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第26話 命の忘れ物はございませんかー?


「ここから決めにいく」


 全員が同じ方向に覚悟を決めた……そんな気がした。


 《反咲き》で絡みついたツルは、シーサーペントの巨体を完全には縛れていない。……が。


 今まで水と氷に隠れていた三つの魔法石。


 それが見えた。


「《反咲き》で胴と尾の軌道がずれている。首元がこちらを向いた」


「魔力、魔法石に集まってる」


「でも、もう守り始めてるね」


 シーサーペントを覆うように、水が集まっていく。


 まだ完全な防壁じゃない。


 押し切れる。


 それでも。


 水面から吸い上げられた水が、魔法石の前で凍り始めていた。


「水と氷の対魔法防壁を張る気だ」


 透が端末を見ながら呟いた。


「小型の魔銃では足りない。対物魔銃に替える」


 冴が両手の魔銃を下げ、背中から長い銃身の魔銃を抜いた。


 構えた瞬間、銃口の周囲に黒い魔力が集まる。


「巨体の攻撃は俺が受ける」


「頼む。魔法石を狙う」


「シャァアァアァァァッ!」

 

 威嚇するように吠えるシーサーペント。


「撃つ」


 ダァン……低く重い音。


 対物魔銃の一撃が、放水路に響いた。


 作りかけの氷が砕け、その奥の左の魔法石に亀裂が走る。


『一斉攻撃来た』

『対物魔銃!?』

『反咲きで見えた弱点を逃がすな』

『総攻撃の流れだ』


「結晶の光の名の下に」


 ニーナが一歩前へ出る。


 白と青の結晶が、指先の周囲で渦を作った。


「答えよ。其は塊。其は撃。其は放たれる」


 魔力が収束して……


「固まり、渦巻き、跳ねよ」


 結晶の粒が集まり、星の形へ固まっていく。


「とっても小さく」


 詠唱の割には、大きすぎる魔力の塊。


「《結晶星》」


 放たれた結晶星。


 それは跳ねるように曲がり、右の魔法石を貫いた。


「左右の魔法石が壊れました!」


「ガァァァァァアァァァァア!!!!」


 シーサーペントの体が大きく傾いた。


 空中を泳いでいた胴が落ちかけ、尾が円柱にぶつかる。


 水流が乱れ、作りかけの氷槍が途中で崩れた。


「左右は浮遊と水流の補助制御。中央が本体だ」


 透の声が飛ぶ。


 直後、残った中央の魔法石へ水が集中した。


 今度は速い。


 水と氷が厚く重なり、全身を急激に守り始める。


「魔力が暴走している」


 冴の言葉。


 膨大な魔力を伴って作られていく……氷と水の防壁。


「俺が行くよ。魔法防壁なら物理には弱いかもしれない」


「レンリ、危ない」


「分かってる。でも、守られたら攻撃が通らない」


 このままでは防壁が完成してしまう。


「グガァァァァァッ!」


 シーサーペントが体勢を戻そうと暴れた。


 尾が柱を叩き、放水路の水が跳ね上がる。


「戻らせん」


 ソーゴが盾を押し出した。


 尾撃を受けた盾が低く鳴り、足元の水が裂ける。


「助かる、ソーゴ」


「最後の元気はあるようだ」


「今のうちに行くよ!」


 駆けた。


「連理さん、防壁の根元へ向かっています!」


 濡れた床を蹴る。


 槍の形になりきらない氷塊が、こちらに飛んできた。


 弾く。


 弾く。


 駆け抜けて、魔法防壁の真下に来た。


 まだ未完成だ。


 氷の表面には亀裂が走っている。


 まだ、割れる。


「ここだ」


 バールを握り直す。


 一撃。


 魔力で固められた氷の亀裂へ、バールの先端を叩き込む。


「《穿つ》」


 腕に、骨まで響く冷たさが走った。


 それでも止めない。


 もう一度、押し込む。


 バリィィィン。


「よし!」


 魔法防壁が砕ける。


「これで中央の魔法石まで攻撃が通る。ニーナ、合わせられるか」


「合わせる」


「撃つ」


 冴の対物魔銃が再び魔弾を放つ。


 ニーナの結晶が、同じ一点へ重なった。


「――――!」


 高いシーサーペントの咆哮。


「中央の魔法石に亀裂」


 透の声に重なるように乃々さんが叫んだ。


「浮いていた体が落ちかけています!」


「通ったな。決めろニーナ!」


『バールで防壁割った!?』

『連理が道を作ってニーナが通した』

『共同撃破感』

『ハウンドも連理さんたちも噛み合ってる』


 亀裂は入った。


 でも、砕けきっていない。


「結晶の光の名の下に」


 ニーナの声が静かに通った。


「答えよ。其は波動。其は凪。其は放たれる」


 今度は結晶の星ではない。


「とっても弱く」


 光が、細くまっすぐに収束していく。


「《閃光》」

  

 一直線に届く《閃光》。


「レーザー! 魔法石に届きました!」


「中央の魔法石が……砕ける」


「シャァァァァッ!」


 シーサーペントの巨体が揺らいだ。


「魔法維持が崩れる。落下するぞ」


 空中を泳いでいた胴が、支えを失って沈み始める。まとっていた水が崩れ、氷の破片が雨のように落ちた。


「シーサーペントが……光になっていきます」


 シーサーペントの体から、白い光が漏れ始めた。


「倒した、のかな」


「魔法石が砕ければ、な」と透。


「終わりだ」と冴。


『倒した!?』

『撃破きた』

『バールで防壁割ったの熱すぎる』

『ニーナの光が通った』


 巨体は水へ落ちる前に、光の粒になって消えていった。


「ピッ」


『遊泳終了時は忘れ物にご注意ください』


「……忘れ物は、ないかな」


「命を忘れずに済みました……」


「忘れてない」


 ニーナが真顔でうなずいた。


 その笑顔に、ようやく少しだけ息が抜ける。


『Ⅱ式ダンジョン《泡沫アクアリウム》正式クリア条件達成』


「正式クリア……!」


「達成したんだね」


「Ⅱ式、越えた」


「ひー!」


『正式クリアきたあああ』

『Ⅱ式突破!』

『やったーーー!』

『ハウンドとの共闘よかった』

『これでクリア報酬くる?』


 足元に光が集まり始める。


 それを見た乃々さんの反応は早かった。


「見てください。足元に光が集まっています」


「宝箱?」


 ニーナが嬉しそうに声を上げた。


「宝箱です!」


「反応が早いね」


「正式クリア後の宝箱です。反応しない方が無理です!」


 宝箱の形が浮かび上がる。


 戦闘の緊張がまだ体に残っているし、なんだか……熱が冷めない。


「こちらも最深部の扉が開いたな」


「その箱はお前たちのものだ。私たちは回収対象へ行く」


「いいんですか……?」


「我々の目的は回収対象だ……それに」


 冴の言葉に合わせて、ソーゴが呟く。


「お前たちはよくやった」


 笑みを見せた透が同調する。


「ねぇ? 班長」


「あぁ。良い動きだった」


 格上のクランにこう言われると……胸の奥が熱くなる。


「冴……」


「ほめてくれた。うれしい」


 ニーナが少しだけ胸を張る。


 冴はそれを否定せず、俺の方を見た。


「連理」


「うん」


「次は、最初からお前たちを計算に入れる必要がでてきた」


「味方としてなら、心強い」


 その言葉に冴の口角が上がった気がした。


「敵なら?」


「できれば、そうならない方が助かるかな」


 ダンジョンではどうなるかわからない。


「……行くぞ。ソーゴ、透」


「了解」


「回収区画へ向かう」


 《ハウンド》の三人が、開いた奥の通路へ進んでいく。


 背中を見送っている間にも、足元の光は強くなっていた。


「箱! 箱!」


「うん。俺たちはこっちだね」


「ひー!」


『ハウンドは任務に』

『宝箱任された』

『さてどうなるー』

『宝箱王、来るか』

『正式クリア報酬、何が出る?』


 乃々さんがフライへ視線を向ける。


 ドローンは宝箱の上空へゆっくり移動し、開封の瞬間を映す位置についた。


「連理さん」


「うん」


「箱、開ける」


 俺たちは、ついにⅡ式を越えた。そして今……その報酬に目を向けた。




第二部の校正を始めました!


第一部は50話ぐらいの予定です。


応援して頂いて超ありがとうございます!

頑張ります!

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