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第60話 夏祭りが呼んでいる


 提灯が並び、長い階段の左右には屋台。


 そして……浴衣?


「皆さん、《星降りの祭祀場》の夏祭りフェノメノン領域です! そして! 何故か服装が浴衣に変わりました!」


 光り輝いて道が開いたあと、突然みんなの服装が浴衣に変わっていた。


 魔力で構成された衣装。


 何故なんだ……。


 俺の隣では、リィンが浴衣を気にしている。紫の帯で小さな星飾りが揺れている。


「……この服、少し慣れないわ」


「浴衣だね。急がなくていいよ」


「……それなら、レンリの隣がいい。転ばずに歩けるから」


 リィンは当然のように俺の裾を掴んだ。一方、ニーナは火種ちゃんを見ている。


「火種ちゃん、提灯みたいで似合ってる」


「ひー!」


 火種ちゃんも特別フォーム?に変わっていた。


「すーすーする」


 ニーナは白と青の浴衣。乃々さんは明るいオレンジ色の浴衣だ。俺は暗い茶色の浴衣で、ちょっと渋い。


『浴衣助かる』

『リィンちゃんかわいい』

『火種ちゃん提灯扱いw』

『夏祭りフェノメノンはじめてみた』


 最初の屋台へ向かう途中、たこ焼きの屋台があった。


 湯気とソースの匂い。芳しい、たこ焼きの匂いだ。


「……レンリ、これは何?」


「たこ焼き。もらって良いのかな?」


「罠じゃない、と思う。罠じゃないことにする」


 ニーナの言葉を信じて、並んだたこ焼きの舟を一つ、リィンに渡す。


 爪楊枝で一つ割ると、中から湯気が上がる。リィンは慎重に口へ運び、すぐに眉を寄せた。


「……熱い。けれど、美味しいわ」


「リィンちゃん、気をつけてくださいね。浴衣にソースがつくと大変です」


 リィンは皿の残りを見た。


「……もう一つ食べたいから、冷めるまで待つの」


「うん。無理しない方が、おいしく食べられる」


 焼きそば、たこ焼き……。


 寄り道を終えると、おみくじの屋台が見えた。


「コン!」


 箱の上には小狐が座り、おみくじをくわえている。


 屋台の脇には、消えた小さな灯籠があった。


「次は……おみくじ屋台です。この小狐は魔物? それともフェノメノン?」


「……占いを運ぶ小さな獣、かわいいわ」


 その時、何も書いていなかった値札に文字が表示された。


《一本ずつ引くべし》


「一本ずつ引くべし……? なんでしょうか?」


「……ルールか何かかしら」


 俺は小狐を見つめた。可愛い。おみくじ箱の上でニコニコしながら木札をくわえている。


「札をくわえてる。普通のおみくじとは違うね」


「ちょっと引いてみましょうか。一本だけ……引きます……あ、小吉」


 木札が光り、俺の足元で硬い音がした。


「レンリ、足元に何か落ちたよ」


「一ゴールドだ。ちゃんと小さな吉が来た」


「……小さくても、もらえるとうれしいわ」


「リィン、嬉しそう」


「……ふふ。小吉って小さな幸せのことなのね」


 リィンはそう言いながら、落ちた一ゴールドを微笑みながら見ていた。


『小吉で一ゴールドw』

『リィンちゃんかわうぃい』

『小狐かわいい』

『占いがすぐ現実になるの面白い』


「ニーナが引く!」


「あ、凶です」


「きょうー!」


 ニーナが変な声をあげた。


「……あっ、たこ焼きが」


 ニーナが引いた札が黒く光った。同時に、リィンの皿の上でたこ焼きが端へ転がる。


「取れた。小さな凶で済んでよかった」


「たこ焼き、無事」


 今度はリィンが木札を受け取る。そこには、短く文字が出ていた。


「……待ち人来る」


「向こうから小さい魔物、来た。待ち人じゃないけど」


「俺もそう思う。ゴブリンだね」


「でもこの屋台的には待ち人なのかもしれないです」


 石畳の奥から小さな魔物……ゴブリンが数匹走ってきた。


 俺たちへ襲いかかるかと思ったが、屋台の前で止まり、きちんと列を作る。


「魔物たち、おみくじに並び始めた」


「自分で引いてる。凶、転ぶ、迷子、また凶」


 札を引いた魔物がその場で転び、別の魔物は屋台の裏へ迷い込む。


 小狐は明らかに困っていた。


「……占いに負けているわ」


「コン……」


 しょんぼりしながら、小狐は箱の中に消えていく。


「あ、おみくじ屋台の灯籠が点きました! 遊ぶこと自体が条件になってたんですかね?」


 もしかしたらもっと酷いことになっていたのかもしれない。


 ラッキーと、いえるだろうか。


 そう考えていると、屋台の脇にあった灯籠へ、ぽっと火が入る。提灯とは違うなんともいえない金色の火だった。


『待ち人多すぎw』

『ゴブリンが自分で凶を引くな』

『自滅フェノメノン』

『小狐が一番困ってる』


 階段を歩き次の踊り場に出る。


 次の屋台では、白いわたあめが屋根より大きくふくらんでいた。


「次は、わたあめ屋台です。あの大きさは、もう商品ではありませんね!」


「わたあめニーナより大きい。ふわふわしてる」


「多分魔物なんじゃないかな? スライム系?」


 先ほどと同じく値札に文字が現れる。


《食べごろの大きさにせよ》


 食べごろ……?


 途方もない大きさだけど。


「……これは、食べられる大きさではないわ」


「切れってことかな?」


 リィンが近づく……と、突然。


 その白い塊が、リィンの服に触れた。動いている。


 そこからどんどん増殖して……増えていくわたあめ。


「……レンリ……あっ」


 リィンがバランスを崩し、俺の方に身を傾けた。すると、わたあめがくっついて……。


 リィンと俺はわたあめに身体を包まれる形になった。


「動けなくなっちゃったね」


「……うん」


 リィンの肩が触れる……柔らかい肌の感覚があったが、現在、わたあめスライム?に包まれ中。


 割とピンチなのでは?


「……祭りでは、こうして近くを歩くのね」


「転ばないため、ということにしておこう」


『くっついた』

『浴衣でこれは強い』

『リィンちゃんの距離感が近い』

『わたあめ有能では』


「甘い雲、悪いスライムじゃなさそう。でも、べたべたする」


「隣にボールすくいがあります。水を使えます! わたあめなら、濡れれば縮むはずです」


 乃々さんがボールすくいの水を器ですくう。


「水をかけますよ!」


「……平気よ」


 水を感じて火種ちゃんが逃げる。


「ひー!」


 そして、勢いよく俺たちの全身に水を浴びせる乃々さん。


「……冷たっ!」


 水が飛んだ瞬間、リィンの肩が小さく震える。


 何度か水をかぶると、わたあめは水を吸って一気にしぼみ、白い塊が手のひらほどになる。


「わたあめ、しょんぼりした」


 ニーナが指先でつつくと、わたあめはぽんと弾んで屋台の奥へ逃げた。


「たべちゃうぞー」


「しぼみました! あ、これが条件だったんですかね」


 二つ目の灯籠が輝き、金色に点灯する。


「わたあめ屋台の灯籠も点きました。二つ目、達成です!」


 二つの明かりの間を魔力のような光が走った。


「大丈夫? 浴衣、濡れすぎてない?」


「……少しだけ。レンリが気にしてくれるなら、悪くないわ」


『冷たっ!かわいい』

『水でしぼむの分かりやすい』

『リィンちゃん……』

『灯籠二つ目!』


 三つ目の屋台は射的。


 棚には星の飾りや玩具の杖が並び、店主らしき小さなゴブリンがにやにやしている。


 《大当たりを落とせ》


 また値札に現れた文字。


「大当たり……あからさまですね」


「あのにやにや。あやしい……」

 

 奥に《大当たり》と書かれた白い札が立っている。


「……星の……飾り、きれいね」


「あれを狙ってみるよ」


 射的銃から放たれたコルク弾は、星の髪飾りの中央に当たった。


 けれど、星型の飾りは傾いただけで倒れない。


「当たりましたが、景品は落ちません!」


「もう一度、角度を変えるよ」


 狙いを変えても、結果は同じだった。二発目の弾は景品の手前に落ち、ぺしゃんこになっている。


「……二回とも当たったのに、倒れないわ」


「弾が当たった瞬間につぶれています。これでは、景品を倒せません! ずるい!」


 拾い上げると、コルクには深い切れ目が入っていた。


「最初から割れやすくしてある。命中しても、押す力が残らないんだ」


「ぎぎー!」


 ゴブリンが、あざ笑うように銃口を指さした。


「当てたのにハズレ扱いです! ずいぶんな屋台ですね」


「当てられても倒れないと分かっているんだね」


 ゴブリンは胸を張り、チッチッチと指を振った。


 棚の一番奥に立つ《大当たり》の札。


 条件は確か……。


「《大当たり》を狙う」


「でも、コルクは弱いままですよ?」


 景品の間へ銃口を合わせ、引き金を引く。


 コルク弾が狭い隙間を抜け、《大当たり》の札を倒した。


「ぎゃっ!?」


 同時に景品棚の留め金が外れ、棚がゴブリンの方へ傾いた。


「あ。景品が全部落ちます」


 星飾りや玩具の杖に続き、大当たり景品の巨大な箱まで落ちてくる。


「ぎゃー!」


 巨大な箱がゴブリンを下敷きにした。


 箱の下から短い両脚だけが出て、床を叩いている。


 三つ目の灯籠に火が入り、リィンの足元へ飾りが転がってきた。


「……取れた」


「景品も取れて、灯籠も点いた。大成功だね」


 リィンが星の飾りを持ち上げると、火種ちゃんがその周りを嬉しそうに回った。


『当たり札を撃つのかよw』

『リィンちゃん良かったね!』

『屋台側が全ロスしてる』

『飾りゲット!』


 三つの灯籠から伸びた光が地面を走り、階段の上に立つ柱へ集まった。


 辺りの輝きが増していく。


 祭囃子のような音が遠ざかり、意識できなかった階段の上が目に入った。


「頂上が意識外にいってた。秘匿されてたんだ」


「……遊び場の奥に、祈る場所が隠れていたのね」


「あ! 大変です。先の踊り場に宝箱が……銅箱です!」


「クリアした。そして宝箱もでた」


 ニーナの満足気な表情を見ながら安堵する。


「夏祭りに参加してたらクリアできたね。危険がなくて良かったよ」


『連理さんの何かでは?』

『また宝箱きたああ』

『このクランは期待しかない』

『祭壇まで出たああ!』

『星の髪飾りつけた浴衣リィンつよい』


 輝きを放つ銅箱へ、俺たちは歩き出した。


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