第34話 《お宝祭り》でまた色んなものが出たー!!
鍵箱へ向かう探索者たちの足音。
それはどんどん増え、早まっていく。
鍵箱は気になる。けど、鍵箱に全員の目が向いている今なら、逆に見落とされた箱が……あるかもしれない。
「目立つ場所はもう何もないね。まずは見落とされてる箱から見よう」
「柱の裏。木箱、ある」
「そこなら他の人も通り過ぎたあとだね」
崩れた柱の裏に、ボロボロの木箱。
「あ……木箱です! 木箱!」
「箱、楽しみ」
「本日の木箱です。低級素材、低級ポーション、壊れた小物などが主な排出候補です。期待しすぎないでください。私は期待しています」
『木箱キターーーーーー!』
『普通出るのはランクなしということを忘れてる』
『お決まりのセリフきた』
「開けるよ」
木箱の蓋を上げる。
中から出たのは、白ではなくオレンジの光だった。
初めて見た光だ。
「橙の光、Bランク相当です! 信じられません……」
「木箱でBってことは……?」
「本来ならばありえません!」
乃々さんは興奮気味に身を乗り出す。
「やっぱりそうなんだ」
「木。木!」
「中身は……あ! 《火持ち香木》です! 燃やすと長く熱を保つ高級な香木で、かなりの価値があるレアなダンジョンアイテムですよ」
香木……Bランクアイテムというのはかなりのシロモノだ。
「市場に出せば愛好家にかなりの値段で売れちゃいます……」
「木箱から、良い木」
「木箱から良い木は出ません! 本当は」
「木箱、がんばった」
『木箱からBランク!?』
『やべええええ』
『うちのじーちゃんが死ぬほどゴールドだすって』
『木箱から木w』
『ええ木』
これは思ったよりも幸先が良すぎる。
「他にもありそうだね」
「ありますよ。宝箱の匂いがします……!」
「犬みたい」
◇
「ひー!」
売り場の角に向かう火種ちゃん。
壊れた販売ワゴンの下に、何か見えた。
「火種ちゃんが……あ……! 銅箱です!」
「普通に通ったら見落とすね」
「火種ちゃんも、箱を見つけた」
「ひー!」
俺は銅箱の前にかがみ込む。
「いいね。じゃあ、次はその銅箱だ」
「銅箱、開封お願いします!」
木箱よりも少し重いフタを開ける。
銅箱の中から、緑の光があふれた。
「緑」
「緑の光、Cランク相当です! これは……ありえることです。でも銅箱としてはレアです!」
出てきたのは、極彩色のフラスコのようなものだった。
その色は……見ているだけで、妙に効きそうな感じがする。
「何これ、変!」
箱に上半身を入れながら声を上げるニーナ。
「中身は……たぶん《元気ポーション》!」
「名前からして元気になりそうだね」
「栄養ドリンク系のポーションです。飲むと体力が回復して疲れが抜けた気がするタイプですね」
「気がする」
個人の感想です。なのかもしれない。
ポーションは異世界でもそういうものが多かった。
「状態異常も治る気がしますし、体力的にも三日三晩動き続けることができる気がするポーションです!」
「そこは断言しないんだ」
「ポーションの効果は断言できませんからね〜。鑑定した方がいいと思」
「飲んでみよう」
乃々さんの言葉をさえぎるように言ってみる。
「レンリ、珍しい」
「ポーション好きなんだよ。昔、全身に電気が走るポーションがあって、腰痛が治ったことがある」
「とんでもないですね……」
そう。
俺はポーションが好きだ。
独特の味がするし、独特の体験ができる。
ムキムキの鶏になれるポーション、マヨネーズ納豆甘酒みたいな味のするポーションもあった。
「頂きます」
一気に飲む。
甘い。苦い。熱い。辛い。さわやか。
よく分からないものが、喉から全身へ走った。
「……む!!」と俺。
「む!」とニーナ。
「すごい……元気があふれてくる……! 状態異常が治った気がするし、三日三晩動き続けることができる気がする……!」
「実は暗示にかかりやすいのかな」
「本当に生命力、あがった……気がする」
「よし! いこう」
謎のやる気があふれてきた。
今ならバックドロップをした後にスープレックスができる気がする。
『元気ポーションw』
『気がする』
『でもCランクってレアポーションじゃね』
『銅箱の最高レアレベルだぞ』
『飲んじゃったよ』
その時、外周通路の奥から小さな車輪の音がした。
きしきし、がらがら。
壊れかけのショッピングカートを押して、現れたのは……小型のゴブリン。
「ギギッ!」
「ん? カートを押すゴブリン?」
「買い物するのかな」
「違います! あそこ! 前方の銅箱へ向かっています!」
「ギギギッ!」
「銅箱をカートに入れようとしています……!」
カートゴブリンの先には未開封の銅箱。
それを無理やり持ち上げようとしている。
けれど宝箱は床から動かない。
「全然動かない」
「持ち出し不可のルール、魔物にも厳しいんだね」
「ギッ!?」
箱に弾かれたゴブリンが、カートごと横へ転がる。
「あ、宝箱に弾かれたね」
「カートごと転がっています!」
『カートゴブリンw』
『宝箱に拒否されたw』
『魔物にもルール適用されるのか』
『お宝祭り、変な客がいる』
『カートごと転がったw』
「ひー?」
「火種ちゃん、カートは乗り物じゃないです!」
「乗りたそう」
「分かるんだ」
カートゴブリンはすぐに立ち上がる。
何が彼?の原動力になっているのか。
「ギギッ!」
「カートゴブリン、また来ます!」
「宝箱は運べないのに、あきらめないんだね」
「む。でも、箱は渡さない。止める」
ゴブリンの前に向かうニーナ。
確かに、あの執念なら箱を開けかねない。
「《結晶盾》」
ニーナの前に結晶の塊が作られた。
「ギッ!?」
「カートが結晶盾にぶつかって止まりました!」
跳ね返され、またカートゴブリンは転がっていく。
ちょっと不憫だ。
「かわいそうだけど、今のうちに開けよう」
「箱! 箱!」
俺は銅箱に駆け寄る。
「銅箱、開封するよ」
フタに手をかける。
一気に開くと……。
「青!」
青い光がその場を包んだ。
「あ……あ、青の光、Aランク相当です!」
「また、かなり良いものが出たね」
宝箱に飲まれるような体勢で、ニーナが声を出す。
「石ー!」
「これは《大粒魔石》ですね! 大きいです! 銅箱から出る魔石の大きさじゃありません!」
宝箱から出てきたのは、魔力を含んだ巨大な魔石。
魔物の魔法石に似ているが、こちらは澄んだ青。
「大きい石。いいね」
「これも香木と同じく……換金品としてかなり素晴らしいです」
「売れる石」
「これは……奪われないようにしなきゃね」
今回は良いダンジョンアイテムが手に入った。
だがそれは、他の探索者に狙われる危険性があがったという面もある。
『木箱からA!?』
『大粒魔石はやばい』
『カートゴブリンの横で開けたの草』
『宝箱ラッシュやばい』
「ギギギッ!」
「ゴブリン、まだ諦めてません!」
「粘るなあ。宝箱への執着だけは本物だ」
「何も入ってないですけど……」
空の箱に向かって暴れるカートゴブリンを見ていると、館内放送が重なった。
『ご来城の皆さまにお知らせします。新しい鍵箱の出現がありました』
「鍵箱……!」
『外周通路北側にて、鍵箱反応がございます。皆さまのご来店をお待ちしております』
「外周通路北側です! ここから近いです!」
『また、別地点で《ハウンド》さまが《灰火の鍵》を一本確保しました〜。皆様ふるってご参加ください』
「冴さんたち、もう一本取っています……!」
「アナウンスされるんだね。これは……」
鍵を取れば名前が流れる。
優位な探索者の位置と成果……それが館内放送で広がっていく仕組みらしい。
「危険、増える」
「でも、迷ってられない。鍵箱に急ごう」
『鍵箱きた!』
『ハウンドもう既に一本!?』
『カートゴブリンも焦ってるw』
『鍵箱へ行くぞ!』
外周通路の奥の方へ急ぐ。
後ろではまだ、カートの車輪ががらがら鳴っていた。
「鍵箱に急ぎましょう!」




