第33話 いらっしゃいませ〜《お宝祭り》にいらっしゃいませ〜
「配信、始まっています! Ⅲ式ダンジョン《灰火モール城》突入。大型フェノメノン《お宝祭り》、開幕です!」
灰火モール城。
足元だけ見ればショッピングモールだ。
けれど、頭上には古い王宮の天井があり、二階の回廊には石づくりの手すりが続いていた。
店の看板は割れ、ショーケースは灰でくもっている。
通路の奥には鎧。レジ横には剣があった。
城と巨大商業施設みたいな……そんな感じ。
『待ってた』
『雰囲気ヤバい』
『おつおつ』
「なんか……ショッピングモールと古い王宮が混ざったみたいだね」
「壊れた柱、石づくりの壁、鎧、剣……のあるお店」
「吹き抜けの中央アトリウム、二階の回廊、店舗跡のショーケース……外周は城壁みたいです」
二階の回廊。外周の城壁。店舗跡の奥。
どこも広いのに、見通しが悪い。
「傷跡がたくさんあるね」
「灰の匂いがする」
息を吸うと、古い煙みたいな匂いが残った。
「人も多いですね」
入り口には、すでに探索者が集まっている。
端末を確認する人。武器を構える人。仲間同士で進路を決めている人。宝箱を待つ空気はあるが、浮かれているだけの集まりではない。
「おい、あれ連理だ。日野枝連理。宝箱がバグってるやつ」
「あぁ、なんかありそうだな今回は」
「襲ってSランクアノマリー奪っちまおう」
「お前、あの精霊に消されるぞ」
「そういや《ハウンド》もいるらしい」
「Ⅲ式にか。企業も連理に目をつけてるんじゃないか」
視線が集まる。
宝箱だけじゃない。人も動く。ここから先は、その両方を見ないといけない。
「噂……されてるね」
「気をつけてないといけませんね」
「ニーナが可愛いって言ってた」
その時、天井のどこかから館内放送が流れた。
声だけは、普通のショッピングモールみたいに明るい。
『本日、灰火モール城では大型宝箱フェアを開催しております』
フェノメノンだ。
「フェアって言いました!?」
「言い方は明るいけど、周りの探索者は誰も笑ってないね」
「楽しい言葉。でも、危ない場所」
「うん。買い物気分で入ったら帰れなくなるやつだ」
足を進める。
人ができるだけ少ない方が良い。
『ご来城の皆さまは、宝箱の取り扱い、魔物の襲撃、探索者間の衝突に十分ご注意ください』
フェノメノンの放送が続く。
「注意事項がフェアの内容じゃありません……!」
「危険はちゃんと言ってくれるんだね」
「親切なフェノメノン」
「ひー!」
火種ちゃんが足元で揺れ、近くの柱の根元を照らす。
柱の裏。閉じた店舗跡。壊れた案内板の陰。明かりが届かない場所が、思ったより多い。
「火種ちゃんがいて良かった。死角が結構あるね。電気がついてないとこがある」
「ついてるにしても電気はどこから来ているのでしょう……」
「ひー!」
二階に上がると《外周通路》という看板が見えた。
すでに何クランか、他の探索者もいる。
「この先……外周通路に宝箱の気配を感じます……!」
「凄いね乃々さん。宝箱の気配って」
「お祭り、始まった」
会話に合わせるように、館内アナウンスの声が響いた。
『本日の目玉商品は、城内各所に順次出現いたします』
「目玉商品って宝箱のことですよね!?」
「たぶん。でも、買うんじゃなくて取りに行くやつだね」
『始まった!』
『宝箱フェアw』
『いや増え方おかしい』
『良いタイミングなんじゃない?』
『乃々ちゃんの特殊能力w』
探索者たちが一斉に反応する。
足音が広がり、金属音が重なった。宝箱が出ると、人の流れまで変わる。
「よしよし、このラッキー逃すな!」
「こっちに銅箱あるぞ!」
「奪い合いだ!」
声が飛び、何人かが外周通路を走っていく。
一方で距離を取って様子を見る探索者もいる。
「連理さん、周囲の探索者さんたちも気づいています」
「だよね。宝箱が増えるのは嬉しいけど、人も一気に動く」
「宝箱が増えると、人も集まる」
「ひー!」
俺たちの進行方向だけ、光が増えた。
ひとつ。少し先にもうひとつ。宝箱を開けた光だ。
しかし、これは……。
「私たちの進行方向だけ、宝箱が突然現れ始めてませんか?」
「確かにね」
「はい。ほかの通路にも箱は出ています。でも、こちらの通路だけ数が違います」
他の探索者たちも気づく。
「おい、あいつら連理たちだ」
「ついていくか?」
「待て。あの密度なら魔物も寄るぞ」
「宝箱だけじゃない。罠やフェノメノンも増えるかもしれん」
追いたい人と、避けたい人。
ここにいるのは並の経験者ではない……いくつもの試練を乗り越えた探索者たちだ。
宝箱が多い場所は、稼げる場所であると同時に、危険が集まる場所でもある。
「みんな分かってる。宝箱が増えたからって、ただ好機ってわけじゃない」
「宝箱が多い場所は、危ない」
『連理さんの前だけ宝箱ロードになってる』
『宝箱密度バグってる』
『入った瞬間に配置変わった?』
『これ歓迎じゃなくて誘導では?』
『行くなと言いたいけど行ってほしい』
「視聴者の皆さんも盛り上がってますね!」
コメント欄の言葉が、少しだけ引っかかった。
歓迎。
誘導。
どうなんだろうか。
『ご来城の皆さまに、灰火モール城からのお知らせです。フェア中は鍵箱が各所に現れます』
また館内放送だ。
鍵箱……?
「そうそう! 《お宝祭り》中には特別なフェノメノンが起こるんですよ。皆さん、それが目的です」
「宝箱がたくさん出るだけじゃないんだね」
また一クランが横を駆け抜けていく。
出遅れた……かもしれない。
『鍵箱から《灰火の鍵》を三つ手に入れると、特別なフェアへご招待いたします』
「特別なフェア」
「なんだろう。でも確実にもっと良いものだろうね」
もっと良いもの。
その言葉に、昨日の夢のことが過ぎる。
「あそこ……下の広場に何かありますよ!」
「普通の宝箱?」
「いえ、違います。木箱でも銀でも金でもありません。紋章の入った灰色の宝箱……?」
下の広場に、灰色の箱が出ていた。
普通の木箱より大きい。
「ひー……!」
「あれ、普通の箱じゃない」
『ただいま1階、催事広場にて鍵箱の反応が確認されました。皆様、ふるってご参加ください』
放送と同時に、探索者の視線が下へ集まる。
「おいあの光、見たか?」
「鍵箱か?」
「まだ早いだろ。開幕直後だぞ」
「絶対に何かおかしい」
探索者たちの言葉。
それは、期待より先に警戒を呼んでいた。
「連理さん……これ、お祭りが始まっただけじゃありません」
「そうなのかもしれないね」
「レンリの力で、箱が増えてる?」
「だと嬉しいけどね」
俺の《幸運》が、ただ箱を増やしている。
そう言い切れたら、まだ分かりやすい。
でも、この城はもっと別の動き方をしている気がした。
「危ない。宝箱と、人と、魔物も見る」
ニーナの言葉に頷いて返す。
「それでいこう」
『それでは皆さま……本日の大型宝箱フェアを、どうぞ最後までお楽しみください』
「最後まで、か」
「帰るまでが、最後」
「ひー!」
『開幕から濃すぎる』
『祭りが変わった』
『もう待ってた甲斐があった』
『この先、絶対やばい』
鍵箱へ向かう探索者たちがいる。
俺たちも無視はできない。
でも。
今はとりあえず……目の前から。
「あそこ。柱の裏。木箱、ある」
「よし。開けていこう」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
今回から新ダンジョン《灰火モール城》編に入ります。
宝箱、配信、そして少し不穏な異常も含めて、ここからまた大きく動き出します!
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