1-9 テンプレ君主人の過去を知る
宿へ戻ると珍しく客がいるようだった。客が珍しいとはこれいかに、本当に大丈夫なのだろうか? おっと、厄介ごとはスルーと決めたはずだ。きっとオフシーズンかなんかなんだろう、きっとそうだ。
「おかえりなさい。」
「ただいま帰りました。今日は湯は結構です、しばらくしたらおりてまいりますのでそれから食事をお願いします。」
奥さんが優しい笑みで迎えてくれる、いかんなんかドキドキする。大分溜まりに溜まっているな。カッコつけて帰ってこないでムーランでルージュしてくれば良かった。しかし今日遅くなる事話して行かなかったし酒も頼んだばかりだ、午前様は申し訳ないからな。
そんな事を考えながら部屋に戻ると早速今日買ってきた物を取り出す。まぁ服とかは明日でも大丈夫だろうけど今作るべき物は今夜の寝床、ベッドだろう。
まず鋼を取り出し大量のスプリングを作る。鋼自体はそんな大量にある訳ではないがスプリングを作るぐらいなら十分に間に合った。そしてそのスプリングを糸を加工して作った布に包んでいきさらにそれを繋ぎ合わせる。最後にそれを厚めに作った布で包み完成、そうポケットコイル式マットレスだ。
それをもともとの宿のベッド上に乗せ寝てみると少し硬めだが満足できる仕上がりだった。久しぶりのマットレスの感触をしばらく堪能したのち食堂へとおりていく。
食堂に着くと今日は一組の客が食事をしていた。男女4人組のその客は主人と親しげに会話している。俺は席に着くと奥さんがワインを持ってきてくれた。
「ごめんなさいね、何でも昔馴染みの方達らしくて。今お食事の用意をさせますので少しお待ちくださいね。」
「いや大丈夫ですよ、せっかくでしょうし私は少しお酒を楽しんでからで構いませんので。新しいお酒もご用意していただいたみたいですしね、またつまみに軽い物いただけます?」
「本当になにからかにまでありがとうございます。急いでご用意いたしますね。」
奥さんはそう言うとチーズやハムを持ってきてくれた。新しい酒は白ワイン、口に含むと柔らかな香りが口に広がった。味はフルーティだが後口は爽やかでしつこくない。随分といいお酒みたいだ、昔仕事でヨーロッパに行った時本場の白ワインを初めて飲んだ時は驚いたがそれに匹敵する美味しさだ。そもそもワインにはほとんど興味がなく日本では出されたら飲む程度で味もこんなもんだろうとしか思っていなかったものだから同価格帯でもこんなに違うのかと驚かされたのだ。
昔を懐かしみながらワインを楽しんでいると主人がやって来た。
「すまなかった、ちと昔世話した連中なんだが仕事でハルムートに立ち寄ったらしくわざわざうちに寄ってくれたもんでな。」
「お気になさらないでください。でもこのお酒随分といい物をご用意していただいたみたいですね。」
「ああ、そんなに馬鹿高い訳じゃないんだか味は確かだ。お客さんの好みからいって酒精の強いものより味にふくらみのあるものの方がいいと思ってよ。そんなに量を作ってる訳じゃないからあまり売りに出さねぇらしいんだが頼んだら分けてもらえてな。」
「いや本当に美味しいです、なんだが無理を言ってしまったみたいで申し訳ありません。」
「いやいや、大した事じゃない。お客さんにゃ本当によくしてもらってるからな。」
「ちなみに量ってまだそれなりにあるのですか?」
「そうだな、個人で楽しむ分には十分な量は分けてもらったから大丈夫だ。」
「それでは彼方の皆さんにもお出しいただけますか?」
「おいおい、そこまで世話にゃなれねえよ。お客さんの金で用意したもんだ、お客さんが楽しまねえと。」
「せっかくこんなに美味しいお酒なのですから皆で楽しまなきゃそれこそ損ですよ。」
「むぅ……、本当にいつもすまねぇ。オイお前らこちらの旦那から上等の酒をごちそうしていただけるぞ。」
先程の客達は歓声をあげ口々に礼を言ってきた。その後皆で宴会となり色々と話を聞けた。彼らはランクCの冒険者パーティで今日は護衛依頼の道中にハルムートが含まれていたので久しぶりに主人の料理が食べたくて寄ったとの事。
なんでもここの主人は元腕利きの冒険者でランクはなんとB迄昇りつめたらしい。生まれはとある貴族の四男で小さな頃から料理に興味があり、暇を見てはお抱えの料理人の所へ行って料理を教えてもらっていたようだ。成人すると家督など関係ない四男の主人は料理人となるべく家を出たのだが修行先のある大きな街へ向かう旅の途中、偶然出会ったモンスター食材のあまりの美味さに魅せられてしまい志一転冒険者を目指す。その後冒険者となった主人は食材を求めモンスター討伐に勤しむうちにいつの間にかランクが上がっていたそうだ。
主人は今と変わらず冒険者時代も面倒見が非常に良く昔は彼らも公私ともに随分世話になり手料理も度々ごちそうになっていたとの事、主人は料理が上手かった上にその高い実力もあってパーティメンバーに重宝されていた様だ。依頼の最中に不慮の事故に見舞われ片脚を失ってしまったため泣く泣く引退をしたその後、縁あってここの娘さんと一緒になって宿屋を継いだらしい。
まあ最初鑑定で見た時にやけに身体能力が高いし戦闘系技術も多才だったから察しはついていたけどね、魔力が一般の人より高めなのも生まれが貴族と言われれば納得できる。しかし冒険者か、テンプレでいえば真っ先にギルドに登録して成り上りって感じだが俺はまだギルドにすら行った事がない。従ってランクの話をされてもどう凄いのかすらサッパリ分らない。そもそも能力的に考えて危険な冒険者になる気などさらさらない、おかしな奴らには絡まれたけどね。まあどんな所か気にはなるので行ってみたいと思っていたし、明日様子伺いついでに見学でも行ってみるか。
そんなこんなで夜も更けお開きとなったが久々の美味い酒に少々飲み過ぎたようだ、千鳥足で部屋に戻りベッドにダイブする。マットレス作っといて本当に良かった、ゴロゴロっとしていると酔った勢いも相まってムラムラっときた。普段なら自制する所だがいざムーランでルージュした際に瞬殺される訳にはいかないだろうなどと誰に対しての言い訳なのかわからない建前の元、酔いに任せて自家発電に勤しむ事にする。随分溜まっていたせいかおかずもなしに早打ちキッドも顔負けの速射でフィニッシュ、久々のリビドーの爆発にガンマンから賢者にジョブチェンジが完了し後始末に取り掛かろうとしたその時突然部屋のドアをノックされた。
「大丈夫ですか?」
おっ奥さん? 一体どうしたんだ? なんて間が悪いんだ、最悪と言っても過言ではないタイミング。時間をかけると変に思われるので慌ててズボンを履きドアを開ける。
「どっ、どうかされましたか?」
なるべく平常心を装い対応するも奥さんの様子がどんどん恐縮していく。
「あのっ、今晩は大分お酒を召されて随分酔ってらっしゃったようなのでお水をお持ちしたのですが……。」
あっ、これ多分ばれたわ。奥さんの顔みるみる赤くなっていってなんか申し訳なさそうになっちゃっているし。
「……すみません。お気遣いありがとうございます。」
気不味さから言葉が出ない、取り敢えず水を受け取る。
「ごめんなさい、私……変に気を使わせてしまって。ゆっくりお休みになってください。」
奥さんはそう言って戻っていった。搾りたて直後で後始末が終わってなかったし換気もしていなかったから臭いでバレちゃったって感じかな。なんだろねこの気持ち、親にバレた時のあの感じに似ているよね。バレてるってわからないままならどうって事もないのにあんだけあからさまだとさすがになぁ……明日の朝どんな顔して会えばいいんだよ、気まずい事この上ない。こういう場合もう気にしたら負けだ、無かった事にするのが一番。そうなにも無かった、気持ちを切替えベッドに横になると悶々としたまま眠りについた。




