大丈夫
――子供の頃からまぁまぁ剣の才能があって、勇者城で兵士になった。家族には早々に死なれてしまったけど、勇者城で働くのを夢見る人間が大勢いる事を思えばここまででも良い人生だと思う。
だけど俺の人生はそこから始まった。勇者城でめちゃくちゃ可愛い女の子と出会ったんだ。その子が勇者なんだって! 可愛くて強いとかカッコ良いな。俺も負けないくらい強くならなきゃ歴代最強勇者の女の子に笑われちゃうな。そう思ってますます剣の腕を磨いたつもりだった。
ある日、思いがけずその子と夢のような時間を過ごした。代償は大きかったけど、その子とはグッと距離が近くなった。だから後悔はしてない。
だけどもし……彼女を守れる力が手に入るならそれは喉から手が出るほど欲しい。あの日から俺の強さへの憧れは切実なものに変わったんだ。
なのに、ああ、力が抜けて行っちゃう……。
「ルビィはテオの楯」
ルビィが守ってくれるの?
「どんなに弱くても、剣を握れなくても、構わない」
リーンは許してくれるの?
あれ? 俺別に、このままでも良いのかなぁ――。
テオがパチと目を覚ますと、ルビィが優しい目で見下ろしている。隣りにはリーンも一緒に寝転がっていて、その手は握られていた。
「俺……今まで……?」
「ごめん、テオ、あたしはもう限……界」
「リーン?!」
ボロボロのリーンが気を失って慌てるテオだが、ルビィは落ち着いたまま。何だか少し雰囲気が変わった気もする。
「テオ、ルビィもこの後気を失うと思うけど、大丈夫だから泣かないでね」
えっ?! と、やはり慌てるテオに微笑んで、ルビィはおもむろに黒い煙が渦巻くあの水晶を飲み込んだ。一飲みにするにはかなり大きいと思ったがルビィはゴクリと喉を膨らませて飲み込んだ。
「全部ルビィが引き受けた。もう二度と……危ない事ないから……ね」
ルビィは水晶ごとテオの力を体内へ入れて、二度とテオがあんな事にならない様に蓋をした。水晶で自分自身の力を取り戻した時もそうだったが、体内の魔力が大きく変動するとしばらく昏倒してしまう様だ。
「二人とも大丈夫?! リーン?! ルビィ?!」
必死で呼びかけてみるが反応がない。
「あー居た居た」
「状況が良く分からないがとりあえずお前は無事か」
そこに、待ちに待ったアイテムを持ってシュリとダレルがやって来た。キノコの毒の解毒薬だ。シュリはもうすっかり良さそうである。
「あれ? テオあの薬飲まなかったんですね。まぁ落ち着いたみたいなので良かったですけど」
「薬? あれ? なんか俺記憶が曖昧なんだけど……そんな事より二人が!」
「テオは大丈夫なんですか?」
「なんか大丈夫になった!」
何故大丈夫になったのか気になったが、テオに急かされてシュリは二人に解毒薬を飲ませた。ルビィにはもう毒の症状は出ていなかったが念の為。
「これでもう毒の心配はありません。ちもしーさまとパイが見当たりませんから探して来て下さい」
シュリにそう言われてテオはめちゃくちゃになった魔王城内を見回った。
ティモシーとパイは魔王城の外で寄り添うように倒れていて、ティモシーの方は毒以外のダメージも深刻だった。慌てて二人を安静に出来る部屋に運び、シュリに手当を任せる。シュリは回復魔法が使えないので医学による治療だ。
「死に掛けですがなんとか間に合わせます。内臓いってると思うんでちょっと開けてみますね。ダレルさん手際良かったんでまた助手してくれませんか?」
「はぁ? 何で俺が! 共通の敵は追い払ったんだ。俺はもうお前らの味方じゃ……」
「あー」
ペチリッと、背中のノコがダレルの頭を叩いた。
「?!」
「ほら、ノコちゃんもやれって言ってる」
「ノコ……何で……あ」
そう言えば解毒薬を作るのにノコがルビィの一言で傘を差し出した事を思い出したダレル。もともとノコはここの住人たちに敵意はなかったのだ。
「……分かったよ」
どうにかなりそうだと安心したテオはめちゃくちゃになった畑を見に行った。まだ皆の傍に居たいし身体も重たかったが、どうしても状況が気になったのだ。
「ああ、やっぱり全部ダメだ……。どうしてこんな酷い事が出来るんだよ」
畑の惨状を見てがっくりと肩を落とすが、畑に致命傷を負わせたのは悪魔化したテオである。
「ん?」
もぞもぞと黒い何かが動いた。たまにモグラと出くわす事もあるのだがそれは一匹の蛇。かなり弱っている。
「可愛そうに、戦闘に巻き込まれたんだなぁ」
そっとその蛇を拾い上げると、物凄い怒声が聞こえて来てテオは肩を竦ませた。
「ヴィーラを返せ!!!!」
「はいっ?!」
声の方を見ると怒りで顔を真っ赤にしたシードだ。しっかりと両足を踏ん張って立ってはいるがボロボロである。
「わぁ?! なな何ですか?! 一体どうしたんですか?! ボロボロじゃないですか!」
悪魔化していた時の記憶がないテオは素直にそう言ったが、シードにしてみれば煽られているとしか思えない。だが実はシードの方も自分が何を喰らってこんな目に合ったのか分かっていないのだ。




