旅立ち
「出発のセレモニーとかやるって言われると面倒くさいから置き手紙だけ書いてこっそり行くわね」
「いやいや置き手紙て! 『魔王城に行って来ます』って?! そんなのダメですよ! 行きたくないのに行くんだからいっぱい恩着せて大々的にやりましょうよ!」
「あたし嫌われてるし、白けるだけよ」
「まぁ確かに、すでに一人行方不明者を出している段階でセレモニーとかやられても、もっと早く行けやと思われるだけでしょうね」
ふいにそこにもう一人別の声が聞こえて二人は驚いて振り返る。一体いつから居たのか、そこにはティモシーが変わらぬ表情で立っていた。
「何ぬるっと参加してんのよティモシー!」
「今まさに旅立たんとしているお顔ですので馳せ参じました」
「いやいや! 行くにしても連れて行かないって言ったわよね? だいたいあんた女に興味ないから田舎で犬と暮らすって言ってたじゃないの」
「言ってませんよ。断固付いて行きます。何の為に毎日毎日小娘の様子を伺っていたと思うんです?」
「小娘言うな!」
「それに伝統的に勇者パーティは四人と決まっているんですよ」
特に根拠もなさそうなティモシーの言い分だったが何故かテオは妙にしっくり来た。物語に出て来る勇者パーティが軒並み四人だからかも知れない。そしてそれはリーンも同じであった。
「じゃー……もう一人はどうするのよ?」
やれやれと髪をかき上げた瞬間、リーンの髪が一本舞った。それを目掛け、小さな生命体が飛び出してくる。
「今ですっ!」
「確保ぉぉーっ!!」
「ぎゃっ?!」
飛び散ったリーンの毛髪に飛び付いたのはシュリだ。そこをティモシーに捕まった。
「魔王城に旅立つぅ~?! やだやだ研究施設で引きこもっていたい~!」
「状況は違うけど、何だかいつもの賑やかな朝みたいですね!」
テオがあの状況を賑やか、等と言う前向きな捉え方をしていたのに驚いたリーンだが、かくして一年遅れで勇者パーティは結成されたのだった。リーンの強い希望でセレモニーは行われず、シードにだけ見送られ翌日の早朝にひっそりと出発した。
目指すは魔王城。あの山の向こうだ。
「俺、何だかんだやっぱ嬉しいですよ。こうして勇者パーティの一員として魔王城に挑める事が! リーンが居れば何でも良いって思ってましたし、それは違わないんだけど……でもやっぱり物語に出て来る様な勇敢な勇者の仲間になりたいって夢はありましたし、これからこの四人で色々な苦難を乗り越えていくんだと思うと俺……!」
終始テオはご機嫌で喋り続けていたが、麓のファズムまで来るとシュリがちょっと怯えた表情を見せた。シュリは基本的に研究施設に引きこもっているのでここまで出て来たのも初めてだ。
「リーンと二人でファズムを超えるのは二回目です」
対してテオは少し偉そうである。
「そんなマウント取られたところで私は何とも思いませんよ?」
気のせいかも知れないがファズムの向こうは少し暗い。それは二年前にも感じた事だが、ティモシーは特に思うところはなさそうである。そしてリーンも。
二人は無言のまま先にファズムを越えた。
「わぁっ! 情緒! 情緒がない!」
「え? 何が? ここ超えるの何か特別なの?」
頻繁に越えているリーンにしてみればいちいち行くぞ~とはならないだろう。もしかしたらティモシーも越えた事があるのかも知れないが……この男はいつも表情が読めない。
「怖がってるのバカらしくなって来ました。待ってください勇者さま~」
二人の様子を見たシュリもひょいと超える。
「なんか納得いかない……」
そうして四人は魔王城を目指し歩き始めるが、ファズムを越えたというのに静かである。魔物も居ない。そのお陰でテオはずっとぶつぶつ不満を言い続ける余裕があった。
「だいたい魔王城と勇者城近過ぎですよね。ダレルさんでしたっけ? もちろん真の勇者様はリーンだって分かってますけど、ここから遠く離れた土地から、だんだんとこう、強くなりながら? 出会いを別れを繰り返したりして? 先に進むのに絶対必要なアイテムとかあったりさぁ……。ブレイズオーブ一応持ってく~とか違うと思うんですよね。そもそもそそのアイテムをもともと持ってるって事も情緒がないんですよ」
だが誰もこんな面倒な話しには付き合わないので完全に独り言である。
「勇者さま飴舐めます? 今度血糖値が極限まで上がった状態の毛髪欲しいんですけどお願い出来ませんか?」
「血糖値極限まで上げたくないからイヤよ」
「それにしても……ファズムを越えたというのに魔物一匹出て来ませんね」
しばらく歩いたところでティモシーがそう言った。どこかそわそわした様子だ。
「だから、一応ブレイズオーブ持って来たんだって」
そう言ってリーンは首から下げた小さな水晶を摘まんで見せた。ブレイズオーブには魔物を寄せ付けない効力がある。
「ダレルとか言う無鉄砲な男に貸してやっても良かったけどね、これ使うには魔力を供給し続けないといけないし、普通の人が持ってても力発揮しないのよ。どうせ辺境から魔王城を目指す奴なんて脳筋戦士タイプだったでしょ?」
リーンの読み通り、ダレルは器用に魔力を扱えるタイプではなかった。
「うわぁぁぁん何それ強過ぎる! そんなアイテムまで持ってるなんて、もはやチートじゃないですか! 日帰り出来そう!」
「日帰りのつもりだけど?」
「そんな?! キャンプ張って星見ながら語り合ったりしないんですか?!」
「それ別に勇者パーティがやる事じゃないし」
「ティモシー様もこんなの嫌ですよね?! 勇者パーティの神官ポジションとしてピンチの時に自爆魔法使う事がティモシー様の夢だったんでしょう?!」
「そうなんですか?! ちもしーさま気合い入ってますね!」
どうでも良い事に巻き込まれたティモシーが極めて不機嫌そうに答える。
「せめて回復魔法と言って下さい。それでも違いますけど」
「なぁんだ違うんですか? 神官なんて力も弱いし回復魔法なら勇者さまにも使えるし、確かにそれくらいしか見せ場ないって僕気付いちゃいましたよ?」
「こっ……こらシュリ! 俺はそこまで言ってないぞ!」
「はーもぉー騒々しいわねぇ~!!」
あまりにもい実のない会話にうんざりしたリーンが少し大きめの声を出すと、同じくうんざりしていたティモシーがある提案をした。
「暇だからペラペラ喋るのです。ウォーミングアップがてらブレイズオーブを離したらどうですか」
「なるほど」
短く返事をしてリーンはブレイズオーブへの魔力供給を止めた。次の瞬間にはもう大量の魔物に襲われる。




