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第36話 そうなんです


 外周通路の奥には……目的の灰色の鍵箱。


 壁際の店舗跡には割れた看板が残っている。


 右手にはフードコートへの入口があった。


 目の前には巨大なキメラ。


 獅子の胴体。背から伸びる山羊頭。床を叩く尾の蛇。


 体の大きさ以上に、位置が厄介だった。


「あのキメラ、完全に箱の前を塞いでいます」


『鍵箱きた!』

『キメラでかい』

『完全に番人』


「やってみようか……《刹那の種》」


 俺は指先から種を弾いた。


 床に落ちた種が割れ、伸びていく枝葉がキメラの体を狙う。


 パァン。


 短い音。


 ツルは届く直前で止まった。


 見えない壁に弾かれ、枯れて消えていく。


「っと……対物理攻撃の障壁かな。ツルや刃みたいな実体のある攻撃は押し返される」


 尾の蛇が床を削って横薙ぎに足元を削る。


「レンリ、あぶない」


 蛇の頭が低い位置でこちらを睨む。さっきまで通れそうに見えた隙間が、きれいに消えた。


「横からの接近も蛇で潰されるか」


「まかせて」


 次はニーナが試す。


「結晶の光の名の下に」


 狙いは背中の山羊頭。


 障壁を作っているなら、あそこに反応が出るはずだ。


「答えよ。其は塊。其は撃。其は放たれる」


 詠唱が響き、獅子はこちらを睥睨(へいげい)する。


「固まり、渦巻き、弾けよ」


 ニーナの全身に魔力が収縮する。


「とっても小さく」


 放たれる結晶の礫。


「《結晶星》」


 魔力の塊が山羊頭へ飛ぶ。


 しかし、結晶はバリアによって弾かれ、光粒となって消えていく。


「……消された。あれ、いやな感じ」


「対魔法……の障壁かな。光や火は届く前に消される」


「つまり、種は対物理障壁で止められて、光と火は対魔法障壁で止められるんですね」


「そう。別々に出すと、どっちも通らない」


 キメラが踏み込んだ。


 獅子の前脚が床を割る。


 外周通路が揺れ、隣接するフードコートから古いトレーが何枚も滑り出してきた。


「ひ、ひー!?」


 その一枚に、火種ちゃんが乗ってしまい……流されていく。


「火種ちゃんが!」


「食事を運ぶには勢いがありすぎるね」


「……配膳されてる。かわいそう」


「火種ちゃん、こっちへ飛んで。今なら届く」


「ひー!」


 火種ちゃんがトレーから飛び、俺の近くへ戻った。


 危ない場面なのに、トレーに乗る姿だけは妙に似合っている。


 いや、配膳される火の玉は普通いないけど!


『配膳されかけたw』

『火種ちゃん無事!』

『笑ったけど危ない』

『トレーまで敵』


「連理さん、今の守り方だと普通に攻めても厳しいです」


 俺は今の二回を思い返す。


 ツルは押し返された。


 結晶は消された。


 どちらも止められたけれど、止まり方は違う。


「種だけでは押し返される。魔力は霧散する。でも障壁には層があるみたいだ」


「層ですか?」


「そうです」とニーナ。


「…………」


「…………」


 今のは、説明なのか返事なのか。


 判断に少し困る。


 戦闘中なんだけど!


「たぶん、外側に魔力を消す障壁があって、その奥に実体を押し返す壁がある。属性攻撃や魔法だけだと外側で消される。種だけだと奥で止まる」


「ということは……連理さんが攻撃してニーナさんが魔法を撃って連理さんが突っ込めば……」


「魔法攻撃を待つ間、俺はキメラの総攻撃を受けるね」


「確かに……」


「一度にする?」


 一度……?


 なるほど。


 それで、形が見えた。


 物理だけなら押し返される。


 属性攻撃や魔法だけなら消される。


 なら、別々ではなく……。


「それだよ。やってみよう」


 俺は《刹那の種》を投げる。


 種からツルと花が伸び始めた。


 が。


 溜めることで《刹那の種》は成長し、威力が増すことはわかっている。


「今だ」


 伸びかけたツルと花へ、針を打つ。


「《刻の縫い針》」


 種が空中で固定された。


「よし」


 先端は細く、根元は太い。


 見た目は、花でできた槍に近い。


「種が槍みたいな形に!?」


『花の槍!』

『針で固定した』

『でもこれだけだと……』

『アノマリー組み合わせた?』


 このままだと、ただの槍だ。


 対物理障壁に押し返される。


「火種ちゃん、頼める? 強すぎなくていい」


「ひー!」


 火種ちゃんが槍の先へ寄る。


 小さな火がツルと花の表面を走った。

 

 燃やすというより、槍の表面に沿ってまとわりついている。


「槍型の《刹那の種》に炎を!?」


『炎の槍きた!』

『アノマリー三種コンボ!』

『火種ちゃん大仕事』

『これは映える』

『いけえええ!』


 山羊頭が鳴く。


 警戒しているのか。


 キメラの前に障壁が重なる。物を押し返す壁と、魔力を消す壁。


 別々なら止められる。


 なら、同じ一点へまとめる。


「物理の槍と火を、同じ一点へ当てる」


「ひー!」


「針、戻れ」


 固定が外れた。


 針で止められていた間も、《刹那の種》の成長は内側に溜まっている。


「いけ! 《火尖槍》!」


 思わず叫んでいた。


 種内部で育った力が一気に前へ伸び、火をまとった槍が山羊頭の障壁へ突き込まれた。


 先端が見えない壁に食い込む。


 火は消えない。


 槍も押し返されない。


 バギィッ!


 見えぬ障壁から響く音。


「……抜けた!」


 障壁の表面がわずかに歪んでいる。


『抜いた!』

『対物理と対属性をまとめて貫いた!』

『火種ちゃん最高』

『鍵箱まで行けるぞ!』


「本体まで届く――」


 そこで、敵は初めて後ろへ下がった。


 獅子が身を横にして飛ぶ。


 《火尖槍》がキメラの身に迫った。


 しかし。


「シャァァァッ!」


 そこへ、蛇の尾が下からねじ込まれた。


 炎槍は獅子の胴体へ届く直前、蛇に受け止められる。


 焼けた鱗が剥がれ、蛇の頭が大きくのけぞった。


「ひー!」


「守られました」


 確かにキメラの身は……守られた。


 だが、蛇はもうほとんど原型をとどめていない。


「でもボロボロ」


「効いてはいるね」


『決まったと思ったのに!』

『蛇が受けた!』

『次で本体いける』

『ここで終わるなあああ』


 本体までは届かなかった。


 けれど、蛇の動きは鈍っている。


 さっきまで床を自由に走っていた尾が、ボロボロの状態で垂れていた。


 通った。


 完全じゃないけど、突破口にはなった。


 その間に、山羊頭が口を開く。


 今度は守りではない。


 ……魔法を撃つ気か。


「魔法、来るよ」


「メェェェェッ!」



物理で攻撃したあと針刺して魔法撃てるまで身動き止めれば良いんじゃね?は言わないお約束でお願いします!

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