1-4 テンプレ君市場調査する
翌朝は陽の出とともに目が覚めた。身体の疲れは大分抜け魔力消費による倦怠感も回復している様だ。今日は神の手の実験予定だが考えてみれば実験のための材料が無い。取り敢えずハルムートの街を見て周り材料を確保をしよう。
今日の予定を決め食事を終えたらすぐに街へ出られるよう身支度を整え食堂に着くと奥さんが井戸から厨房へ水を運んでいた。
「おはようございます。」
「おはようございます、体調はもうよろしいんですか?」
「ええもうすっかり、今日は少し街を見て回ろうかと思っています。」
「そうですか、それは良かった。昨夜も大分お疲れの様だったから。急いでお食事のご用意をいたしますね。」
そう言って奥さんは朝食の準備をしてくれた。今朝のメニューはベーグルサンドに温野菜とスープ。美味しくいただいた後そのまま街へ出掛けた。
街はまだ陽が昇ったばかりだというのに早くも活気付いている。俺はこのハルムートという街の情報を集めるため入街受付へと向かった。簡単に情報を仕入れるならあそこが一番確実だろう。
街門へ着くとこの時間は出立する者がほとんどのため出発口は混み合っているが入街口にはほとんど人が見当たらず、職員もこれから来るであろう入街者のための準備などを行っている様だ。その中でも暇そうにしている青年に目星を付けて声をかけた。
「おはようございます、少しよろしいですか?」
「んっ? あぁ、おはようございます。どうかしましたか?」
「いえ、先日ハルムートに来たばかりなものですから街の事を少し教えていただければと思いまして。」
「そう言う事ですか、今は忙しい時間でもありませんし構いませんよ。」
青年は快く申し出を受け入れハルムートという街について詳しく説明してくれた。
なんでもこのハルムートを治める領主はなかなか優秀らしい。もともと肥沃な土地ではあったそうだが、北部には山脈が連なり南部には魔の森が広がるため開拓の余地は限られてきていたそうだ。そこで北部山脈の鉱山開発に着手し見事成功、新たな鉱山から莫大な銀や鉄鉱石などが産出された。
その資金を基に今度は街の再開発を行い下水道の整備や区画整理を実施。街は清潔かつ利便性が向上し急激な成長を遂げ現在に至るとの事。人口も10万人を超え今もなお増加中、奴隷は数に含まれていないため実質15万人は超えている様だ。
街は川に沿って半円形に広がり旧外壁の内側に貴族街がありそれを囲むように平民の街がある。その平民街も区画整理の結果、大別して商業区画・生産区画・住居区画に分けられその区画の中でもそれぞれの取扱い品目に応じて区分けされているそうだ。ちなみにこの南門は商業区画に属しメインの街道につながっている。
思っていた以上の情報を得られさらには簡易的な地図まで書いてくれた青年にお礼として1Zを渡すと大層喜んでくれた。
▼
聞いた情報と書いてもらった地図を基にまずは商業区画の散策を始める。
神の手の実験材料はどんな物がいいだろうか、取り敢えずは鉱石・金属・布・革・木材など押さえておけば間違い無いかな。まずは鉱石・金属を買えそうな所を探してみよう。そう思い探してみるがなかなか見つからない。考えてみれば俺が欲しいのは原材料で店に売っている物は加工品だ。欲しいなら生産区画を回った方がいいに決まっている。
でもせっかく商業区画にいるなら市場調査を先にやってしまおう。何と言っても生産・商業チートを目指しているのだから市場調査は大事だ。それに販売品目や価格を把握できれば実際の文明水準や貨幣価値が大雑把には把握できるんじゃないかな。
そんな思惑から早速市場調査を始める。まずは食料品や日用品なんかを調べたが価格や品質は別として品ぞろえは思っていたよりかはマシだった。中世と近世の間ぐらいでまあテンプレ通りって感じかな。
ファンタジーな物も超高級品としてちょいちょいあった。魔物の肉とか水や火を出す魔道具とかテンプレ通りのヤツだ。ただ魔道具は基本的に貴族のお下がりみたいで平民には魔力消費量が多すぎてまともに取り扱えないらしい。なんでも魔力量は遺伝に強く関係するらしく貴族は魔力が豊富なのでそれらの魔道具も使いこなせるとの事。
それを知って街の人たちの鑑定をしてみたがやはり魔力はかなり低い、よくてDでE〜Fが平均といった感じかな。俺の魔力量なら使えなくないのか? でもそんなに魔力を消費するなら倦怠感が半端ないからできるだけ使いたくないな。
ちなみに蓄光石は魔道具ではなく鉱石だった、なんでも発掘量が安定していて魔力消費もかなり少ないため一般に普及した様だ。他にもちょっと高価だが蓄熱石なんていうのもあり調理器具や冬場の暖房代わりになるらしい、どういう理論なのかは分からん。
物価は幅がかなり大きく日常的な食料品や衣類はかなり安い、イメージとしては元の世界の発展途上国に近いかな。暮らそうと思ったらかなり安い金額でも暮らせるがまともな生活水準を保とうとすればそれなりにかかる。
そのため貨幣価値は簡単に比較をできないが相対的に見て元の世界と比べても約2〜3倍程度の差はあると思われた。つまり俺はかなりの額の資金を持っている、今後商売を始めるにあたっての資本金としては十分だな。
続いてファンタジーのお楽しみ武器・防具屋を覗いてみる。とりあえず何軒かあるが1番店構えのいい武器屋から覗いてみる。
「いらっしゃいませ。」
高級店の風格がある、基の世界の高級ブランドショップの様だ。
いろいろ鑑定を駆使しつつ眺める、武器高いなぁ〜。白鋼の剣が一振り1,000Zってどんだけだよ。確かに鑑定でも最高級品になってはいるけどさ。額に飾ってあるミスリルの剣なんて10,000Zだぜおい、武器なんて消耗品じゃねえのかよ。あぁ車と同じ感覚か、それならなんとなく理解……できるか! どんなスーパーカーだよ。しかしミスリルあるんだな、どこまでもテンプレ。
俺は高級店を出て他の武器屋もみて回るが一般的に凡庸品となるのは鋼鉄製の武器でおおむね100〜200Z程度か、妥当といえば妥当かな。
最後に薄汚れた店に入るが雰囲気は完全にジャンク屋だ。置いてある武具は中古品どころか破損品もちらほらだ、少しは研ぐなり治し入れるなりの販売努力をすればいいのに。サラッと見て出ようとしたその時、一振りの剣が目に入った。あれっ? と思い鑑定してみると折れた魔剣となっている。魔剣……厨二丸出しのその響きにとてつもなく惹かれるものがある。
これ神の手で治せたりしないかな、鑑定でも折れているせいかどんな魔剣か分らんけど。
俺はすぐに目をそらし気のないそぶりで今度はしっかりと鑑定しながら店を見て回るもそれ以上の掘り出し物は見当たらなかった。だが店をよく見て回って気づいたこともある、取り敢えずこの折れた魔剣は実験もしたいし購入の方向で考えたい。スムーズに話がまとまればいいけど、そんな事を考えながら偏 屈そうな主人に話しかける。
「どうです景気は?」
「みればわかるだろう、こんな店に来るのは食い詰めた貧乏人かあんたみたいな物好きぐらいだ。」
「なるほど、しかしなぜ仕入れたまま販売しているんですか?」
「ふっ、わかっていながらそういう質問する奴は好きじゃあないね。」
あらら、やっぱバレてるよ。何げなくこの店主、洞察力Level5に交渉Level5を持っているからな。
「気を悪くさせたなら申し訳ありません。でも実際こういった仕事は流して何ぼみたいな物でしょう。」
「何でもかんでも流しゃあ良いってもんでもないだろうに、店にあるような物なんてそんなもんさ。それにそれじゃあ食い詰め共も持ち直す目が小さくなる。」
「なるほど、持ちなおされる方結構います?」
「ごく稀にってところかな。ただ持ち直した結果別の店に行っちまう奴も多いがね。で、気にしていたそいつはどうする?」
「これも待っているのですか?」
「そいつは何処かで拾った物みたいだな、鋳潰そうにも何でか潰せないもんだからここに持ち込んだんだろう。確かになんか引っかかるんだが折れた上にその状態じゃあどうしようもない。あんたみたいな物好きが買ってくれるだろうから置いといたんだよ。」
「いや、気にはなりますがさすがにちょっと難しいですね。価格次第ですがいざ処分ってなっても簡単じゃないみたいですし、かといって買っといてその辺に捨てるわけにもいかないですから。それとも買い戻していただけますか、そうですね……5掛け程度で。」
「んー、安くしとくから完全に引き取ってよ。50Zで良いから。」
「不良在庫のゴミに随分ふっかけますね、20Z、どうせそれでも丸儲けでしょう?」
「ちょっと面倒なだけで別に当てがないわけじゃあないんだ。30Z、これ以上は無理だ。」
「30か……、わかりました。買い取りましょう。ただ今度掘り出し物があれば取っておいてくださいね。」
俺は金貨を3枚手渡した。
「毎度あり、今度よさげなものが出たらお前さんのために取っておくよ。」
俺は折れた魔剣を受け取り質屋を後にした。
引き続き今度は防具屋を見て回る。雰囲気は武器屋と変わらないが売っている物はさらにファンタジーで溢れていた。何と言っても素材がモンスター、聞いたこともないトカゲや獣の皮に虫の外殻、蜘蛛の糸など多種多様だ。さすがに竜は無いみたいだがテンプレ通りだな。それに伴い価格もさまざまだが平均すると200〜300Zってところか、とりあえず市場調査はこんなもんで十分かな。




