第40話 ただいま地獄のセール中です
中央アトリウムへ向かう手前の、催事場のような広場。
割れたテーブルが横倒しになり、床には紙の値札や王様フェアのチラシが踏み荒らされている。
奥へ進めば中央アトリウムに続くはずなのに、広場の端には赤い絨毯と石柱が並んでいた。
壁際には王宮みたいな燭台が立っていて、どっちの施設なのか、もう店長に聞いても分からないと思う。
「見えた。奥に《鍵箱》がある」
ただ、鍵箱までの道はまっすぐじゃない。
探索者が走り、魔物が床を這い、倒れた椅子や柱の欠片が進路をふさいでいる。
「区画全体が混戦です。探索者、魔物……右奥には冴さんたち《ハウンド》もいます」
「多い、見えない、動けない」
黒い装備の三人が、広場の右奥で別の探索者集団を押し返していた。
あちらも同じ《鍵箱》へ向かっている。
早い。
さっき別れたばかりでもうあんなところに……。
「連理! その剣、こっちへよこせ!」
見知らぬ探索者が叫んだ。
「よこせって言われて渡す人、あまりいないと思う」
襲いかかってきた斧を避ける。避ける。避ける。
「なら落とせ!」
「連理さん!」
手を狙ってくるのは目に見えてる。なら……。
「大丈夫。人は……斬らない」
「甘いんだよ!」
探索者の斧が、正面から来る。
俺は《燻り火の剣》を合わせた。
「甘いかどうかは、武器を持ってから言ってほしいかな」
ガギンッ。
金属音が鳴った瞬間、相手は我に返ったようだ。
彼が振ったのは空の手……。
「は——」
探索者の手から斧が離れ、床を滑っていく。
「レンリ、剣うまい」
「《燻り火の剣》、重さがちょうどいい。受け流しやすいね」
「くそっ、次だ!」
斧を拾い、去っていく。
俺たちも間隙を縫って駆ける。
次は、足元から来た。
「キキキキキッ!」
壊れた椅子の下から、小型犬ぐらいの魔物が何匹も飛び出す。
机の脚の間を、赤いものがちょこまか動いた。
「セールラットです! モール城の魔物! 背中に赤い札がついてます!」
「セールラット、って……セールのお客さんなのかセール商品なのか……」
「ただいまセール中って書いてある」
セールラット端末や火種ちゃんに興味を示しているようだ。
目の輝きが違う。
「光り物好き」
「乃々さん、もう少し後ろへ。ここは通さない」
「ひー!」
「火種ちゃんも、気をつけてね」
「キキキッ!」
数十匹が正面をふさいだ。
ジリ……と距離を詰める。
全部を斬って止めるには数が多い。
なら……
「レンリ、床」
「《残火》だね」
「うん。まっすぐ」
「分かった。燃やし尽くすんじゃなくて……って避けてくれればだけどね」
殺意を感じたか、セールラットがざわめく。
「《燻り火の剣》」
瞬間、ガギンッ! と音を立てて剣を床に叩きつけた。
「《残火》」
赤い炎が床を走っていく。
「キキッ!?」
「セールラットが横へ広がります!」
《残火》がセールラットの群れを裂いた。
「ギギーーーー!!!」
「炎が一直線に伸びました! 群れが左右に割れています!」
「走り抜けよう」
炎から逃げるようにセールラットが方向を変えた。
空いた隙間へ……走る。
「今だ! 消えろおおお!」
「邪魔だラッキーマン!」
探索者たちが叫ぶ。
剣を振りながら、こちらを狙ってくる。
「悪いが通してもらう」
「剣だけ見てれば——」
「種もあるよ」
《燻り火の剣》に合わせようとした瞬間。
彼らの足元から上へツタが伸びていく。
「うおっ、足が!」
《刹那の種》。
小さな種はさりげなく落とせば気づかれない。
ツルが床を走り、探索者の太ももに巻きつく。
「クソが! でも魔銃なら届くぞ!」
「《刻の縫い針》」
「止まっ——」
魔力を溜めた魔銃が空中で止まった。
「手を離さないと両腕がなくなるよ」
針が解けたあと、魔力を溜めた魔銃が暴発する可能性は十分ある。
「くそっ!」
『アノマリーやっぱ強いわ』
『Sランクすぎる』
『セールラットうざかわ』
『てかハダカデバネズミだろあれ』
『連理さん、剣技も普通に強い。なんだあれ』
箱へ進む。
さらに足を早める。
ただ警戒は緩めない。
「冴さんたちは別の探索者とぶつかったままです!」
冴の魔銃、ソーゴの盾が探索者たちを押し返していた。
「こっちには来てないね」
「はい。別ラインで《鍵箱》へ向かっています」
「あとでぶつかるかも。でも今は急ぐ」
ニーナの言う通りだ。
今は急ごう。
しかし……。
「あ、ソーゴさんの盾に赤い札が貼りつきました」
盾の表面に、セールラットの赤い札が貼りつく。
なんか盾が売り物になった……本当にこの城はどうなってるんだろう。
「あれ、売り物に見えるのかな」
「高そう」とニーナ。
「値引きされても買えないと思う」
「……邪魔だ」そんな声が聞こえそうな素振り。
ソーゴが盾を振ると、札が床へ落ちた。
『ソーゴさんの盾に札w』
『高そうw』
『値引きされても買えない』
『混戦なのにモール感ある』
激戦の中、駆ける。
そこで……また複数の《敵》の声が響いた。




