表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/64

第46話 割ーっちゃったーいーけないんだー


「レンリ」


 巨大な氷の斧刃が、床を裂き、いまにも動き出そうとしている。


 ニーナが俺の方を振り向き、短く聞いた。


「《竜化の手》、つかう?」


「そうしようと思ってた」


「うん。《竜化の手》は……」


 ニーナの声はどこか緊張をはらんでいた。


 急いでいることも、危険なものを扱おうとしていることも、その声だけで伝わってくる。


「触ったものを、竜にする。命令もできる」


 竜にする?


 イマイチイメージがつかないけれど、悩んでいる暇はない。


「命令……?」


「ちゃんと決めて。何をやるか、どこで止めるか。危険すぎる」


 冴の杖が、振り下ろされかけている。


 もう、選んでいる時間はない。


「分かった。ありがとう、ニーナ」


「うん」


「冴、撃て」


 ソーゴがひび割れた盾を構え直した。


「俺が前にいる」


「その盾、もう限界よ」


「限界までが盾の仕事だ」


 冴は一瞬だけソーゴを見た。


 しかし、杖を止めることはない。


 魔力があたりの大気を冷却し、収束した斧の刃がさらに鋭さを増していく。


「《フロストクリーヴァー》!」


 冴の声に合わせて、魔法は発動した。


 氷の斧刃が、床を裂いて迫る。


「連理さん!」


 乃々さんの声が震えた。


「大丈夫。なんとかなるはずだ」


 俺は手を伸ばした。


 その先には……崩れた店の廃材、柱の欠片、壁の破片。


「《竜化の手》」


 指先から、冷たいような熱いような感触が走る。


 ガレキが震えた。


「氷を割って」


 廃材が浮き上がる。


「盾を越えて」


 ガレキが集まる。


「冴の前で止まって」


 柱の欠片が顔になる。店の残骸が胴になる。破片が牙になる。


 きれいな竜ではない。壊れたものを無理やりつなぎ合わせた、ガレキの竜だ。


 けれど、その形は確かに竜だった。


「行って」


 ガレキ竜が床を蹴るように走り出した。


『グオオオオオオオ!』


 喉もないのに声を立て、崩れかけの顎を開いて氷の斧刃へ突っ込んでいく。


「断て!」


 破砕音を立てて地を削る氷の刃。


 ガレキ竜の牙が削られた。


 首の破片が飛び、胴を作っていた店の残骸が砕ける。


 それでも止まらない。


「まだ……!」


 冴が杖に力を込める。


「進んで」


 俺は声を出した。


 ガレキ竜は、砕けながら氷刃へ食い込む。


 削られた頭をさらに押しつけ、牙の代わりに割れた柱の断面を氷へ突き立てた。


「ドラゴンさん! 戦ってます!」


 斧の刃に亀裂が入った。


 続いて、硬い破砕音があたりに響く。


 ヒビが走り、砕け、冴の魔法は破砕された。


「破った」


 ニーナの声。


「ソーゴ、下がって!」


「下がらん」


 ソーゴが盾を構える。


「ここを空ければ、終わりだ」


 ソーゴは割れかけた盾を構えたまま言った。


「来い! ドラゴン!」


 ガレキ竜が駆ける。


 その勢いのまま、ソーゴの盾へぶつかった。


「ぐっ……!」


「ソーゴ!」


「問題ない!」


 盾の中心に入っていた亀裂が、外側へ向かって順番に広がっていく。


 やがて盾は、乾いた音を立てて割れた。


「まだだ……!」


 ソーゴが踏みとどまる。


 だが、盾はもう地に落ちていた。


 残ったのは、両腕だけで衝撃を受け止めようとするソーゴの姿。


「ぐっ!」


 彼は両腕をクロスしたまま、吹き飛ばされた。


「ソーゴ!」


 冴の声。


 ガレキ竜の頭が、ソーゴの横を越える。


 そして、狙っているのは……冴。


「止まって!」


 俺の声にガレキ竜が止まった。


 冴の喉元の、ほんの少し手前で。


 その爪は確実に彼女を狙っていた。


 命令が少しでも遅れていたら、笑って済む距離ではなかった。


「……」


 冴は動かなかった。


 透も、ソーゴも動けない。


「危なかった……」


「甘い……な連理」


 冴は、ガレキ竜の爪を見たまま答えた。


「しかし……確かに危なかった、な」


 静かな声だった。


「負けだ」


「冴……」


「盾は砕けた。戦略も立て直せない。私も、これ以上は止められない」


 冴が杖を下ろす。


「私たちの負け。……最後の《鍵箱》へ進みなさい」


「……ありがとう」


「お礼を言う場面ではない。まったく……面白い存在だ」


 ソーゴは砕けた盾の残骸を見下ろしていた。


「ソーゴ、怪我は?」


 俺の言葉に、ソーゴは力なく答える。


「ない。盾が受けた」


「なんか……ごめん」


「いや、いい」


 割れた盾の欠片を拾ったソーゴは、しばらくそれを見てから言った。


「盾の宿命だ。こいつは真っ当に役目を果たした」


「いい盾。強かった」


 ニーナが小さく言った。


「ああ。いい盾だった」


 コメント欄が流れていく。


『ガレキ竜やばすぎる』

『《フロストクリーヴァー》割ったぞ』

『ソーゴさんの盾、最後まで仕事した』

『連理さん、つよ』

『最後の鍵箱行ける!』


「ひー!」


 火種ちゃんが胸を張る。


「火種ちゃんも、さっきの《火尖槍》で盾にヒビを入れてましたからね」


「ひー!」


「良い一撃だった」


 ソーゴはなんとも言えない表情でそう返した。


 そのとき、盾の残骸のそばで小さな影が飛び出す……。


「キキッ」


「……あっ」


 乃々さんが目を丸くする。


「値引きインプです」


「このタイミングで?」


 値引きインプは、砕けた盾の欠片に近づいた。


「キキキッ」


 そして、ぺたりとシールを貼る。


 ——ジャンク品。


「……」


「……」


「……ジャンク品」


 ニーナの呟きが、静まった空間にこだまする。


「いや、これは本当にごめん」


「気にするな」


 ソーゴは欠片を持ったまま、少しだけ息を吐いた。


「盾の宿命だ」


 ジャンク品は流石に宿命じゃないと思うけど……気の毒すぎて何も言えない。


 冴が値引きインプを睨んだ。


「剥がしなさい」


「キ?」


「その盾はジャンク品ではないわ」


 ニーナが頷く。


「勇敢品」


「そういう分類はないと思うけど、気持ちは分かる」


『ジャンク品w』

『余韻を返せw』

『いや勇敢品で合ってる』

『値引きインプ、空気読めてるようで読めてない』

『ソーゴさんの盾に敬礼』


「連理さん」


 乃々さんが、奥の通路を見る。


「最後の《鍵箱》、行きましょう!」


「うん」


 ガレキ竜が元の廃材に戻り、崩れていく。


「箱! 箱!」


 ニーナが俺の袖を引く。


 冴は道を空けた。


「任務失敗は久しぶりだ。見届けさせてもらう」


「ありがとう」


 俺は最後の《鍵箱》へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ