表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/66

第54話 誰が為に帰りましょうチャイムは鳴る


 灰火モール城クリア……。


 あれから何日か経った。


 高台の公園から、夕暮れの町が見えていた。


 ニーナと並んでベンチに座る。


 ひとつずつ明かりがついていく家の窓。伸びる道路には車のライトが流れる。


 帰ってきたんだ。


 そう思えるまでに、ずいぶん時間がかかった。


 異世界から戻った時、町は同じ形をしていたのに、俺だけが少し外側に残されたような気がしていた。


 正確には……世界は大きく変わっていたから。


 ダンジョン管理機構が管理する世界に。


 芝生の上を、火種ちゃんが低くふわふわ漂っていた。


 草には触れない高さで、小さな光が行ったり来たりする。夕暮れの芝生に、赤い灯りが小さく揺れた。


「火種、何か探してる」


 ニーナがしゃがみこむ。


 火種ちゃんは、芝生の一点を照らしたまま、少し明るくなった。


「四つ葉?」


「本当だ。よく見つけたね」


「火種、えらい」


 火種ちゃんが、褒められたのを分かっているみたいに、ぴょんと揺れる。


「戦う時も助かるけど、こういう時も見つけるのがうまいんだね」


「火種、すごい」


「うん。すごい」


 端末が震えた。


 乃々さんからのメッセージ。


『登録者数、52.4万人になってました』


 多いのか少ないのか、よくわからない。


『チャンネル名、今日変えます! nono0849から《宝箱研究部》に』


 今までそんな名前だったのか……つまり俺たちのクランに名前がついたわけだ。


 宝箱研究部。


『ジャンルも、個人配信から、ダンジョン配信・実況へ』


 やはり、よくわからないけど、何か重要らしい。


『色んなことがありましたね』


 俺は画面を見たまま、少し笑ってしまった。


「本当に、色々あったね」


「のの?」


「乃々さんから。チャンネル名を変えるって」


 ニーナが、俺の手元をのぞきこむ。


「宝箱研究部」


「うん」


「みんなの名前。ニーナも?」


「もちろん、ニーナも入ってるよ」


 ニーナは、少しだけ画面を見つめた。


「火種も?」


「火種ちゃんも入ってるよ。今もちゃんと見つけものをしてるし」


「見つけもの」


 ニーナがその言葉を小さく繰り返す。


 火種ちゃんは四つ葉の上をくるりと回り、得意げに光った。


「木箱を見てた配信が、ニーナが出て、火種ちゃんが来て、《清廉なる器》で《シラツユソウ》を持ち帰って、治療薬まで行って……」


 口にすると、思ったより多かった。


 一つずつは必死だったけど、並べてみると、不思議な気持ちになる。


「秘匿箱も」


「うん。最後に《エニグマ》まで出た」


 《エニグマ》は検査が終わって戻ってきた。


 結果は《不明》。


 千紘さん曰く「よくわからないけど、危ないものじゃないみたいだから、もっていて良いって。良かったね〜」だそうだ。


 それって結局大丈夫なのか?


 俺は空を見た。ニーナも一緒に見上げた。


 橙色のグラデーションに染まる空が、だんだんと夜の色に変わっていく。


「色々」


「本当にね。色々あったね」


 でも、今ここにあるのは、夕暮れの公園。


 芝生の四つ葉と、町の灯りと、俺の隣にいるニーナ。


 少し先で揺れている火種ちゃん。


 ダンジョンの中では、次の部屋、次の魔物、次の箱を考えていた。


 今は、帰り道のことだけを考えればいい。


 公園のスピーカーから、夕方のチャイムが流れた。


 遊具のそばにいた子どもたちが、親に呼ばれて走っていく。


 小さな自転車のベルが鳴り、犬を連れた人が坂道を下っていった。


「みんな、帰る」


「夕方だからね」


「ニーナたちも?」


「そうだね。一緒に帰ろう」


 ニーナは町を見下ろしたまま、しばらく黙っていた。


「前にさ。俺のこと、異世界の匂いがするって言ってたよね」


「言った」


「ニーナは、向こうのことも分かるのかなって」


「うーん……」


「覚えてることはある?」


「秘密!」


「そっか」


 ニーナは、俺ではなく夕焼けを見ていた。


 海に沈む光が、町の屋根を静かに染めている。


「レンリは、帰ってきて、うれしい?」


「うれしいよ」


 それは、迷わず言えた。


 でも、それだけでは終わらなかった。


「でも、たまに向こうの夕方を思い出すことはあるかな」


「さみしい?」


「少しだけ、かな」


 ニーナが、俺の顔を見た。


 それから、町の方へ目を戻す。


「でも一緒にいれる……いいこと」


「そうだね」


 もう一度、端末が震えた。


『変更、完了しました! 《宝箱研究部》、始まりました!』


 その下に、画像が一枚添付されていた。


 帰ってきた時に千紘さんが撮った集合写真。


 少し疲れた顔の俺。端末を抱えた乃々さん。俺の隣に浮かぶニーナ。ふわふわ浮かぶ火種ちゃん。


「いい写真だね」


 ニーナも画面をのぞいたまま、小さくうなずく。


「いい写真」


 俺は端末を閉じて、ポケットにしまった。


 その時、夕暮れ時刻を知らせる管理区域の音楽が鳴り始めた。


 帰りましょうチャイム。


 様々な所から音が返ってくる。


「ニーナも、帰る」


「帰ろうか」


 ニーナはベンチから降りた。


 町の明かりを見て、それから小さく言った。


「レンリ、帰る場所があって、嬉しい」


「うん。一緒に帰ろう」


 俺はもう、ただ戻ってきただけじゃない。帰る場所があって、一緒に帰る相手がいる。


 火種ちゃんの小さな明かりを先にして、俺たちは高台の公園をあとにした。


これで第一部は終わりです!

これから第二部になります!読んで頂きありがとうございます。これからも応援して頂ければ幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ