水族館と変わらない笑顔
約束の土曜日。私たちは電車で水族館に来ていた。
水族館の入口は混雑していて、下手したら簡単にはぐれてしまいそうだった。
「小春ちゃん」
光希に呼ばれて振り向くと、光希は私の手を優しく取った。
「しっかり握っててね」
昔から変わらない仕草なのに、光希の手が数年前と明らかに違っていて、まだ慣れない。
数年前はイケメン女子だったのに、今はガチのイケメンになってるとか、誰が想像できたのだろうか。
それから何とかチケットを発券して、いざ水族館の中へ向かう。
サンゴ礁のコーナーから順番に眺めて行くと、巨大水槽に辿り着いた。
「綺麗……」
どこまでも続きそうな、透き通った美しい海の中が、そのまま切り取られたような、そんな空間だった。
隣に立つ光希の方を見ると、バッチリと目が合って、思わず逸らしてしまう。
「小春ちゃん、次行こっか」
私が頷くと、光希は私の手を引いて移動し始めた。
人混みを抜けるためなのか、少し強めだけど痛くはない。
やがてクラゲのコーナーになると、光希は手を引く力を弱め、ゆっくりめに歩き始めた。
「こんなにクラゲがいるなんて思わなかったな」
「そうだね、幻想的……」
「僕、小春ちゃんとここに来れて、本当に良かった」
「そうだね」
「小春ちゃんと過ごすこの時間が、僕にとって一番尊くて、一番大切な瞬間なんだ」
「大袈裟じゃ……」
「ううん、そんなことないよ」
私の目を見る光希の目は、小さい頃から変わらない、真っ直ぐで、迷いがない目だった。
そしてお土産コーナーに着くと、光希は迷いなくペンギンのぬいぐるみを手に取った。
「ここの水族館に来たら、やっぱりペンギンだよね。お揃いで買う?」
そういえば……昔からこんな風に、思い出として残る物には、いつも『お揃いで』と言ってたっけ。
「小春ちゃん?」
「ああうん、買う買う。いくら?」
「いいよ。僕がどっちも買うから」
「いやいや、大体三千円くらいでしょ……?」
「そのぐらい平気だよ?」
これ何言っても支払わせてくれなさそうだな。約三千円はさすがに気が引けるから、せめて一体は買わせてほしいんだけど……。
そうだ、この方法なら……!
「じゃあ、お互いに買って、お互いのをプレゼントし合うとかは?」
小学生の頃から使ってきた手だもん。このセリフなら絶対光希は片方手放すはず……と思っていたが、
「そうだね、それも嬉しいけど、やっぱり僕が支払うよ。いつもありがとうの気持ちを込めたプレゼントだと思って受け取って」
ダメだった。




