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第45話 絶体絶命ですよー!


 冴の杖に魔力が集まる。


 俺たちと《ハウンド》……走ればすぐに詰まる距離だ。


 が。


 その短い距離の中に、魔法と盾と銃口が詰め込まれている。


「氷と水霊の名の下に。流れよ。逆巻く潮流。其は形成、展開、終滅。雹雨よ、我が敵の足を止めよ」


 冴が杖を掲げた。


 青白い魔力が十字に組み上がる。


 落ちている水滴まで霜を帯びて固まった。


 冴の横では透が端末を構え、こちらの位置を確認している。


 ソーゴは大盾を正面に置き、いつでも押してこられる姿勢だ。


「なんか……まずい予感がする……!」


 青白い十字の魔力が氷に変化する。


「辺りに強い魔力が渦巻いてますね!」


 《フライ》が映す高精細ホログラム……コメント欄の速度が一気に増した。


『魔法来るぞ』

『《ハウンド》本気だ』

『冴さま〜』


 そして冴は呟く。


「《ヘイルクロス》」


 氷は斜めに走り、俺たちの立つ場所へ飛来してくる。

 

 視聴者にも分かるくらい、冴の魔法は派手で、確実に危ない。


「《結晶盾》張る?」


「いや、魔法をお願い。俺が防ぐ」


 俺は《燻り火の剣》を抜いた。


 柄を握った瞬間、刃の奥に残っていた熱が息づく……気がした。


「《残火》!」


 剣を縦に振る。


 床に炎の線が走り、飛んできた尖った氷を下から包んだ。


 熱で鈍った氷片が床に刺さり、白い煙を噴く。


 煙の向こうで、冴の杖がまた動いた。


 次の氷が来る前に、俺は冴たちとの距離を詰める。


「断ち切る!」


 斜めから来た氷片を斬る。


 一つ払った直後、次の氷が手首の高さへ飛び込んでくる。


 基本姿勢に戻す暇はない。


 そのまま断ち切る。


「それでも!」


 剣を返し、氷の軌道へ刃を入れる。


 砕けた氷が頬の横を抜け、背後の床で割れた。


「剣の戻りに合わせているのか……。なら、ソーゴ、前だ!」


「分かった」


 透の声に合わせ、ソーゴが大盾を構えた。


 氷の下を進んでくるソーゴ。


 魔法は関係ないらしい。


「ここで近づくか!」


 ガギン!


 魔法が途切れた瞬間。


 盾と剣が火花を散らす。


「少し頼む。ソーゴ」


 冴の言葉にソーゴは答えた。


「止まる気はない。だが、やるな。どこにそんな膂力が」


 大盾が押してくる。


 俺は剣の腹を盾に当て、歯をくいしばった。


 まともに受ければ、俺ごと乃々さんとニーナの場所まで押し込まれる。


「あいにく、俺のは避ける剣技じゃなくてね……!」


 足裏が床をこする。


 下がれば楽になる。けれど、後ろには二人がいる。


 俺は膝を沈め、剣をさらに食い込ませた。


「無理しすぎないでください、連理さん!」


「ギリギリで無理するよ!」


 自分で言っていて、あまり安心できる返事ではなかった。


「ギリギリかぁ……! やれるものか!」

 

 強力なシールドバッシュを防ぐ。


 愚直な男だ。


 ここで盾が可変したら、確実に負ける。


「結晶の光の名の下に」


 背後からニーナの声が耳に届いた。


「答えよ。其は塊。其は撃。其は放たれる。固まり、渦巻き、跳ねよ」


 詠唱だ。


 どうにか……もう少し!

 

「ちょっと小さく」


 とても小さく、ではない。


 ニーナも出力を上げた……。


「《結晶星》」


 結晶魔法が、冴へ向かっていく気配。


「冴には届かせん!」


 ソーゴは盾を俺から離し、後方へ身を引いた。


 結晶が盾の中心に当たり、細かく砕ける。


 衝撃で盾全体が震え、ソーゴの腕がわずかに沈んだ。


「気にしなくても良かった」


「ほっとけるか」


 冴は杖を下げない。


 ソーゴが守り、冴が撃ち、透が次の動きを選ぶ。


 単純な三対三じゃない。


 役割が噛み合った相手は、予測のつかない魔物よりずっと厄介だ。


「続けていくよ! 《刹那の種》」


 俺は空中へ種を投げた。

 

 ツルが伸び出す寸前、俺は次の手を投げた。


「《刻の縫い針》」


 ツルが止まる。


 ただし、成長そのものが消えたわけじゃない。


 内で高まる……伸びようとする力。


「種! 《反咲き》ですか!?」


「それだけじゃないよ」


「ひー!」


 火種ちゃんが俺の肩の近くで胸を張った。


 《燻り火の剣》を見てから、ずっと対抗心を燃やしている顔だ。


 自分の火の出番だと分かっているらしい。


「火種ちゃん、種の先に火を」


「ひー!」


 小さな火が、止まったツルの先端に宿る。


 針の下で詰まった成長力と、火種ちゃんの火。


 二つが同じ一点に集まった。


「何をしても受ける」


「受けてもらうよ。その盾で」


 種はこちらの意識に同調して発芽を変えているらしい。


 集中した。


 狙いはソーゴ本人じゃない。


 あの大盾の中心だ。


「《火尖槍》!!」


 針が戻った瞬間、火を帯びたツルが槍のように伸びた。


「っ……!」


 バギィ!


 重い音が広場に響く。


 見ると、盾の表面に細い亀裂が入った。


 火の跡が中心から外側へ広がり、黒い筋になって残っている。


「すごい音! ……あっ! 盾がボロボロに……!」


「かなり危険だ。ソーゴ、マズすぎる」


「まだ立てる」


 ソーゴは膝を落とし、割れかけた盾をもう一度構えた。


 冴はその横から、俺たちをまっすぐ見ている。焦りはない。けれど、決めに来る目だった。


「まかせろ。これ以上は……私が先に決める」


『盾にヒビ入った!』

『火種ちゃーん!』

『ソーゴさん、まだ前にいるの怖すぎ』

『冴さまが決めに来るぞ』


「結晶の光の名の下に」


 ニーナが冴へ手を向ける。


 冴が大きな魔法へ移るなら、手を止めるしかない。ニーナの判断は早かった。


「答えよ。其は波動。其は凪。其は放たれる……とっても弱く」


 眩い魔力の流れ。


「《閃光》」


 白い光が、冴の視線へ走った。


「くっ……!」


 だが、冴の反応は早い。


「《ミラーライム》!」


 即席……!


 薄い氷の鏡のようなものが、冴の前に現れる。


 白い光は鏡の面で曲がり、床へ落ちた。


 恐らく射出系魔法特化の障壁。


「悔しい。防がれた」


「届かせない」


 冴の杖の先に、氷片とは違う重い魔力が集まる。


「氷と水霊の名の下に。刃を立てよ。唸れ。重なれ」


 広場の床が低く鳴った。俺の靴底から、振動が上がってくる。


「あっ……冴さん、まだ魔力を溜めてます。さっきまでと違う感じですね」


 チラリと前を見る。


 ボロボロになりながらも、盾役はまだ動かない。


「まだ止めに行かせてはくれない感じだね」


「盾が砕けるまでは、俺が残る」


「その盾、もう一回は危ないよ」


「それでも退かん」


 魔力が白く染まり、冴の杖先で氷が一枚の巨大な刃へ変わっていく。


 守られても押し切る……そんな大きな斧の刃……みたいに見えた。


「地を割り、風を裂き、前に立つものを断て」


 氷の刃が、広場の床に食い込む。


 俺は《燻り火の剣》を握り直した。


 斬る。受ける。そらす。


 頭の中でいくつかの選択肢を並べて、すぐに消した。


 これは、剣だけでは止まらない。


 《残火》で床に炎を走らせても、刃そのものは消えない。


 《刹那の種》で絡めるには、あまりにも大きい。


 針……高密度の魔力の塊だぞ。


「これは……受けきれない」


「レンリ」


 ニーナが俺を見る。


 どれもだめなら……そうだ。


「そうだ、ニーナ……さっきのアノマリー、なんだけど……」


「使うなら、今」


 ニーナが小さく頷く。


 乃々さんが息を呑む音まで、やけにはっきり聞こえた。


「連理さん……まさか、あれを?」


 巨大な氷の斧刃。


 もはや、それしか視界に入らなかった。


『デカすぎる』

『かなり高度な魔法』

『ここで終わるな!』

『事故配信になる!』


 冴の杖が振り下ろされる寸前。


 俺はまだ……一度も使っていないアノマリーへ手を伸ばした。


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