1-10 テンプレ君冒険者ギルドを訪れる
翌朝、ちょうど陽が顔を出し終える頃に眼が覚めると二日酔いのためか少々頭痛がする。まあ調子に乗ってちょっと飲み過ぎたかな、寝る前? なにも無かったよ。無かったと言ったら無かったんだ。
取り敢えず起きると朝食のために下へ降りる。食堂へ向かうと奥さんがあいさつしてきた。
「おはようございます、昨夜はその……」
「おはようございます、どうされました? 何もありませんでしたよね。」
「えっええ、そうですね。ゆっくりお休みになれましたか?」
「はいおかげさまでゆっくり休めました。」
「それはよかった、ではお食事ご用意いたしますね。」
互いにどこかぎこちないあいさつを交わす。謝られると本当にキツイ、もう触れないでほしい。そんなこんなで食事が出てきた。
「おはよう、あいつらはもう出発したがあらためて礼を言っておいてくれってよ。俺からも礼を言うよ。」
「いやいや本当に気にしないでください、こっちも随分楽しい時間を過ごさせてもらいましたから。むしろちょっとはしゃぎ過ぎて二日酔いです。」
「そう言ってもらうと助かる。まぁそうだと思って今朝はアッサリした物にしといたよ。」
そう言って出されたのはなんとスープリゾット、そう米だ。
「あの、これって米ですよね。」
「ああ米だ、よく知っているな。この辺じゃ珍しいはずだが。」
「いや故郷ではかなりポピュラーだったもので、ハルムートでも買えるんですか?」
「ああどこにでもある訳じゃないが買えないわけじゃあない。しかし米がボピュラーな所ってのも珍しいな? まあそういう所もあるんだろうな。」
俺は久しぶりの米に歓喜しながら食事をし、礼を言って部屋に戻った。
取り敢えず髭剃りに歯ブラシやタオルなどの日用品を作る。タオルは超高級品をイメージして作ったためかフッカフカである。
その後石鹸を作り始める。牛脂とオリーブを取り出して油を抽出する。それぞれの抽出した油を脂肪酸とグリセリンに分離し牛脂8:オリーブオイル2で化合し若干グリセリンを加えて完成。実に簡単だ、テンプレでは灰を混ぜて試行錯誤したりする物だが神の手と神の目があればこんな物だ。しかも余計な物が一切混ざらないためすぐに使える、まさにチートである。元の世界でもこんなに簡単ではない、何も使わず脂肪酸とグリセリンの分離なんて本来不可能だからな。
しかも純粋なグリセリンも手に入れることができる、グリセリンの用途は多種多用なため有難い。ついでに薔薇の花とレモンを取り出しそれぞれ油とクエン酸を抽出しグリセリン・オリーブオイル・水を混ぜてリンスも作っておく。
タオルと髭剃り、石鹸にリンスができたので湯をもらって水場で身体を清めよう。そう思いできた物を持って下へとおりると奥さんが掃除をしていた。
「すみません、湯を二杯いただけますか? あと水場もお借りしたいのですが。」
「湯浴みですか? 構いませんよ。お湯水場にお持ちしましょうか?」
「重いのでここで大丈夫ですよ、ああ二杯だから一つずつ運びましょうか。」
「うふっ、そうですね。それじゃあ準備して来ますね。」
そう言って湯を沸かして持って来てくれた。それぞれタライを一つずつ持って水場へと向かう。
「でもこんな時間に湯浴みですか?」
「ええ、石鹸ができたので試してみようと思って。」
「ええっ? 石鹸ですか? 個人で作れる物なのですか?」
「はい製法は秘密ですが作れますよ、ああお一つどうぞ。」
「そんな贅沢品受け取れません。」
「原料はかなり安価なんです、構いませんので受け取ってください。」
「そうなんですか、じゃあ有難く頂戴します。」
奥さんは石鹸を大切そうに手に抱え戻って行った。よかった、大分違和感なく話せるよう戻ってきたな。そう思いながら湯浴みを済ませる。久しぶりに石鹸で全身を洗い髭も剃りスッキリできた。
その後部屋に戻り今度は糸を染色していく。炭を用いた黒や栗渋の赤茶に茶渋の茶、ワインのローズパープルにウコンの黄色などを作っていく。その後下着の作製だ。ロータスにはゴムが無いため、黒い綿糸をストレッチ生地に仕上げボクサータイプのパンツとタンクトップと靴下を替えも考え多目に作っていく。炭で染色したので抗菌・防臭効果に期待したい。他にも赤茶や茶に染めた麻糸や漂白した白い麻糸でシャツを作る。ボタンは木製で圧縮硬化した木材の形を整えて作った。フレンチリネンをイメージしたためか非常に柔らかで着心地がいい。ボタンとファスナーを銅と鉛の合金で作り、黒いチノパンを仕上げ取り付ける。最後に革でベルトを作り先程と同じ銅と鉛の合金でバックルを付けてひととおりの衣類を作り終える。
ロータスの一般的な服装とは違うため若干浮いてしまうが着心地の良い着慣れた服の方が楽なので気にしない。ブーツは今の物を自分の足にフィットするように加工し靴底は木を圧縮硬化し滑り止めの溝を入れた物に変更した。
他にも舐められない程度の装備をと思いミスリルで装飾の無いシンプルなナイフを作り腰に吊るしておいた。ミスリルをナイフに加工する際に魔力を若干持っていかれた、ミスリルは何をするにも魔力がいるんだな。
蜜蝋とオリーブオイルを混ぜて作った整髪料で髪を後ろに撫でつけマントを羽織り外出する事にする。出がけに外から帰って来た主人と出会う。
「おう、随分キマった格好しておでかけかい?」
「ええ、故郷の服や日用品なんかができたのでようやく身嗜みも整えられました。冒険者ギルドでも覗いてみようなんて思っています。」
「へぇ、お客さん冒険者志望だったのか?」
「いやいや、冒険者なんて無理ですから。ちょっと覗いて見るだけですよ。あっそうだ、今日は帰りが大分遅くなると思いますので食事は結構です。」
「ああ、わかったよ。いってらっしゃい。」
冒険者ギルドへ着くと中途半端な時間のためか人は疎らだった、此処は他のギルドと比べると役所っぽさは薄くどこか大手の建設会社や運送会社に似た雰囲気だった。俺は早速受付に向かい職員のおばちゃんに話を聞いた。
「すみません、ギルド登録を検討しているのですが詳しくお話しをお伺いできますか?」
「はいはい、登録を検討ですね。じゃあ説明させていただきます。まず登録には身分証と登録金が必要です。登録金は手数料の15Zに保証料の15Z合わせて30Z必要です。登録していただければ人頭税や入街税といった税金はかからなくなります。ただし依頼にあたっての事故や怪我などは自己責任となりますのでギルドでは一切の責任は負いません。ギルドはあくまで依頼の仲介を行うわけです。また、ギルド員は必ずギルドへ現在の所在を報告する義務もございます。他にもギルド員には依頼の達成ノルマがありノルマ未達の場合ランクの降格やギルド員資格の停止及び剥奪の他ペナルティもありますのでご注意ください。ランクはS〜Gの8段階、ランクが上がれば請けられる依頼も増えますし各種特典もございます。ただし達成ノルマもその分厳しくなりますし、指名依頼に強制依頼も増えますけどね。」
「依頼を失敗した場合はどうなるのですか?」
「依頼の失敗に関しては依頼者が依頼時に設定されておりますのでそれに準拠いたします。依頼の請負契約時にはそれも確認の上ご契約ください。ただし、依頼内容の相違や不可抗力による失敗、依頼者の過失などはギルドの方でも調査いたします。」
「なるほど、ではギルド員が犯罪を犯した場合はどうなりますか?」
「ギルド員同士の揉め事に関してはこちらで仲裁したり是正勧告などを行いますが一般の方への犯罪行為が判明した場合は例外なくギルド員資格の剥奪ですね。」
「ほうほう、お厳しいですね。でも事実関係の確認や過失の有無などはお調べいただけるんですよね。」
「まあ調査はいたしますがおおむね司法機関の調査に準じますよ。」
「まあそうですよね、ところでモンスター素材の取扱いはどのようになっておられるのですか?」
「モンスター素材の売買は冒険者ギルドの専売となっておりますので個人での売買は禁止されております。取得者の個人利用はある程度認められておりますが基本はギルドに報告の上利用していただきます。もし発覚した場合はやはり問答無用で資格剥奪とさらに制裁金が課されます。」
「専売ですか、これはかなり大きな利権だ。」
「そう取られてもいたし方ない部分もございますが税として収めなければならない額も莫大ですので、そのため冒険者の権利も護られております。それにモンスター素材はかなり危険な兵器になりかねませんので武力集中の抑止にもなっております。」
「そういう意味では仕方がないのでしょうね、ちなみ他にはギルドでのサポートは無いのですか?」
「他にはパーティやクランの紹介に周旋、各種ポーションや回復薬のギルド員価格での販売など行っております。」
「よくわかりました。あっそういえばギルド証を紛失した場合どうなるんですか?」
「ギルド証の紛失ですか? 紛失理由を提出の上手数料を支払っていただき再発行いたしますよ。」
「近々で再発行依頼などありませんでしたか?」
「再発行依頼ですか? ちょっとお待ちください。」
受付のおばちゃんは奥に調べに行った。
「そうですね、昨日盗難による再発行依頼が5件出ていますね。」
あいつら人を盗っ人扱いたぁふてえ野郎共だ、盗ったんだけどさ。さて、どうしてくれようか。
「先日数枚のギルド証が纏めて捨てられていたのを拾ったので官兵に届けた物ですから、一般人が官へギルド証を届けた旨お伝え願えますか?」
「まあそうだったのですか。有難うございます、その旨伝えておきますね。」
「登録するかどうかはもう少し検討したいと思います、有難うございました。」
礼をして受付をはなれる。奴らは話を聞いてビクビクして過ごすことになるだろうからお仕置きはこれぐらいで十分かな。しかし冒険者ギルドは他のギルドと違いアウトソーシングの仲介を行う企業みたいなものだな。登録者へノルマを課すあたりかなり企業的だ、自由気儘な冒険者ではなく自営業と会社員の中間みたいな感じだし。ランクが上がれば上がるほど特典は増えるが義務も大きくなる、つまりギルドの中枢に取り込まれていく訳だ。よくできたシステムだ。
しかもモンスター素材の専売ってかなり巨大な利権も持っているな。それで持って冒険者の税金の負担を減らしているとはいえ相当儲かっているだろ。
しかしノルマと現在地の報告義務か、税制の面で所属メリットは大きいけどデメリットも大きそうと言うのが正直なところかな。登録は見送りとしよう。




