈夫だよ〜!」


 みゅーの魔砲光弾が反対側の隙間をふさいだ。


「さて……仕上げだ。《刹那の種》!」


 俺は新しい《刹那の種》を頭上へ投げた。


 殻が割れる直前、空中の種へ一本しかない針を打つ。


「《刻の縫い針》!」


 種が空中に縫い止められた。


 閉じた殻の継ぎ目から光が漏れる。


 止められても成長を続ける力……それが行き場をなくして内部へ溜まっていく。


「ウガァァ!」


 動きを止めた集団から、一本の斧が飛んできた。


 回転する刃が種へ届く前に、リィンの儀仗杖が柄を横から叩いた。


 斧は軌道を外れ、地面へ転がる。


「……あの種には、触れさせないわ」


 ちょうどその時、種の力が最大限まで押し留められた。


「よし。針が戻る……行け! 《反咲き》!」


 押し込められていた成長が、敵……コボルト部隊へと爆発する。


「花の槍が射出されます!」


 太いツルが絡み合い、硬く閉じた花弁を先端にして大盾兵に突き出された。


 先頭の兵の足が床から浮き、その背を押していた斧兵まで巻き込まれた。


 密集していた部隊が、ひと塊のまま……貫かれた。


「部隊ごと押し返しています!」


 伸び切った花の槍が、横薙ぎに。


 大盾と斧がまとめて弾け飛び、押し潰された部隊が光へ変わった。


 花と葉が床へ落ちる。


「やったか……一度はどうなるものかと思ったがね」


「良かった。高城たちも頑張った」


「精霊に褒められる日が来るとはね」


 静かになった戦闘区画の中央で、床の継ぎ目が四角く開いた。


 ビィーーーン。


 低い駆動音とともに現れたのは、銅色の金属板で補強された宝箱。


「銅箱です!」


 乃々さんが呼吸を荒くする。


 高城は銅箱を見たあと、傷ついた大盾を夏へ預けた。


「銅箱か。その箱はキミたちが開けたまえ。ボクたちは先へ進む」


「共闘で手に入れた報酬なのに、いいの?」


「倒したのはキミたちだ。ボクは結果に見合う取り分を知っているんだよ」


 ふぅ、と一息ついて彼は続けた。


「それに、ボクたちには時間がない。ここがどういうダンジョンになるか、不確実だからね。時間は宝箱より重いのさ」


「分かった。箱はありがたく開けるよ」


「京ちゃん、宝箱を譲れるんだ? 大人になったねぇ」


「みゅー、ボクを何だと思っている? ボクはずっと大人だ」


 みゅーはこちらに近づいて耳打ちした。


「あれは多分、本当はすんごい開けたいの我慢してるんだよ」


 俺が返す前に、先に進んだ夏が声を上げた。


「みゅー。置いていくよー!」


「はーい!」


 《オブリージュ》の三人は、コボルト部隊が守っていた通路へ入っていった。


 足音が遠ざかっていく。


 先を選んだ高城たちと、銅箱の前に残った俺たち。


 どちらがいい取り分だったのかは、まだ分からない。


 ただ、乃々さんはウキウキで目に宝箱の光を映しながらしゃがみこんでいた。


「連理さん。私は、今のところこちらでよかったと思っています」


「開ける前から?」


「宝箱は全てを解決します!」


 確かに、俺たちは宝箱に助けられてきた……それは本当。


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