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第35話 獅子の頭以外は器官です


 外周通路北へ向かう通路。


 すでに他の探索者の足音が響いていた。


 早い。


「鍵箱反応、外周通路北に……! あ、早速見えました!」


 灰火モール城の外周は、ショッピングモールの通路というより城の回廊に近い。


 その回廊の先に、宝箱の光が見えた。


「あれだけ、普通の宝箱と違うね」


「灰色の箱。すごい光ってる」


「はい。凄い光を放ってます。あれが鍵箱ですね」


 灰色の箱……正面には紋章があり、そこから強い光があふれる。


「問題は、あの前にいる方かな」


 そして、鍵箱の前には巨大な魔物がいた。


「でっかい魔物。キメラ」


「獅子の身体、背中に山羊の頭、尾は蛇ですね」


 圧倒的だ。


 獅子の身体が通路の中央をふさいでいる。


 左右を見渡す背中の山羊頭。


 威嚇するように口を開く尾の蛇。


 鍵箱の前から離れる気はなさそうだ。


「鍵箱だ! キメラなんか気にするな!」


「盾、前! 正面から押し切れ!」


 先に着いていた探索者たちが動く。


「先行チームが仕掛けます!」


 大盾を並べ、後ろから槍と魔法を重ねる。


 そのまま箱まで押し込む……そんな勢い。


「なんだこれ、攻撃が通らねえ」


 槍の先はそこで止まり、魔法の光も表面でかき消える。


「ヴェァァァァ」


 山羊頭が短く鳴いた。


「キメラの前に障壁が広がっています!」


 獅子の前脚が盾を叩く。


「爪が来る! 盾が持たない!」


「うわっ!」


 衝撃音。


 盾役が後ろへ飛ばされた。列が乱れる。けれど、キメラは追ってこない。


 箱の前から動かず、近づいた相手だけを追い払っている。


「背中の山羊頭が魔法、獅子が物理かな」


 俺の声に、探索者の叫びが重なる。


「正面、通れない!」


「なら横だ! 障壁の外を回る!」


「足元、蛇だ!」


「ぐっ、払われた!」


 横へ回ろうとした探索者の足元を、蛇の尾が払う。


「正面は障壁。横は蛇の尾。近づきすぎたら、獅子の爪と牙もある」


「蛇、噛まれたら、よくない」


「毒とかもありそうだね」


 通路の幅も厄介だった。


 広すぎないから、大人数で囲みにくい。


 狭すぎないから、キメラは動ける。


「まだだ、詰めろ!」


「グルアアアッ!」


 獅子が吠えた。


「爪が来るぞ!」


「下がれ、巻き込まれる!」


「キメラが前脚を振りました! 床が砕けています!」


 ブォン、という風を切る音。


 同時に破片がこちらまで転がってきた。


「箱の前から離れないまま、近づいた相手だけ追い払ってる」


「箱の番」


 その時、崩れた棚の上から小さな影が飛び出した。


「キキッ」


「なんだこいつ!?」


「小さなインプが出ました! 札を持っています!」


 弾かれた探索者へ走るインプ。


「キキキッ!」


「おい、貼るな! 俺に貼るな!」


「『挑戦済み』……探索者さんに札を貼っています!」


「かなり失礼だけど、動きが妙に手慣れてるね」


「店員の魔物」


「店員にしては接客が荒いかも」


 値札インプは札を貼ると、すぐ棚の陰へ戻る。


「俺の盾、『在庫なし』って貼られたんだが!?」


「こっちは『次回入荷未定』だ! 勝手に終わらせるな! ぐわああああ」


『値札インプw』

『敗退者に次回入荷未定貼るな』

『在庫なしはひどい』

『モール城の雑魚、変なの多いな』

『でも動きかわいいの腹立つ』


「挑戦者さんはボロボロですね。誰も鍵箱には触れていません」


 次々とキメラに挑む探索者。


「攻撃も障壁で消されるぞ!」


「近づいたら爪、離れたら障壁だ。どうしろってんだよ!」


『来た』

『キメラでっか』

『これ無理では?』

『鍵箱チャレンジ』


 ただ走るだけでは届かない。


「行くしかないね」


「ニーナも」


「ニーナ、少しだけ試してみよう。強く撃たなくていい」


 ニーナが俺の横に立つ。


 山羊頭の障壁が、どんなふうに反応するのか……それを見るためだ。


「結晶の光の名の下に」


 ニーナの手元に光が集まる。


「答えよ。其は波動。其は凪。其は放たれる」


 収束した光。


「とっても弱く……《閃光》」


『行ったー!』

『ビーム出たー』

『ビーム』


 集まった光が放たれ、まっすぐにキメラに向かう。


 その時、山羊頭が鳴いた。


 正面の空間がゆがむ。


「ヴェェェェェェェ」


 バチッという音と共に霧散する光。


 押し返されたわけでもない。


 障壁に沿うように消えていく。


「通らない」


「なんか……魔力がかき消された感じがする」


「グルアアアッ!」


 獅子の頭が咆哮し、こちらを向いた。


 敵……。


 そう認識された気がする。


「キメラがこちらを向きました! 背中の山羊頭も、連理さんたちを見ています!」


「警戒された」


「あまり嬉しくないね」


 感情のない目で背中の山羊頭が叫ぶ。


「ヴァァァァァア」


「また山羊頭が鳴きました!」


「なんか……バリアを張り直された、のかな」


『ビームかき消された』

『ニーナちゃんのビームかき消すってヤバい』

『爪と牙もあるのきつい』

『ボス級だろ』


 キメラが動く。


 三体の怪物を同時に相手しているような……そんなプレッシャー。


「グルルルル……!」


 一歩ずつ歩を進める魔物。


 障壁を張ったまま、距離を縮めてきている。


「ニーナ、無理に撃ち合わないで。下がろう」


「倒せない?」


「今のままじゃ、同じことを繰り返すだけだと思う」


 唇を噛む。


 障壁が硬すぎるのか?


 でも、なら、何故張り直した……?


「魔法が効かない……そんな馬鹿な」


 しょんぼりするニーナ。


「何か理由があるはずだ」


「ニーナの本気魔法で……」


「鍵箱は破壊しないよね」


「約束はできない」


 それは困る。


 鍵箱を取りに来たのに、箱ごと消し飛ばしたら何をしに来たのか分からない。


「グルアアアッ!」


「来ます!」


 キメラが疾駆する。


 何か……手があるはずだ。


「やるだけやってみよう」


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