第37話 キメラが守る宝箱からなんか出たーーー!!!
山羊頭が魔力を口元に集めた。
俺の横で、火種ちゃんが揺れていた。さっきの炎槍で蛇には傷が入っている。
「魔法が来る!」
「結晶の光の名の下に」
ニーナが少し浮遊して手を広げた。
「答えよ。其は波動。其は凪。其は放たれる」
足元から白い光が浮かび上がり、彼女の手元へ集まる。
「とっても弱く」
キメラの山羊が撃った魔法が迫る。
「《閃光》」
細く流れるような光線が、山羊頭の魔法と正面からぶつかった。
バシィイイイイ!
衝撃音が響く。
うねる魔力が押し寄せ、白い光がそれを受ける。足元にビリビリと衝撃が届いた。
「まだ平気。ちょっと重いだけ」
ニーナが魔法を押さえている間、キメラの胴体に魔力の流れが浮かび上がった。
山羊頭から獅子の胸へ。
そこから、尾の蛇がかばう位置へ。体の横。
赤い光が、一瞬だけ見える。
「連理さん、フライの映像です。赤い光、山羊頭ではなく胴体側にあります」
「本体の魔法石だ。あれを割れば終わる」
近づいた瞬間、蛇が床を薙いで迫ってきた。
「シャァァァッ!」
「危ない!」乃々さんの声。
「くっ」
焼けた傷をかばっているせいか、軌道は読める。だが、遅いわけじゃない。
俺は身を引き、牙をぎりぎりで避ける。
「危なかった。気を抜けないね」
あの組み合わせを使うしかない。
もう一度……。今度は魔法石を狙う。
「火種ちゃん、もう一回頼むよ。本体の魔法石まで届かせる」
「ひー!」
体力と魔力の消耗が激しいのか、キメラは足を引きずり、尾は力なく揺れている。
『尾の蛇に傷入ってるの効いてる』
『本体の魔法石見えた』
『行けるぞ』
種を投げる。
「《刹那の種》」
小さな芽が生まれ、ツルと花が伸びる前に、狙いを絞る。
さっきより細く。魔法石まで届く形に。
「《刻の縫い針》」
伸びかけたツルと花が、空中で止まった。
「槍のようです。それでいて幾重もの枝による……硬さ」
そこへ火種ちゃんが近寄った。
「ひーーー!」
小さな火が槍の先へ移る。
アノマリーのツルと花は簡単には燃え崩れない。
「二本目の炎槍……できます!」
赤い火だけが表面を包み、槍の形を保ったまま熱を帯びる。
「ニーナ、あと少しだけ押さえて」
「ん。あと少しなら、いける」
山羊頭の魔法が強くなった。
「メェェェェッ!」
魔力が太くなり、ニーナの足が地についた。
「重い、ね」
それでもニーナは、もう一度手をかざす。
「結晶の光の名の下に」
魔法を放ちながら、詠唱を加える。
「答えよ。其は波動。其は凪。其は放たれる」
より強く、より渦巻いた魔力。
「ちょっと強く」
その声は大きくはなかったが、いつもよりしっかりと聞こえた。
「《閃光》」
白い光がより太くなる。
魔法と魔法がぶつかる大きな音。
「ビリビリします……!」
山羊頭の魔法が乱れる。
「ここだ!」
「ひー!」
炎槍が撃ち出される。
尾の蛇が牙を開いて噛みつこうとした。けれど、もう力は残っていない。
「《火尖槍》貫け!」
蛇の横を抜ける《火尖槍》。
赤い火をまとった槍の先。
それが、獅子の胸へ届いた。
「——————ッ!」
声にならない獅子の咆哮。
魔法石に、槍の先が入る。
「入った」
ニーナの声。
赤い魔法石に亀裂が走る。
「割れます!」
弱まっていく山羊頭の魔法。
獅子の胴体が膝から崩れた。山羊頭も尾の蛇も、光になって消えていく。
通路を支配していたプレッシャーが消えた。
キメラは叫ぶことなく光となって消滅した。
「あぶなかった」
ニーナの安堵。
鍵箱の周りだけ、急に静かになる。
遠くで聞こえる喧騒。
「すごいです! 連理さん! ニーナさん! 倒しました!」
「ひー……!」
「火種ちゃんも頑張りました!」
「お疲れさま。大仕事だったね」
「えらい火」
「ひー!」
『決まった!』
『炎槍コンボ強い』
『火種ちゃんMVP』
『ニーナちゃんも強い』
『鍵箱いける!』
キメラが消えたあと、《鍵箱》だけが残った。
さっきまで近づけなかった灰色の箱。
輝いている紋章の光。
全体的に独特な輝きを放っている。
「開けられます。連理さん」
「うん。開けよう」
《鍵箱》の蓋を上げる。
光があふれていく。
中にあったのは、一本の鍵だった。
「《灰火の鍵》……一本目です」
「残り二本。まずは一つだね」
「鍵、ひとつ」
『灰火の鍵!』
『一本目きた!』
『鍵箱は鍵だけか』
『でも進んだ!』
あと二つ集めれば、特別なフェアに招待される……らしい。
館内放送が、妙に明るい声で流れた。
『ご来城の皆さまにお知らせします。只今、連理さまクラン、《灰火の鍵》をひとつ入手いたしました。現在出現中の鍵箱は三つです。この機会に是非お求めください』
鍵を持ったことが、もう隠せなくなった。
「言われちゃったね」
「これで狙われる可能性も増えました……!」
手に入れれば入れるほど、それだけ危険性も増える。
「あそこ、インプが箱になんか貼ってる」
通路の少し先に、銅箱が現れていた。
その横から、小さなインプが顔を出す。手には札。
「キキッ」
キメラが消えた直後だからか、仕事だけは早い。
「銅箱です! 値札インプが札を貼っています」
乃々さんが近づいて札を見つめる。
「札は……『本日のおすすめ』です」
「おすすめされる前に開けると思うけど」
「おすすめ、気になる」
『本日のおすすめw』
『商売熱心』
『これは開ける』
『鍵の後に銅箱は熱い』
「開けるよ……」
銅箱が開く。
中から青い光があふれた。
Aランク。
「Aランクです! 中身は……?」
すかさずニーナが箱の中に頭を突っ込む。
「剣!」
箱の中から現れたのは、一振りの剣だった。
「《宝具解放》」
ニーナが剣に手をかざす。
赤い魔力を帯びた剣。
「真名は、《燻り火の剣》」
燃え上がるのではなく、刃の奥で熱が残っているような光だ。
「燻り火……もしかしてこのダンジョン限定アイテムですか?」
「たぶん。レア剣」
俺は剣を持ち上げる。
「連理さんが握ると、刃の内側が赤く光っています」
そこでニーナが呟いた。
「またの名を……《ホット剣》」
「…………」
「…………」
「ほっとけん」
良い剣だ。
重すぎない。握りも合う。
「バールより、こっちの方が、俺には扱いやすいかもしれない」
『新武器きた!』
『燻り火の剣、どういう意味なんだ』
『銅箱から剣!?』
『ニーナちゃん流されたw』
『鍵一本目+新武器は強い』
戦うための道具として、手におさまりがいい。
新しい武器。
刀身が炎に包まれた戦場を映した……気がした。




