1-3 テンプレ君魔力を試す
翌朝目を覚ますと全身が痛い。昨日の疲れは抜けきっておらず筋肉痛も相まって身動きするたび身体が軋む。少し億劫だがゴロゴロしていても仕方ないので軋む体に鞭打って起き上がると朝食をとるため下におりた。
食堂では主人が掃除をしている最中の様だ。
「おはよう、大分お疲れだったみたいだな。もう日もすっかり昇っちまったぜ、飯にするかい?」
「遅くなって申し訳ありません、お願いできますか?」
「ああ、大丈夫だ。そこに座って待っていてくれ。」
主人はそう言うと厨房へと入って行った。
しばらく待つと食事の用意が完了する。朝食は腸詰めにベーコンとキャベツの酢漬、昨夜同様のスープにパンだった、簡単な料理ながら味はやはり素晴らしく十分に満足できるものだ。
俺は食事をしながら今日の予定を考えた。まずは魔力の取り扱いだな、それから亜空間創造と結界創造の力を検証し神の手の実験もしなきゃいかん。食事を終え少々部屋へこもる旨を伝え食堂を後にした。
さあ、早速魔力の使い方を覚えよう。だが、どうすればいいんだ? 今迄魔力なんて概念すらない世界で暮らしていたんだ、いざ使おうにもさっぱりわからない。
一人悶々と悩みながら考えているとふとテーブルの上の蓄光石が目に入った。そうか、こいつに魔力を流して光らせてみればなんかわかるかも。
そう思い立ちテーブルの上の蓄光石へ手をのせた。やはりのせただけでは光らない、掌に意識を集中し力を込める。すると掌からスルリと何が抜け行く様な感覚がし蓄光石が光った。
なるほど、これが魔力を取り扱う感覚か。
一度意識さえできてしまえば自分の身体の魔力をなんとなく捉える事ができた。なんだ結構簡単なもんだな。俺は蓄光石へ魔力を流し込んだりその魔力を抜いたりを繰り返し魔力の取り扱う感覚を確認する。
その後漠然と感じる身体の魔力を全身に流れる血管を通して身体中を巡らせるイメージで操作してみるとさらに明確に自分の魔力を捉えられるようになった。そうして意識的に身体中を循環させているとその力の源が臍の辺りにあり、そこから湧き出ている様に感じる。俗に言う丹田って言うやつか、どこまでもテンプレだな。今度はその丹田に力をこめると徐々に魔力が生み出され、身体中を循環させている魔力が強くなっていくのがわかる。
魔力を身体中に循環させると身体能力にも影響を及ぼすらしく、少し動いてみると速さ・キレともに良くなっているのが分る。しかもその効果は循環させる魔力の量に比例しているようだ、なるほど魔力にはこういう使い方もある訳だ。
ひととおり魔力の取り扱いを検証したのち続けて特殊能力の検証を始めた。テンプレでいけば大体こういうのはイメージが大事だ。
まずは亜空間創造を検証するため目を閉じて循環させていた魔力を手に集め圧縮するように操作しセルフィーネ様に出会った場所の様な真っ白な空間をイメージしてみる。すると手の中に何かが生み出されたのが感覚的に把握できる。
今度はそれに魔力をどんどん流し込んでいくとその何かが広がっていく感じがする。とりあえず物置小屋程度の大きさまで広げ魔力を流すのをやめる、その途端せっかく広がったはずのそれが収縮してしまう。まずい、そう思い再度魔力を流し大きさを維持する。どうしたものかと思いながら考えていると不意にひらめいた、広げたものを魔力で包んであげればどうだろうかと。ひらめきのままに魔力を流し込む事から包み込むように切り替えて流していき包み終わったところで再度魔力の流れを止めてみる。すると今度は収縮することなく維持しているようだったため目を開けて手の中を見てみるとそこには特に何もない。だが生み出された空間がたしかに存在するのは頭の中では理解できる。
俺は鞄から鉄のナイフを取り出し試しにその空間にしまうようにイメージしてみる、すると手に握られたナイフが不意に姿を消した。今度はそのナイフを取り出すようにイメージをするとナイフは再び姿を現した。おお、アイテムボックスのでき上がりだ。亜空間創造、素晴らしいじゃないか。
直後に身体は軽い倦怠感に襲われる、これが魔力を使用するという事か。そこまで酷い倦怠感ではないため検証を進め、アイテムボックスへいろいろな物の出し入れや拡張方法などを試す。
基本的には手を触れなければ収納は不可能だが大きさや重さには関係なく空間の許容内であれば出し入れできるようだ。また、入れたものがどんなものか頭の中で把握可能と素晴らしい性能だ。拡張は包んだ魔力を広げたのちに広がった分だけ補充する様に魔力を流し込むとできる様だ。
軽い倦怠感はあるもののテンションは上がりっぱなしなのでそのまま続けて結界創造の検証を始める。
まず身体を覆う様に魔力を張ってみた、その魔力を膨らます様なイメージで操作するが放出が強まって広がるだけで膨らんでいる様な感じではない。広がった魔力を身体に戻し再び覆う様な状態で維持し考察する。
どうも魔力は発生源からは離すことができない様だ、ならば先に結界を創造しそれを膨らませてみてはどうだろう。そう考え身体を覆う魔力を固めるイメージをしてみた。すると魔力が変質したのが感覚でわかる、だがその硬い何かに覆われているため身動ができない。このままではにっちもさっちもいかないのでその固まった何かに魔力を注ぎ膨らます様にイメージする。すると今度はイメージ通り膨らんでいった。半径2メートル程度まで膨らませたところで魔力を注ぐのを止める。そうするとそのままそれが固定された様に感じた、これが結界か。
ちなみに固定された結界を再び魔力として取り込む事はできなかった。いろいろなイメージで条件付けを変更できる様だが固定してしまえば変更はできなくなる仕様の様だ。
作っては消しを繰り返して検証を進める。わざわざ身体を覆わなくても手の中に小さな結界を作りそれを膨らませれば作製可能な様で、条件付けの違いにより膨らませる魔力の必要量も変わる様だ。亜空間創造も結界創造も作製時に魔力を消費するがその後の維持には継続的な魔力を必要とはせず非常に利便性の高い能力だった。
また、亜空間創造で作製した亜空間には追加で魔力を注いで拡張などのカスタマイズが可能だが結界創造で作製した結界は固定してしまうとその後干渉はできなくなる様だ。
特殊能力の検証を終える頃には強い倦怠感に襲われ動くのが困難な状態に陥った、どうも魔力を使いすぎた様だ。そのままベッドに横になり休憩するといつの間にか眠っていた。
目を覚ますと陽が落ち始め部屋は薄暗くなっている。身体には倦怠感がまだ結構残っているし、昨日の取りきれなかった疲れもあって体調はあまり良くない。神の手の実験は明日にまわして今日は食事を取ってさっさと寝てしまおう。
食堂へ下りると主人は受け付けの方で客らしき人たちの相手をしていた。何組かきている様だが誰も泊まることなく帰っていってしまう。
そういえばここに泊まっている客を俺以外見ていないな、飯は美味いしそれなりに小綺麗なんだかなんか問題でもあるのかね。厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁なので俺は華麗にスルーを決め込む事を心に誓う。食堂の椅子に座り待っていると従業員の女性が注文を取りに来た。
「お食事をご用意させていただいてよろしいですか?」
「ええ、お願いします。あと先にワインと軽くつまめるものもいただけますか。」
「大丈夫ですよ、すぐに出せる軽い物なんていうとチーズやハムぐらいになるけどよろしいかしら。」
「十分ですよ。」
「うふっ、それじゃあすぐにご用意させていただきますね。」
優しい笑みを返されいろんな部分がキュンとする、まあ所謂美女ではないが素朴で可憐な気立ての良い女性だ。身体もけしてスタイルがいい訳ではないが、程よい肉付きで非常に肉感的だ。
俺は用意されたチーズやハムをつまみにワインを飲んで料理を待っていた。しばらくすると主人が料理を持ってやって来た。
「今日はずっと部屋にこもりっきりだったみたいだが大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、疲れが溜まっていた様なのでちょっと荷物の整理や修繕をしながらゆっくり休んでいたんですよ。」
整理する程の荷物も修繕が必要な物も有りはしないが、まさか魔力の練習や特殊能力の検証をしていましたなどと言える訳もないので適当な返答で誤魔化した。
「そうか、随分遠くからきたみたいだもんな。詮索するみたいな事して悪かったな、俺も嫁さんもちょっと心配だったもんでよ。まあ、ゆっくりして行ってくれ。」
そう言うと再び厨房へ戻っていった。そうか、あの女性は従業員ではなくやはり奥さんか。そりゃあそうだよな、くそッ爆発しろ。
気を取り直し料理を見る。今晩のメニューは羊肉のシチューにマッシュポテトとパンだ。料理に舌鼓をうちながらさらにワインを飲み、ほろ酔い気分になると追加の精算を済ませ部屋に戻る。ほろ酔いの心地いい浮遊感に身を任せそのままベッドに横になり就寝した。




