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第53話 カレーはなんでも合うけど……


 俺たちは《秘匿箱》の前に立っていた。


 玉座の間の奥……。


 戦闘が終わったのに、息はすぐには整わなかった。


「配信、このまま続けます……ついに特別フェアの報酬ですよ!」


「ドキドキするね」


「ひー……」


「火種ちゃんも見よう。功労者だ」


「ひー!」


『来た』

『秘匿箱開封!』

『アツい』

『紫くるか?』

『SR以上頼む』

『最後まで見る』


 宝箱に手を触れる。


 鍵穴の奥で、何かが噛み合う音がした。


 開ける。


 重そうなフタがゆっくり開いていく。


 ここまで来たなら、紫の光が出る。そう思っていた。


 けれど、漏れた光は紫じゃなかった。


「紫じゃ……ありません」


 あふれてくる……赤い光。


 宝箱から出たのは赤い光だった。


「知らない光。赤?」


「Sランクの光じゃない、ってことかな。でもこれは……何ランクなの?」


「…………」


 乃々さんはすぐに返せなかった。


「……わかりません!」


「え?」


「少なくとも、今までこの排出演出の光は……確認されてません! 赤なんて無いんです!」


『赤!?』

『紫じゃない』

『初めて見た』

『赤い報酬なんてあるの?』

『レア度どうなってる?』

『コメント速すぎる』


「赤い光のレア度なんて無いんですよ! なんでしょうこれ! なにこれ! 助けて!」


「のの、久しぶりにパニックになってる」


「と、とりあえず開けきるよ」


「箱の中ー!」


 フタを開けると、ニーナが首を突っ込んだ。


 そして……。


「なにこれ!」


 のぞき込む……前に宝箱から何かが浮き上がった。


 赤い光の奥から、黒いキューブが現れる。


 武器でも、防具でもない。


 手のひらに乗りそうな大きさなのに、妙に重く見える。表面には、細かな文字が刻まれていた。


「キューブ型……アノマリー、ですか?」


「キューブ? 箱じゃない? 箱から箱?」


 ニーナも困惑している。


「形だけ見ても、使い道が分からないね」


『黒いキューブ?』

『表面になんか書いてある』

『武器じゃないのか』

『レア度は……?』

『誰も知らない何か』

『赤い光の中から黒い箱みたいなの出た』

『これ普通の宝箱じゃなくない?』


「これは既存アノマリーじゃ、絶対ないですね」


 ニーナが黒いキューブへ手を向けた。


 指先の周りに魔力が集まる。


「《宝具解放》」


 だが。


 ニーナは、すぐに手を止めた。


「わからない」


「わからない?」


「真名が出ない。用途も、危険も、見えない」


「ニーナでも分からない?」


「文字はある。力もある。でも、読み取れない」


「ニーナちゃんが読めないアノマリー……」


「初めて。少し、悔しい」


「分からないって分かっただけでも大事だよ。無理はしなくていい」


「うん。でも、気になる」


「俺も気になる」


 こんなことは初めてだ。


 俺はキューブを手に取る。


 《フライ》が映すホログラムも急激に流れていく。


『ニーナちゃんが読めない!?』

『真名不明』

『用途不明』

『危険性も不明?』

『やばくねーかコレ』

『カレーに入れるやつじゃねえの』

『介入来るか?』

『情報量が多すぎる』


 黒いキューブがゆっくり回った。


 刻まれた文字が光の角度で浮かび上がる。


 俺は、その文字から目を離せなかった。


「この文字……」


「連理さん?」


「たぶん、俺はこれに似た文字を見たことがある」


「異世界のものですか?」


「うん。でも……似てるけど、違うね。何故だろう。けど、完全に知らない文字じゃない」


『異世界語!?』

『連理さん案件じゃん』

『宝箱から異世界文字』

『急に来た』

『名前は?』

『この黒キューブ何なんだ』

『カレーに入れるやつじゃねえの?』


 全部はわからない。一部は読める……けど。


 正確な意味はわからない。


「こっちの言葉と近い意味で言うと……これは……多分、《エニグマ》」


 ニーナが反応する。


「《エニグマ》」


「今のところ、それ以上に合う言葉が見つからない」


「よく分からないけど、分かった」


『エニグマ』

『聞いてもよーわからん』

『ニーナが読めないアノマリー』

『秘匿箱……本当に秘匿箱だった』

『いや、他の宝箱フェアはこんなこと起こってないぞ』

『灰の王も誰も知らないしな』

『次も見る』


 配信終了後、開いた金色の霧から出ると誰もいない《灰火モール城》だった。帰還ポイントから帰ると、千紘さんが俺たちを迎えた。




          ◇




 それから数時間後。


 外に出ると、梅雨明け前の夜風は少し湿っていた。


 遠くで虫が鳴いて、街灯の下に小さな羽虫が集まっている。


「終わったんですね。やっと……」


「うん。長かったけど、ちゃんと終わった」


「エニグマ、千紘が持っていった」


「検査にかけるって言ってたね」


「結果待ち、ですか」


「今日は、そこまででいいと思う」


「ひー……」


「火種ちゃんも、お疲れさま」


「ひー!」


 千紘さんはどうにかする……って言ってたけど、大丈夫なのだろうか。

 

 今はまだ……待つことしかできない。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!第一部完……次回です!よろしくお願いします。

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