ちゃんとここにいる
休みの日。僕はいつものように、小春ちゃんの家のインターホンを鳴らしていた。
そしていつものように、小春ちゃんのお母さんが出てきた。
「いらっしゃい光希ちゃん。あの子ならお散歩に行っちゃったわよ」
一気に頭が真っ白になった。
胸の奥がざわついて、脈が速くなるのも感じる。
「散歩……ですか?」
「ええ。最近ちょっと元気なかったみたいだし……ちょっとした気分転換じゃないかしら」
「分かりました……ありがとうございます……」
僕は一礼してから、走り出した。
小春ちゃんが、一人で。どこに? 分からない。片っ端から探しに行かなきゃ。絶対見つけなきゃ。
足が自然と速くなる。
体力には自信があった。でもそれなのに、
苦しい。
公園、学校前、神社、緑になってしまった桜通り。どこを探してもいなかった。
そんなに遠くに行ってないはずなんだけど……。
走り回って、どこにもいなくて、転びそうになって。
足の限界が近くなり、橋の上で足を止めた。
ふと河川敷の方を見ると、見覚えのある姿を見つけた。
「小春ちゃん……!」
小春ちゃんは、川の近くに座り込んで、風で髪を揺らしながら、ぼんやり水面を見つめていた。
僕は河川敷に続く階段を駆け下りて、小春ちゃんのところに駆け寄り、抱きしめた。
「小春ちゃん……良かった……」
「光希っ!? なんで息切れしてんの……?」
肩で息をしながら、小春ちゃんの体温を確かめるみたいに抱きしめた。
ちゃんとここにいる。
それが実感できただけで、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ気がした。
「ちょっと……苦しいかも……」
「ごめん、でもこのままにさせて」
さすがに少し緩めたけど、離す気なんてなかった。
「最近元気なかったし、どっか行ったって聞いて……すっごく心配した」
「ごめんね、ちょっと……気分転換というか」
「僕は忘れないよ」
川のせせらぎが静かに耳へ届く。
「記憶喪失になっても、僕は小春ちゃんを思い出す。一緒に遊んで笑い合った時間も、転んじゃって泣いてた時間も、初めて出会った日も」
小春ちゃんは少しだけ安心したみたいに目を細めた。
「ありがと、光希」
その声を聞いて、胸の奥がじんわり熱くなった。
絶対離さないよ、小春ちゃん。
光希は、反省もしないし後悔もしません。




