第70話 さまよえる黒い銃弾
ベルトコンベアの駆動音、続けて流れてくる単発銃。
そして、乾いた銃声がダンジョンに反響した。黒い銃口が一斉に火を噴く。
高城は盾を正面に据えたまま、背後の二人へ視線も向けずに指示を飛ばした。
「盾の後ろへ。夏、備えろ。みゅーは正面の射線を潰せ」
「京、被弾したら回復すぐ入れるねー」
「京ちゃん、真正面で受けない方がよくない?」
弾丸が盾へ食い込み、弾ける……金属音と火花。
「分かっている。隙を見てたたみかける」
高城が盾を傾けると、弾道が斜めへそれ、背後の鉄壁に深い穴を穿つ。
「ここだ!!」
敵は単発銃だ。
高城は撃ち終えたコボルトの懐へ入った。
「いっくよ!」
合わせるように、みゅーの魔砲が左側を薙いだ。
光り輝く魔力の光線が放たれる。
誰も合図を待っていない。
判断が早い。
「こっちも動こう!」
ニーナの《結晶盾》が銃弾を封じ込めていて、俺たちは無事だった。
駆ける。
コボルトに剣を浴びせると、隊列がどんどんと崩れていく。
『連携きれい』
『高城の盾えぐい』
『みゅー魔弾変えてる』
『夏くんの支援が途切れない』
「《閃光》」
ニーナの魔法が中央のコボルトたちを光に変えた。
単発銃がベルトコンベアを流れて来るとはいえ、間髪なく弾が飛んでくるわけではない。
一息つく頃にはコボルトの集団はほとんど消え去っていた。
「三人とも、合図を待っているように見えなかったです。お互いが何をするか、最初から分かっているんですね」
「純粋な連携攻略って感じだね」
「見ていて、きれい」
ニーナが呟く。俺はため息を吐いた。
「うん。俺たちは、だいたい宝箱が予定を壊すからね」
「壊すというより、予定表にない欄を増やしてきます」
高城の剣が最後のコボルトの銃身を下から打ち上げた。
銃が回転して床へ落ちるより早く、コボルトが袈裟に切られ、光となって消えていく。
「これが訓練された攻略だ。運任せでは再現できない」
「うん。普通に強かったよ」
「まったく君は張り合いがないね」
「京ちゃん、褒められて不満なの?」
みゅーが笑った直後、区画の奥で甲高い笛が鳴った。
ピィィィィィィ!
先ほどのコボルト部隊は、もう一体も残っていない。
先の区画……新しく現れたのは、防護面をつけた大柄な体のコボルト。
「コボルト小隊長というところでしょうか……?」
大柄なコボルト……コボルト小隊長は壁にあった赤いレバーを下げた。
床下の歯車が唸り、小隊長側にあるコンベアが速度を上げた。
「コンベアが速度をあげました!」
壁沿いのコンベアを、黒い銃が一丁だけ流れてくる。
「ウガァ!!!」
黒い銃が、小隊長の手元まで運ばれる……すると、大きな手がそれをつかんだ。
さっきまでの短い銃とは違う。
銃身も銃床も黒く、先端には杭のような弾丸が一本、装填されていた。
「京ちゃん、あれ貫通弾!」
発砲音が風切り音を立てて飛ぶ。
「ぐっ!」
高城は大盾を斜めにして受けた。
黒く太い弾丸が盾の右端を削り、金属板を突き抜ける。
貫通した弾丸は高城の肩越しにいた夏へ飛んだ。
「夏、伏せて!」
「ニーナ!」
俺は思わず叫んだ。
「《結晶盾》」
ニーナの盾が横からのびて、夏の前を塞ぐ。
黒い弾丸が透明な結晶の塊へと突き刺さった。
白い亀裂が一気に広がる。
弾頭は結晶の半ばまで食い込んだところで、ようやく止まった。
「うわ、あっぶねー! ありがとうー!」
「ニーナ、ありがとう。良かった……」
「止められた。でも、あれはとっても危険」
「助かった」
高城が短く告げ、ひびの入った大盾を構え直す。
「京ちゃんがすぐ礼言った」
「良いから、早くあの敵に魔砲を撃つんだ」
「はいはい」
構えて、みゅーは魔砲を放った。
巨大な魔弾が小隊長へと向かう……が。
ガイン!
音を立てて、魔弾は見えない何かに弾かれた。
「げっ、なんか効かないんだけど!」
「対魔法系のバリアが張られてるよー。アイツやるなー」
夏が遠くを見る仕草をしながら、ため息を吐いた。
その間に小隊長は撃ち終えた銃を床へ捨てる。
「一発撃つたびに、装填済みの銃へ持ち替えるつもりですね……!」
コンベアには、次の黒い銃が流れている。
小隊長は受け取り口からそれをつかみ上げると、また高城へ銃口を向けた。
正面から受け続ければ、かなり危険だ。
「乃々さん、コンベアを止める方法は見える?」
「待ってください。壁に『供給ラインに手を入れるな』とあります! その下には、歯車に手を挟まれた絵もあります。機械を直接止めるのは危険です!」
「……銃は、あそこから一本ずつ出てくるわ」
リィンが指したのは、小隊長のすぐ右にある受け取り口だった。
「……機械を止めなくても、あそこから銃が出てこなければいい」
「なるほどね。じゃ、出口の手前で銃だけ止めよう」
「そんな細工をしている間、誰があの弾を受けるつもりだい?」
「高城が一番うまい。時間を作ってもらえる?」
高城が俺を見る。
盾には亀裂が入り、取っ手を握る右手から血がにじんでいた。
それでも口元だけが、少し上がる。
「ボクに盾役を頼むとは、いい度胸だ」
「一番できる人に頼んだだけだよ」
「夏、盾を補強するアイテムを頼む。みゅーは撃つ直前の銃を狙え。意識をそらすくらいにはなるだろう」
「修復薬使うよー。これ高いから、あとでちゃんとおごってねー」
「まーウチも仕方ないけど、撃ってみるね」
「ニーナも最低出力で目くらましする」
高城が床を蹴り、小隊長との距離を詰めた。
杭のような弾丸が放たれるたび、盾が後ろへ押し戻される。
次に小隊長が新しい銃を構えると、みゅーの魔弾が放たれた。
「ウガッ!」
射線がそれ、黒い弾丸が天井の配管を貫く。白い蒸気が噴き出した。
「《刹那の種》!」
俺は小隊長の付近へと、《刹那の種》を投げる。
コンベアの終わりのあたりに咲き、膨らむ、花々と枝。
次に流れてきた黒い銃だけが、幾重にも重なった花へ突っ込んだ。
花が銃身と銃床を包み、受け取り口へ出る前に取り込まれていく。
撃ち終えた銃を捨てた小隊長が、空の受け取り口へ手を伸ばす……が。
「ガウア!?」
その大きな手が、何もつかめずに止まった。
「供給が切れたぞ!」
「行ってくる!」
高城の声に応えながら、俺は駆けた。
見えた……大柄なコボルトが花の中から無理矢理銃を引っ張り出している。
「ウガァ!!!」
小隊長は黒い銃を棍棒のように振り上げたが……《燻り火の剣》を銃身へ叩きつけ、その手から弾き飛ばした。
「断ち切る!」
止まらずに、正面から縦に一閃——。
斬断されたコボルト小隊長の体は光に変わり、あとには撃ち捨てられた黒い銃だけが残った。
『魔法封印とかコボルト強い』
『とっさの考えにしてはかなりすごい』
『小隊長、一刀両断!』
『高城たちもナイス!』
コンベアの駆動音と工場の音が重なり、耳に響いた。
「供給設備を壊さず、受け取り口へ来る銃だけを止めたか。正規訓練ではまず教えない手だが、結果は認めるよ」
「京ちゃん、それ普通に褒めてるじゃん」
「見たままを評価しただけだ」
ふん、と鼻を鳴らす高城。
態度は態度だが、手から血を流すほど盾で守ってくれたのは彼だ。
「高城が前で止めてくれたから、種を蒔く余裕ができた。ありがとう」
「借りにするつもりはない。必要な能力を、必要な場所で使っただけだ」
「それなら、俺も同じ考えかな」
その時。
ビィー! ビィー!
奥の鉄扉が、警報音を立てはじめた。
そして突然……閉じられた鉄扉の中央が内側から大きく膨らみ……歪んだ。
「何か来る! 退避しろ!」
高城の声を聞いて、全員が通路の両側へ飛び退く。
直後、鉄扉を突き破って、砲弾ともいえる弾丸が飛び込んできた。
「気をつけてください! 巨大な弾丸です!」
俺たちがいたところに巨大な穴を開け、遅れて届いた轟音が床と胸の内側を同時に揺らした。
「……今のは、さっきの銃ではないわ」
「扉の奥からです。撃った相手は、まだ見えていません」
舞い上がった粉塵の向こうで、高城が傷ついた盾を正面へ戻した。
「やるね。このダンジョンはかなり歯応えが良いらしい」




