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第65話 スライム祭りじゃー!


「ヴォォォォォォォォ!!」


 スライムドラゴンの咆哮。


 ダンジョンの最奥、長い階段上の祭壇。敵は空中に高く飛び、大きく翼を広げた。


 その瞬間、粘体の塊が飛び散った。


「なんでしょう! 広場に落ちた塊が膨らみはじめます!」


「スライム……?」


「動いてるね。スライムの群体だ」


 スライム……しかも、たくさんのスライムたちが波たつ身体を震わせて動きはじめた。


「ぷるるるー!」


 床を弾み、不定形な状態で、こちらに押し寄せてくる。


「小さいの、こっちにたくさん来る」


「ニーナ、防げる?」


「とりあえず《結晶盾》」


 ニーナの盾が広がった。


 結晶の縁が石に食い込み、押し寄せる小型スライムを止める。


 けれど、相手は水みたいに形を変える……数匹が横方向へと薄く伸び、滑り込んでくる。


「ひー!」


「こっちは俺が斬るよ!」


 俺は《燻り火の剣》を叩きつけた。剣の刀身から、火が生まれ、さらに広がっていく。


「《残火》!」


 床を走った火がスライムたちを焼く。


 焼けた粘体が弾け、透明な粒になって広場へ落ちた。


 だが、終わらない。


 燃え残った粘体が細かく震え、互いへ寄り、また丸い形を取り戻そうとする。


「焼けたあとも動こうとしています! 完全には止まりませんね……」


「まだ来るみたい」


「……一匹ずつ払っても追いつかないわ!」


 そこにスライムドラゴンが尾を振り……落とす。


「ヴォアァァァ!」


「あぶないです!」


 間一髪で全員が散ると、すぐにスライムドラゴンは飛行し、体勢を整える。


「このままだとラチがあかない」


 ニーナの言う通りだ。


 まさしく波状攻撃。スライムは本体と同じく耐性もあり、数で来られれば、いつかは必ずやられる。


 その時。


「……広場の外側、星の紋様が青く光っているわ。あそこから祈力の流れがスライムたちにつながってる」


 リィンの声が沈黙を割いた。


 なるほど……スライムを動かしているのはスライムドラゴンではない……スライムドラゴンはあくまで粘体を吐き出しているだけ。


「このスライムたちは……つまり、本体と同じ仕組みで動いてる?」


「……ええ。あの刻印が残っている限り、粘体はまた形を取るわ」


 《フライ》の映すコメント欄がいつもより早く流れていく。


『足元多い』

『一匹なら雑魚魔物なのに!』

『本体だけ見てると詰む』

『火種ちゃん狙われてる』


「本体の再生を促せば、スライムの数は減るはずだよね。リィン、その間にいける?」


「……やってみるわ」


 俺はアノマリーの手袋を付け直した。


 ニーナが《結晶流星》を放ち、スライムを破壊しているのが見える。


 勢いが減っている……今だ。


「火種ちゃん、いける?」


「ひー!」


「よし。竜化してくれるかな。とりあえず《竜炎》をスライムドラゴンに。そして、タイミングを見計らってもう一発できたら嬉しい」


 俺は火種ちゃんに手をかざした。


「《竜化の手》!」


 続いて、すさまじい光。魔力が渦巻き、炎が燃え盛る。巨大な炎の中から紅蓮の竜が現れた。


「グオオオオオオオ!!」


 巨大な竜となった火種ちゃんの全身がより明滅し、口元に火弾が生まれた。


 スライムたちはそれを見上げている。


「《竜炎》!」


 巨大な火弾が胸へと向かう。


 スライムドラゴンは意識外から放たれた火弾を見た……。


 直撃した瞬間、粘体の竜の身体が崩れる。


 だが、魔法石は粘体の奥へ沈み、火弾は青い竜の体表面を大きく焼いて弾けた。


「魔法石が奥に入りこみました! やはりこれだけでは流石の火種ちゃんの炎でも届きません……!」


「当たった。でも……足りない」


 ニーナが唇を噛む。


 火種ちゃんの身体が小さくなった。撃てる回数は少ない。


「スライムが来ます!」


 青い竜を守るように、スライムたちが一気に飛び込んできた。


 斬らずに剣で跳ね飛ばす。


 リィンの近くには近寄らせない。


 しかし……ギリギリだ。


「……ここね」


 リィンが儀仗杖を地面へと叩きつけた。


 走る……金色の光。


「ヴォアーーーー!!!」


 何かを感じ取ったか……スライムドラゴンは咆哮した。


 リィンが放った祈跡が星の紋様へと向かっていく。


 パァン!


 破裂音が広場に広がった。


「スライムたちが弾けていきます! これを狙ってたんですね!」


 スライムたちが震え、次々に粘体が弾け飛んでいく。


 ひとつ、またひとつと各所でスライムたちが弾けていった。


「……小さいスライムの光が切れた。本体の回復も間に合っていないわ」


「効いています。本体も再生できず……あ! 落ちます」


 スライムドラゴンが地に足をつけた。崩れたその姿は巨大なスライムの塊といったところだ。


「今、チャンス。魔法石狙い撃ち」


「火種ちゃん、小さくて良い。胸元の魔法石まで届くような……道を作って欲しい!」


「グオオオオオオオオオ!」


「……召喚陣に残った祈跡も抑えるわ。多分これで、再生を弱められる」


「魔法石反応、胸部。さっきより浅いです!」


 ここしかない。


 リィンが再生を抑え、火種ちゃんが胸を焼く……その後を狙う。


「《竜炎》!」


 小型だが威力は衰えていない火弾が、薄くなった胸へと放たれた。


 貫く。


 スライムドラゴンの魔法石周辺が裂け、赤色の輝きが小さく露出した。


 奥へ続く穴。それが一瞬だけ……開いた。


「魔法石が露出しました! でも塞がりますよ!」


「《刹那の種》!」


 俺は焼けた穴へ《刹那の種》を投げ込んだ。


「種を中へ……!」


 動きを止めず、もう一つのアノマリーを放つ。


「《刻の縫い針》」


「種、止まった」


 青い竜……今や巨大なスライムと化した粘体の中で、種の時間だけが止まる。


 再生が止まらず、焼いた穴は完全に塞がっていく。粘体が集まり、種を押し潰そうとする。


「……胸が閉じるわ。魔法石の手前まで粘体が戻っている」


「大丈夫だよ……《反咲き》!」


 針が戻り、止めていた成長が解かれる。


 槍のように尖ったツルが粘体を裂いて伸びる。半透明な体の中を緑の筋が走り、魔法石へ向かう。


「中から伸びた。間に合った」


「魔法石に届きます!」


 魔法石へと花とツルが伸び、槍先が魔法石を貫いた。


 バギィという音が粘体を超えて響く。魔法石に亀裂が走った。


「ひー!」


 元に戻った火種ちゃんが声を上げた瞬間、魔法石が砕けた。


 スライムドラゴンの体が光になって消える。


 床の粘体も、スライムの残りも、広場の上から消えていった。


「魔法石、破壊を確認。スライムドラゴン、消滅していきます」


 俺は息を吐き、ふわふわと飛ぶ火種ちゃんを見る。


「火種ちゃん、ありがとう。それに……なんかみんなで頑張ったね」


「火種ちゃん、がんばった」


「……召喚陣の光が消えていく……終わったのね」


 空の星が一度だけ瞬き、広場は静けさを取り戻す。


「正式クリア……やりましたー! ……連理さん、皆さんすごいです!」


「これで、条件は?」


「Ⅳ級昇格条件に必要なⅢ式ダンジョンクリア、残り一つですよ!」


「あと一つ」


『正式クリアきた!』

『竜炎から反咲き、強い』

『内側から咲くの気持ちいい』

『残り一つ!』


 光を失った召喚陣の中心に、宝箱が静かに現れていた。


「来ましたよ! クリア報酬です」


「箱、来た」


「……星の下の箱、綺麗ね」


「開けよう。ここまで来た報酬だから」


 呼吸を深くすると、どこか夏の匂いがした。


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