1-8 テンプレ君リサーチする
食堂へおりると主人が掃除をしていた。
「すみません、食事ってできますか?」
「おいおい、どうした? 随分顔色が悪いぞ、何やっていたんだ?」
何やっていたって言える訳がない。ここはまた適当に魔道具でも使っていた事にしよう、あれ使うとすぐ魔力不足になるみたいだし。
「いや、ちょっと魔道具を使ってみたのですが魔力不足になっちゃいまして。」
「魔道具だと? 随分大層なもん持ってんだな。確かに魔力不足みたいな顔だ、ちょっと待ってな。」
主人はそう言うとカウンターに向かい奥からなにやら怪しげな液体を取り出してコップに注ぐとそのコップをこちらに渡してきた。
「飲んでみな、ちったぁ楽になるだろう。」
俺はその怪しげな色と匂いに躊躇したが、出されたものを飲まない訳にもいかないので覚悟を決めて一息に飲み干した……マズイッ! もう一杯ってなるか! 何だこれは、なんて物を飲ませるんだ!
俺が一人身悶えていると主人が説明してくれた。
「わりぃわりぃ、そりゃびっくりするよな普通。でも体調はどうだ? 大分マシになったんじゃねえか?」
いわれて初めて気がついた、倦怠感が幾分和らいである程度は動ける様になった。驚いている俺に主人は説明を続ける。
「いや、これ実はマジックポーションなんだ、しかし効果は高いが味は酷いってシロモンだから死蔵状態だったんだよ。ただお客さんがあんまりにも酷い顔してたから少しでも効果の高い奴の方がいいと思ってな。」
「そう言う事ですか、気を使っていただきありがとうございました。幾分マシになりました。」
「幾分か、結構効果の高い奴だからおおよそ回復する筈だが古くなっちまってたかな? まぁ何にせよよかった。」
「もしよろしければ残りを見せてもらえませんか?」
「んっ? ああ構わないよ、今持ってくる。」
そう言って主人は再びカウンターの奥に向かいマジックポーションを持ってきた。鑑定してみると中級マジックポーション低品質とある。しかしやっぱりポーションあるんだな。特に古くなってどうとは出ていないので効果はもともとこんな物だったんだろう。俺の魔力は一般人よりかちょっと多めみたいだから勘違いさせちゃったかな。勘違いで処分させたら申し訳ないのでこのまま買い取ってしまおう。味が酷いのは品質のせいかな? 神の手で味を整えれば使えるんじゃなかろうか。
「これおいくらぐらいで購入されたのですか?」
「そいつ、効果はそれなりだが味が酷いだろう。量も多めに買ったからそんな高くなかったよ。確か8〜9Zぐらいだったかな。」
「それじゃあこれでこのまま買い取らせてもらえませんか?」
そう言うと俺は金貨を1枚テーブルの上に置いた。
「やめとけ、そんな古くなった不味いポーションより冒険者ギルドに行けばもっと味が良い奴いくらでも買えるぞ。」
「いやいや、ちょっと研究の真似事なんかもやっていましてその材料にちょうどいいものですから。だからこそこれが欲しいんです。」
「お客さん本当に変わってんな、しかしそれにしたってこれじゃあ多過ぎるよ。」
「そうですね、それじゃあこうしましょう。お腹も空いてきましたし昼食を付けてください。後、もしあるのであればで構わないのですがハチミツとレモンも少しいただけませんか?」
「んー、まあわかった。そういう事にしておくか、ハチミツとレモンならあるはずだから今持ってくるよ。」
そう言うと厨房からハチミツとレモンを持ってきてくれた。
「じゃあ食事を用意するから少し待っていてくれ。腕によりをかけて作らせてもらうからよ。」
主人は人懐こい笑顔を残し再び厨房へ戻っていった。
さてこのマジックポーション、なんとかなる物か試してみよう。まず不純物を取り除いてハチミツとレモンを添加する。鑑定で成分と効果を見ながら調整をすると低品質から高品質へと変わり効果も少し上がった、やはりチート何でもアリだね。飲んでみると回復量はさっきの半分位かな。連続して飲むと効果が下がる様だ。味はまあ美味くはないけど飲めなくないって程度。
実験を終えテーブルを片付けてから少しすると主人が料理を持ってきてくれた。
「待たせて悪かったな、好きなだけ食ってくれ。」
出されたのはブルーチーズのパスタに野菜スープだった。あまりに美味いのでおかわりまでしてしまった。
食事を終え礼をした後魔力も大分回復していたので街へ買い物に出る。ちょっとした日用品を作る材料は生産ギルドで購入した分でおおよそ賄えるが、衣類やタオルなどを作る材料は量が足りていなかったためだ。それから風呂にも入りたいし娼館のリサーチもしなければならない。
経験上リサーチは非常に重要だ、大抵リサーチ不足のまま本能に任せると痛い目にあう。地雷を踏んだりボラれたりと散々だった、何度呼び込みの兄さんやフォトショの開発者を呪ったかわからない。
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まずは衣類の材料を買おう、そう思い布屋に向かう。布屋に着いて色々と見て回るが気にいる程の品質のものは無く結局は綿糸と麻糸を買う。
糸を買ったら染料が必要なため食料品街へと赴き安い赤ワインや栗のような実、ウコンに茶などを購入した。
茶を買ったら麦茶も飲みたくなったので大麦も買ってみた。
その後そういえば石鹸も作りたかったんだなどと思い出し牛脂とオリーブを大量購入する。牛脂はこの世界には灯として蓄光石があるため、需要が少ないどころかゴミ扱いなので購入する旨伝えると非常に喜ばれた。
ひととおり買い物を終え浴場へ向かう。浴場は某古代ローマ風呂職人よろしくな感じだったが蓄光石のおかげで薄暗くはなかった。
久しぶりの風呂につかり身体が弛緩するのがわかる。ぶっちゃけ湯はかなり汚かったしややぬるかったが贅沢は言えまい。
目を閉じてゆっくりつかっていると突然太腿を撫でられる感触がした、混んできたのかと思いふと目を開けると髭面の太ったおっさんが下卑た目でニヤつきながら横にいた。俺は貞操の危機を感じ脱兎のごとく浴場を飛び出した。
ウソだろおいっ! これは本当に洒落にならん。痴漢にあった女性にその場で取り押さえて警察に突き出せなどと言う輩がいるが、実際無理だわこれ。もうね、恐怖で頭真っ白になってパニック状態。気付いたら飛び出してたもんね、アーッ! とか誰得な展開だよいらないからマジで。あまりの恐怖に震える身体でもう二度と浴場には近寄らないことを誓う。
思わぬトラウマを抱えてしまった俺は大人のワンダーランドのリサーチを諦め帰ろうかどうか迷った。取り敢えず、今後下卑た目でニヤついた髭面のデブ親父は殴る! 容赦無く殴る。だがこのまま帰るのは負けた気がする、むしろこのテンションだからこそ冷静にリサーチできるのではないだろうか。そう思い留まり歓楽街へと向かうことにする。
早速歓楽街へ着いた俺は一人考えていた、どうやってリサーチしたら良いのかを。あれだけ重要性を熱く語っておいてこれである、言い訳させてもらえれば元の世界にはネットがあった。グーグル先生からサイトに飛べば料金や大まかなサービス、姫の出勤予定や名前などがわかったし口コミサイトでは同志たちが熱く語り合っていた。しかしこの世界にはネットなどという便利な物がある訳がない、さあどうしたもんか。
取り敢えず歓楽街をプラプラ歩いてみた、ハルムートの大人のワンダーランドは基本的に夜間営業のようで陽が暮れはじめたばかりのまだ明るいこの時間は嵐の前の静けさを称えながらもその嵐に向けての準備のためかどこか慌ただしさが感じられる。それを尻目に俺はキョロキョロと辺りを見てまわる。そこで一軒の飲食店が目にとまる、開店待ちの客とかいるんじゃなかろうかなどと考え入ってみた。
店は立飲みBarだったがまだ早い時間にも関わらずやはり客がチラホラ見える。カウンターに陣取るとまずはマスターにエールを頼み店内の様子を伺う、緊張感漂う青年に一山当てたのかはしゃぐ冒険者風のヤカラなどと十人十色の面持ちだ。目の前にスッとエールがでてくるが案の定ビックリするぐらい不味かったのでコッソリ神の手で不純物を取り除き冷して飲んだ。飲みながらマスターに話しかける。
「景気はどうです?」
「おかげさまでボチボチやらせてもらっています。」
「これだけ大きな街ですからね。それも最高の立地な上に回転率の高い客層、かく言う私もその一人ですがね。」
「まぁそうですね、ただ場所代が高額な上に食べ物が出ませんので利益率が低いのですよ。」
「ああ、つまみを出していただいて結構ですよ。」
俺はそう言うと銀貨を3枚出した。もちろんそれには情報料も含まれている。
「ありがとうございます。」
マスターはそう言うと銀貨をしまいつまみを出した。
「実際評判の良い所はある程度決まっているんでしょうね。」
「そうですね、ムーランなどは悪い話を聞きませんね。奴隷ではない女性が多いようですし。ラクーンも女性は皆奴隷ですが多様性に富んでおり躾がしっかりしているためかよく耳にします。反面コルネイユは逆の意味でよく耳にします。行かれた方の愚痴が多いように感じますし女性の扱いも最低限といった風に見えるようです。」
「なるほど、やはり評判の良し悪しはある物ですね。支払いも評判に比例すると考えるのが妥当でしょうか。」
「女性による部分が大きいものですが、まあどうしてもそうなりますね。」
「そうですよね、実際。ただ幾ら女性次第とはいえ衛生面に気を使うのは当たり前として実際休む場所が貧相だとどうしても気を削がれてしまいますけどね。」
「なんでも大手の宿などに見学に行かれて参考にしているなんて話を聞いたことがありますよ。」
「あまり気位が高過ぎても居心地が悪くなりますけどね。」
「まぁ自分で言うのも何ですがこの店でお酒を飲まれるようなお客様から伺っている話ですので。」
「いやぁ本当にお詳しい、とても研究されている様だしお仕事熱心ですね。」
「いえそんな事ありませんよ、ただいろんな話をお伺いするのが好きなだけですから。」
「ご謙遜を、それだけ自信がおありなのでしょう? 今日は覗きに来ただけなので今度また、ゆっくりお伺いさせていただきますよ。」
「心よりお待ち申し上げます。」
マスターはそう言うと深く頭を下げた。俺は手をヒラヒラさせ礼に答えると店を後にした。
しかしオーナー自ら口コミ調査とは恐れ入る。鑑定で見た結果、あのマスターは名前の出た全ての店のオーナーなのだ。情報料をもらって尚ああしていられる上にサービス業って物がよくわかっている人物だ。あの人の店なら間違いないだろう。
そうして、心やいろんな所をトキメかせながら俺は帰路へと着いた。




