第39話 プレッシャーと空気
《燻り火の剣》を手に入れ、さまよう鎧も倒した。ひと呼吸入れて……前を見る。
「中央アトリウムへ。次の《鍵箱》を探そう」
その時だった。
「止めろ! 回収屋を通すな!」
「前をふさげ! 箱に行かせるな!」
怒号が響いた。
魔物の声ではない。人の声だ。金属がぶつかる音も混じっている。
「階段踊り場……《鍵箱》周辺で混戦です。冴さんたちがいます!」
「行こう!」
走る。
進行方向先……複数の探索者が戦闘中だった。
その中央には《ハウンド》。
ほとんど止まらずに進んでいる。
止めようとする探索者の方が、道を作らされていた。
「関係ない」
「班長、正面。左が薄い」
透が後ろから声を上げていた。
「ソーゴ、割れ。私は左」
「了解」
ソーゴが大盾を構え、正面の集団へ踏み込んだ。
「盾ごと止めろ!」
「無理だ」
「うわっ!?」
「跳ね飛ばされっ!?」
大盾が、正面の集団をまとめて弾き飛ばした。
ぶつかった探索者が軽々と退いていく。
その間、冴は駆けた。
彼女は《泡沫アクアリウム》の時とは違って、魔法杖と魔法銃を持っていた。
「班長、左から二人」
「見えている」
「撃たせるな!」
パァン。
破裂音。
高速で魔法弾が放たれた。
「遅い」
「武器だけ落とされた……!」
冴の動きは短い。
相手の腕ではなく、持っていた武器だけを落とす。狙いが細かいのに、手数は少ない。
「どけ。次は足を撃つ」
ひいいい、と叫びをあげながら探索者が逃げていく。
「開ける」
混戦の中心にあった《鍵箱》のフタが開かれた。
中から鍵が取られた瞬間……周囲の探索者が息をのむのが分かった。
「班長、これで二本目だ」
「確認した。中央へ行く」
早い……。もう二本目だ。
こちらはまだ一本なのに。
「二本目……早いね」
「今の混戦を、ほとんど止まらずに抜けました」
「強い」
『《ハウンド》二本目!?』
『処理速すぎ』
『回収屋つよ』
『回収屋が絡んでるということは、なんかあんのかここ』
冴が、こちらを見た。
青みがかった長い髪が揺れている。
「日野枝連理。一本は取ったのか」
「うん。そっちは二本目だよね」
「ああ」
冴の視線が、俺の手元で止まる。
「その剣も、箱か」
「そう……《燻り火の剣》」
バールの代わりに手におさまった剣。
冷たい視線が刀身に向けられていた。
「班長、噂がすでに流れている……あれは銅箱でAランクだ」
透の言葉に対し、ソーゴが反応する。
「……厄介だな」
「まだ使い慣れてはいないよ」
「使い慣れる前でも、何か倒したようだが」
「戦闘中なのに見えてたんだ」
周囲に払う注意力。
戦いの中で身についたものだろう。
「目に入った」
冴が言葉を続けた。
「一直線に炎が伸びていたな」
「能力名は《残火》です。地面に叩きつけると、前方へ炎が伸びます」
「銅箱でそれか。引きが強いな。しかし……」
冴の口角が上がった……気がした。
「簡単に手の内を言うべきではない」
「言ったところで……もう対策を考えているくせに」
「冴、バレてるな」
空気は冷えている。
軽口を言ってはいるが、相手がこちらに襲いかかってきてもおかしくはない。
さっきまで鍵を守る魔物を相手にしていた。
ここからは、鍵を取りにくる人間も相手になる。
「次の《鍵箱》は、私たちも譲れません」
「取る」とニーナ。
「こちらもだ」
冴は俺たちと話しながらも、通路の奥へ視線を向けている。
透も端末を確認し、ソーゴは大盾を構え直した。三人とも、もう次へ動く準備をしていた。
「班長、中央アトリウムに流れてる。次はあそこが荒れる」
「行くぞ」
冴が短く答える。
二本目を持った背中が、中央アトリウムへ向かう。周囲の探索者たちも、同じ方角へ走る。
次の箱がある場所へ、視線も足音も集まっていく。
「俺たちも行こう」
「はい。一本差をこれ以上広げられません」
「がんばるしかないね」
ニーナが呟く。
俺は《燻り火の剣》を握り直した。
まだ手に慣れたとは言えない。でも、今はこれも必要だ。
『Ⅳ級クラスも普通にいるんだろうな』
『《ハウンド》リーチやん』
『お宝祭り、完全にクライマックス』
その先には、中央アトリウムがある。今までモールのあちこちへ分かれていた探索者たちが、同じ場所へ吸い寄せられていた。
次の《鍵箱》を前にした時、そこにいるのは魔物だけじゃない。
鍵を狙う探索者たちと、《ハウンド》。




