第28話 すんごい頑張った結果
管理機構のロビー。
一気に現実へ戻ってきた。
着替えてから受付区画へ向かうと、奥で千紘さんが手を振っていた。
「おかえり。ちゃんと帰ってきたね〜。まずはそこが一番えらいよ」
「ただいま。何とかクリアできたよ」
「できましたー!」
気持ちを抑えきれない様子の乃々さん。
「帰ってきた。ビンも、ある」
「うん、確認してるよ。《清廉なる器》も、ちゃんと持ち帰ってくれたね。噂が広まったのか世間にも、少しずつ反応が出始めてる」
もう反応が……?
少しずつ、という言い方のわりに、千紘さんの端末はさっきから何度も光っていた。
「やっぱり、ただの珍しいビンでは済まない感じなのかな」
「たぶんね。まだ断定はしないけど、かなり大きい話になると思う」
「またの名は《ずっとそのままbeen》なのに……」
「話が、大きい」
「ビンは小さいのにね」
そう返すと、千紘さんは少し笑った。
ダンジョン帰りの疲労感と、変な名前のせいで、テンションが少し迷子になっている。
◇
静かで綺麗な一室。
「清廉なる器の詳しい話はあとで。まずは今日の本題からいこうか」
「本題……!」
乃々さんの背筋がぴんと伸びる。
「《泡沫アクアリウム》正式クリア。確保済みの必要ゴールド。どちらも確認済みです」
「じゃあ……」
「もちろん。条件は満たしてる。これからⅢ級ライセンスの発行手続きに入るよ」
「っ……!」
「Ⅲ級」
ニーナは小さく復唱した。
「まだ手続き前だから、喜ぶのは発行されてからかな」
「そ、そうですね……! まだ我慢します!」
乃々さんの顔は、全然我慢できていない。
「じゃあ、先に写真を撮ろうよ。連理くんがクラン代表で……同行者は二名で良いかな」
「証明写真って、だいたい変な顔になる気がするよ」
「大丈夫。証明写真はね、誰でも少しだけよそ行きの顔になるの」
「ニーナも、今はよそ行き」
「普段との違い、あとで教えてほしい」
「えー。わかりやすいのに」
正直、今のところ普段通りに見える。
でも本人がよそ行きと言うなら、きっとどこかに違いはあるのだろう。たぶん。
「じゃ、ライセンスをこの子に渡してね」
何かのアノマリーだろうか。
顔がカメラでスーツを着た物体?にライセンスを手渡す。
すると彼?は何故か後ろを向いた後で振り返った。
口?の辺りに手がいったような……口は無いけれど。
『撮影シマス』
と言う、カメラマン?アノマリーの前に立つ。
「はーい、撮るよ。連理くん、少しだけ肩の力を抜いて」
『撮影シマース』
「抜いてるつもりなんだけど」
「連理さん、シーサーペント戦より硬いです」
『目線クダサーイ』
こう、撮るぞ!? というテンションが昔から苦手だ。
「証明写真の方が苦手かもしれない」
『三、二……ん』
そこで謎のカメラマンアノマリーは黙った。
「ひー!」
画面の端に、火種ちゃん。
いつの間に。
「火種ちゃん、入ってる?」
「画面の端に、すごく自然にいます」
「このまま写ると、俺の本人確認に火が必要にならないかな」
「それは少し困るね〜。火種ちゃんは、今日は応援席ね」
「ひー……」
火種ちゃんは確実にしょんぼりしている。
「しょんぼりしないの。別枠で記念写真、撮ってあげるよ」
「ひー!」
「千紘さん、火種ちゃん喜んでます!」
「かわいい子の対応は大事だからね。じゃあ、今度こそ撮るよ」
『三、二……一』
今度は、火種ちゃんもちゃんと画面外で待っていた。
「撮れましたか?」
「うん。写真登録完了。ライセンス情報を更新して……」
カメラ?アノマリーが後ろを向く。
そして千紘さんに何かを手渡した。
「はい、どうぞ」
「見せてください……!」
手の中のライセンス証は……。
「等級が、Ⅲ級に変わってる」
総毛立つ。
異世界では、幸運なんて役に立たないと言われていた。
その俺が、宝箱を開けて、配信をして……何故かここまで来た。
「日野枝連理くん、Ⅲ級ライセンス、正式発行です。乃々ちゃんとニーナちゃんの同行登録も、Ⅲ級対応に更新されたよ」
「Ⅲ級ライセンスです! やりましたー! やったー!」
「きたー」
乃々さんは両手を握りしめた。
ニーナも嬉しそうだ。
「これで正式に、《お宝祭り》へ参加できるね」
「大型フェノメノンか……」
「行けますよ……! 宝箱がたくさん出る大型フェノメノンです!」
乃々さんの目は、急に配信者というより宝箱マニアのものになった。
「宝箱、たくさん。楽しみ」
「木箱だけでも大事件だったのに……」
「今も、大事件」
「それは否定できないかな」
たしかに、俺たちの周りはずっと大事件だ。
「大事件がもう一つ……小ビンの件で、もう連絡が来てる」
「もう?」
「うん。医療系の研究部門を持っている製薬会社から、至急面談希望。海外の会社だよ」
海外。
その言葉で、部屋の空気が少し引き締まる。
「至急、ですか?」
「かなり急ぎだね。《清廉なる器》について、直接話を聞きたいらしいよ」
「ビン、緊急事態」
「さっきのことなのに、動きが早いね」
「それだけじゃないよ。先方は、できれば今日中に話したいって」
「今日中……!?」
「急ぎすぎ」
ニーナの言葉に、俺も心の中でうなずいた。
正式クリアして、Ⅲ級になって、これで一息つけるかと思ったら、ビンの件はもう次へ進んでいる。
「うん。たぶん、このビンはただの超特殊アノマリーってだけじゃないね」
「宝箱から出たものが、そんな大きな影響を……?」
「世界を変える?」
ニーナは小さく首をかしげる。
保護ケースの中で、《清廉なる器》は静かに光っていた。
俺たちはⅢ級になった。
これで《お宝祭り》へ行ける。
でもその前に。




