第55話 なんか、ちょっと大きいらしい
読んで頂き、ありがとうございます!
第二部からでも読めることは読めると思います!よろしくお願いします!
目に映るのは、白い壁と宝石の台座。
Ⅲ式ダンジョン《色彩の檻》の最奥。
ガラスに映る……自分の顔。
細い目に黒髪黒服……はっきり言って目立つ方ではない。
「このダンジョン、綺麗だった」
そう言う少女……ニーナは整った顔だちで色素が薄い。
銀に近い白の長髪。ドレスのような、美しい衣装。
「美術館と昔の宝物庫が混ざったような……そんな感じでしたね」
濃いクリーム色というか茶系のなんとも言えない色味の髪色……安曇乃々さんだ。
くりくりした瞳は小動物を思わせる。っていうよくある表現が似合う。
「本当に展示室って感じだ。オークション会場にも似てるね」
「すごいです。床まで色ガラスで、壁の白さが更に宝石を目立たせてます」
その時、ピキ……という音ともに中央の展示にヒビが入った。
あれは……巨大な鳥の……剥製?
「中央の展示、ヒビが入っています」
「ひー!」
「火種ちゃんも反応してるね」
「綺麗なガラス。でも……割れてく」
透明なガラスが砕けた。
「クォォォォォーーー!!!」
虹色の翼を持つ鳥が、光の破片を散らして舞い上がる。
胸の辺りで魔法石が強く光っていた。
「生きてた……!?」
「あれは《極彩鳥》! 《色彩の檻》のランダムボスです!」
弱点……魔法石は見えている。けれど、見えている弱点ほど守りが固い……はずだ。
「あそこへ魔力が集まってるね」
「魔法石、魔力吸収しやすくしてる」
『ニジクジャ……』
『美術館ボスきた』
『胸の魔法石光ってる』
『魔力溜めてね?』
「《刹那の種》!」
小さな種から巨大なツルや花を生み出すアノマリー《刹那の種》。
投げられた種から、ツルが空へのびていく。
その時。
「クァーーーーーー!!!」
《極彩鳥》が咆哮する。
「あ! 青と赤のブレスが放たれました! 聞いてたけど、実際見るとやはり怖い!」
色彩のブレス。
赤色と青色の光線が、《極彩鳥》のクチバシから放たれた。
飛行しながら、ツルを狙って撃っている。
赤色の炎が花弁を焦がし、青色の冷気がツルを固める……すると、次の瞬間には、《刹那の種》は粉々に砕けて消えていく。
「普通に伸ばすだけじゃ……ダメだね」
「ひー?」
「あのブレスは……どうにかできないかな」
ニーナはちょっと自信ありげに微笑んだ。
「ニーナ、できる?」
「やってみる」
ニーナの周囲に、魔力が集まっていく。
「結晶の光の名の下に」
白と青の粒が、彼女の指先の周りで渦を作る。
「答えよ。其は群星。其は撃。其は砕けて、色を拒む」
頭上に結晶のような魔力の塊がいくつも浮いた。
「空を裂き、流れよ」
魔力の塊が空中でひとつずつ鋭さを増していく。
ブレスを撒き散らしながら、こちらに飛来しようとした《極彩鳥》。
「降れ、《結晶流星》」
頭上の塊が一気に射出される。
「クァ!!!」
《極彩鳥》の赤と青の光線が、ニーナの魔力の塊とぶつかる!
「魔法と魔法がぶつかってます! ビリビリします! 皆さん見てますか!?」
魔力の光が展示室に散らばる。高性能の配信用ドローン《フライ》が映すホログラムがYouMove生配信のコメントを流していく。
『みてるー』
『結晶流星!』
『やっぱ詠唱よな』
『炎氷ブレスとぶつかった!』
『ニーナちゃん強すぎ』
『火種ちゃーん!』
『なんか衝撃まで伝わってくる』
「火種ちゃーん、みんな見てますよー!」
「ひー!」
《極彩鳥》は空中で動きを止めた……チャンスだ。
俺は再度《刹那の種》を握った。
「魔法石を狙え! 《刹那の種》!」
意識に呼応してのびるツル。
だが、《極彩鳥》は虹色の翼を胸に重ねた。ツルの先端は翼に弾かれ、綺麗な色ガラスにぶつかって消える。
そう簡単にはいかないか。
「翼で守りました。魔法石が見えていても、あのままでは通りません」
「見えてるだけじゃ駄目か」
その時、《極彩鳥》が高く鳴いた。
「クアァァァァァァ!!!」
大きく開いた翼の内側……再度魔法石へ魔力が集まるのが見える。
「金色ブレスです! あれは……!?」
《極彩鳥》から放たれた金のブレスはニーナの《結晶流星》を反射した。
跳ね返った魔力がこちらに飛んでくる。
幸い、狙いはつけられないのか、反射したニーナの魔法は周囲に落ちて穴を開けた。
「やる。そんなことできるなんて」
「ニーナちゃん、感心してますね」
「ニーナもあれ欲しい」
「飼いづらそうですね……」
しかし……なんとなく。
光が見えてきたかもしれない。
「ニーナ! もう一度魔法を撃てる?」
「でも跳ね返る。危ないかも」
「あいつの羽を開かせたい。すぐに乃々さんの前で《結晶盾》を出せば……なんとかなると思う。俺は自分でどうにかする」
ニーナは《極彩鳥》を見つめた。
「結晶の光の名の下に……答えよ。其は塊。其は撃。其は放たれる」
魔力を纏い、浮遊するニーナ。
「固まり、渦巻き、跳ねよ。ちょっと大きく」
巨大な魔力の塊が形成されていく。
「《結晶星》」
一気に放たれた。
「クァァァーーーー!!」
何回やっても無駄だ。
そう言うように声を上げた《極彩鳥》。
同時に金のブレスが放たれた。
魔力の大塊が金色のブレスに弾かれる……。
「ここだ」
火種ちゃんが映す影……床には開いた翼が映っていた。
胸を守る翼が、攻撃の直前だけ魔力を集めるために開く。
「ひー!」
「火種ちゃん、そのまま!」
「ひー!」
俺は濃くなった影へ狙いを合わせた。
「《刻の縫い針》」
《刻の縫い針》がのびた影へ突き刺さる。
《極彩鳥》は翼を開いたまま止まって……胸の魔法石だけが輝いていた。
『影縫い!』
『お!』
『火種ちゃんの光が仕事してる』
『魔法石丸見え!』
「!?!?!?」
混乱したように《極彩鳥》はその場で止まった。
あれは翼で飛んでいるのではない。
魔力で浮いている。恐らく《極彩鳥》は本当に剥製か何かなのだ。
「魔力が乱れて混乱してる。レンリ、チャンス」
《刻の縫い針》が針刺しに戻る。
まだ終わりじゃない。
翼を止めても、普通のツルでは足りない。ここで弱い攻撃を当てても、魔法石を砕かなければ意味がない。
俺は次の種を投げた。
「《刹那の種》」
ツルが《極彩鳥》の胸へ向かって伸びる。
しかしそこで止まった。
「《刻の縫い針》」
続けて投げた針が《刹那の種》を止める。アノマリーのエネルギーが内部に溜まっていく。
「ひー!」
「火種ちゃん、お願い!」
小さな火が、ツルの先端へ移った。
体勢を立て直し、羽ばたきはじめる《極彩鳥》。
「《刻の縫い針》の効果が切れます!」
針が手元へ戻った瞬間、止められていたツルが火をまとって伸びた。
「《火尖槍》!」
火の槍が《極彩鳥》の胸を貫く。
「————!!!」
巨鳥が理解したのは終わったあとだった。
バキィィィィン!
重い音を立てて砕かれていく魔法石。
虹色の鳥が光になって消えていく……。
『火の槍きた!』
『これ見たかったやつ!』
『火種ちゃん乗った!』
『魔法石割った!』
「みんな、大丈夫……みたいだね」
「大丈夫。《結晶盾》に《結晶星》ぶっささったけど」
「ひー!」
「やりましたよ、連理さん! Ⅲ式ダンジョン《色彩の檻》、正式クリアです」
全員が肩で息をしている……なんとか二つ目のⅢ式ダンジョンをクリアした。
ニーナが見つめる先には何もない展示台。
「あ、宝箱でた!」
しかし、その展示台の上に、銅箱が現れた。
「銅箱です。正式クリア報酬、確認しました!」
「銅ー銅ー」
「今回のダンジョンも大変でしたね! 連理さん開けましょう! チャンネル名《宝箱研究部》になってはじめての銅箱です!」
「今回は普通そうだね」
と言ったのも束の間。
「楽しみです。まぁ基本はそんなに使えるものではな……あれ?」
ザリ……。
展示台の宝箱……銅箱の表面にノイズのようなものが走った。
輪郭がぶれ、金属の質感が薄れていく。金属だったものが、画面の乱れみたいに歪んでいく。
「なんですか? これ???」
ノイズが消えたあと……展示台にあったのは……古びた木箱。
しかも、なんかちょっと大きい?
「今……銅箱、でしたよね?」
「ニーナは見た。あれは銅箱」
「でも目の前にあるのは木箱……木箱です!?!?」
乃々さんは興奮して混乱した様子で木箱を見つめた。
「出たあとで別の箱になるなんて、聞いたことありません!! しかもちょっと大きい気がしませんか!?!?」
『木箱!?』
『銅箱だったよな!?』
『また木箱かよ』
『連理さんの木箱は笑えない』
『ちょっと大きい』
『何が起こってる!?!?』
「ひー?」
戦闘の熱が、さっと引いていく感覚。
強い魔物を倒したあとの高揚ではない。宝箱を開ける前の期待でもない。最高に違和感のある木箱。
「ほ、本日の木箱です。低級素材、低級ポーション、壊れた小物などが主な排出候補です。期待しすぎないでください。私はちょっと怖いです?」
俺は木箱のフタに手をかけた。
「開けるよ」
木箱からあふれたのは……紫……いや違う……赤い光……?
「赤? 紫? 赤? 光の色が変わってます!」
「レア度、混乱してる」
乃々さんもニーナもあふれる光を見つめ「???」の顔を浮かべている。
木箱の中は……
宝石でも、武器でも、道具でも……アノマリーでもない。
そこにあったのは……。
「女の子?」
思わず声が出てしまった。
中にいたのは、黒紫のドレスを着た金髪の少女だった。
長い巻き髪は左右二つに縛られているように見える。その、小さな手のそばには、杖……彼女?は儀仗のようなものを抱きしめていた。
「女の子です」
「眠ってる」
「息はある。静かだね」
「ひー……」
『まーたやりおった』
『意味がわからんw』
『どうなってんだうわああ』
『人が寝てるんですよ!!!』
『寝てる?』
『木箱の中に女の子』
『ちょ、まてよ』
『人間? 精霊?』
『誰……?』
ピクリ。
少女の指が、わずかに動いた。
「今、動きました」
「静かにしよう。驚かせないようにしなきゃ」
金髪の少女のまつげが震える。
閉じていたまぶたが、ゆっくりと開いた。
夜みたいな紫の瞳が、木箱の中から俺を見つめていた。




