第25話 打開策
《深部放水路》の海にも似た貯水槽の上。
シーサーペントは魔法を発動させた。
柱の向こうから、水が迫ってくる。
「水が来ます……! 壁みたい……!」
「シャァァァァァアァァァァア!」
咆哮と水流の音が重なる。
ゴゴゴゴゴ……。
放水路全体に轟音が響いた。
「大丈夫。守る」
ニーナの前で結晶が組み上がる。
正面から来る水の壁に対して、ソーゴの大楯とニーナの結晶盾が向かった。
衝撃音。
「ぐっ……!」
「む……」
盾にぶつかった水が左右へ爆ぜ、白い飛沫が俺たちの耐水探索装備を叩いた。
押されている。
それでも、ニーナもソーゴは倒れない。
「ソーゴ、流石だな」
「まだ受けられる」
「ニーナもすごいよ」
「えへへ」
「班長、水流の端が回り込む。氷槍も飛んでくるぞ」
透の声に、全員の視線が分かれた。
シーサーペントの体表からはがれた水が凍り、槍型の氷へ変わっていく。
「氷は私が落とす」
冴の二丁魔銃が上を向く。
「飛んできたら守るよ」
俺はバールを握り直した。
「ひー!」
火種ちゃんの火が、柱の影と足元を照らす。
水流の端が、俺の靴の前をかすめた。踏んでいたら、たぶん持っていかれていた。それぐらいの勢い。
直後、氷槍が飛ぶ。
冴の銃声が二つ重なった。
空中で氷が砕ける。
散った破片のいくつかが、こちらへ流れてくる。
「よっ……と」
俺はバールで受けて、粉砕した。
氷片が硬い音を立てて割れる。
『ハウンド受けた!』
『ソーゴさん硬すぎる』
『冴さんの判断早い』
『ニーナちゃん流石精霊』
『でも首元に届かないのキツい』
受ける。撃ち落とす。弾く。
役割はできている。
でも、守れているだけだ。
「本体に攻撃が当たらないのが痛いな……首元は見えるか」
冴が乃々さんに声をかけた。
「一瞬だけ見えました! 水色の魔法石が三つ!」
「今の角度では攻撃が通らない」
シーサーペントは放水路の柱の間を泳いでいく。
「キシャァァァッ!」
「柱の裏へ回ります! 氷の槍を複数作っていますね」
乃々さんはフライの映像を見ながら、敵の位置を追っていた。
「必ずこちらを見据えて動いているね」
俺は呟く。
「個別に動くと、魔法で狙い撃ち」とニーナ。
「ここからだと体勢を崩さないと、狙えないな」
魔法石を狙うにはもう少しだ。
しかし、この警戒状態では……。
シーサーペントは柱を使い、氷を使い、水を使って、こちらの攻撃をずらし続けている。
「連理、何かあるのか?」
「試してみる……《刹那の種》」
種を放る。
水を含んだ床の上で芽が割れ、ツルが走った。
「ツルが伸びます……!」
しかし……。
「届かない」
「成長速度が足りない。絡む前に抜けられる」
透の言う通りだった。
ツルが届く前に、長い胴体は柱の向こうへ抜けていく。
「普通に伸ばすだけじゃ届かないか」
スピードもそうだ。
伸ばしてから追うのでは遅い。
なら……。
「次、柱を抜ける。首元はまた隠れるぞ」
「《フライ》で追います!」
ニーナが俺を見つめる。
「レンリ、種は遅い。逃げられる。遠い」
「うん。伸びた後で合わせても遅いね」
「後……じゃない?」
ニーナの短い問いで、考えがつながった。
伸びた後じゃない。
「伸びる前か……やってみる。《刹那の種》」
もう一度、種を投げる。
今度は空中で、針を向けた。
「《刻の縫い針》」
針が種を縫い止める。
発芽するはずの瞬間……膨らんだ種が、その場で止まった。
「種の段階で止めたのか」
「止まってる。でも、中で育ってる」
「種の中の光が強くなっています……!」
小さな種は動かない。
けれど、内側で何かが膨らんでいるのが分かった。押し込められた成長が、逃げ場を失っている。
「ソーゴ、もう少し持たせるぞ。透、進路を予測するんだ」
「了解」
「柱の並び的に進行方向はひとつ」
「《フライ》、追えています! このまま来ます!」
シーサーペントが柱の間を抜けてくる。
今度は、待つ。
伸ばすんじゃない。
届く分だけ、先にためておく。
「シャァァァァァッ!」
「氷槍の処理はまかせろ」
冴の銃声が放水路に響く。
氷槍が砕け、破片が水面へ落ちた。
「角度はこれくらいかな」
「《ちょっとまち針》、戻る」
「行け!」
「種が開きました!」
針が戻った瞬間、止められていた成長が一気に外へ出た。
割れる種の殻。
「《反咲き(かえりざき)》とでもつけようか」
ツルが空中を走り、柱へ食いつき、さらに先へ跳ね上がった。
「成長力が一気に外へ出た。通常の《刹那の種》より速い」
「ツル、届いた!」
「やりました! シーサーペントの胴と尾に、ツルが絡んでいます!」
完全に縛る必要はない。
動きを止める必要もない。
あの巨体の向きが、ほんの少し変わればいい。
「胴がずれた。首元が出る」
冴の言葉に透が答えた。
「地上での魔法制御での浮遊なら、そう簡単に体勢を戻せないはずだ」
『届いた!?』
『種を止めてたのか』
『反咲きやばい』
『普通のツルじゃない』
『首元の石見えた!』
シーサーペントの長い胴が、柱の間で歪む。
水色の魔法石が三つ、露出した。
「ガァァァァァアッ!」
のたうち回るように蠢く蛇。
「チャンスです!」
乃々さんの声が響く。
冴の空気が変わった。
「全員、攻撃を集中させろ」
ここでたたみ込む。
その判断が、全員に伝わった。
「ひー!」
『弱点見えた』
『おおー』
『反咲きで首元開いた』
『連理が起点作った』
『ここから総攻撃だろ』
『決めろ!』
届かない場所に届く起点を作った。
《刹那の種》と《刻の縫い針》。別々に出た宝箱の中身が、一本につながった。
「ここから決めにいく」
敵を見据えて、声に出した。




