ラミアハーレム
何も知らないテオが外へ出ると、シードの魔法部隊の半数以上がもう目覚めているではないか。部隊と言えどそう大人数ではないがそれでもテオより戦える者が二十人以上。事の次第を理解した者が次々と倒れている仲間を起こして回り、何人かは魔王城に向かって火球をぶつけている。その指揮を、おそらく早々に目覚めたであろうシードが取っていた。
「さぁ目覚めよ戦士達よ! 長らく続いた勇者伝説はもう終わりだ!」
ドゥンッ! ドドゥンッ!
いくつかの火球はまた魔王城に注がれ、いくつかの火球は庭にも放たれた。そしてそれはテオが丹精込めて作った野菜畑を無残な姿に変えてしまう。
「止めて! 止めて下さいシード様!!」
テオの声に気が付いて、シードは心底くだらない物を見るような目で振り返った。
「テオドール……また出て来たのか」
「どうしてこんな事するんです! 魔王の血が欲しいとか言ってましたけど、それだったら勇者にしか出来ない事でしょう?! 中にはリーンが居ます! だいたい! 何でそんな物!」
「ふん、何も知らない愚か者が……。いいか? 魔王を倒した勇者には魔王の力が宿る。それは、あらゆるものに魔力を与える力だ」
あらゆるもの……。
それは例えば、蜘蛛でもキノコでもだ。
部屋の隅で蜘蛛の巣を張っていた小さな蜘蛛だろうが、湿気た畳に生えて来たキノコであろうが、魔王がそう望めばそれは魔族として生まれ変わるだろう。
「なんだよそれ……。まさかその力を使って神にでもなるつもりだったのか?!」
「ふっ、くだらん」
まただ。またシードはテオを見下して笑う。
「愚か者には想像も出来ないかも知れないな」
シードのローブの下からヴィーラがちらりを顔を出し、甘える様にシードの首元に巻き付いた。
「私はただ……ラミアハーレムを作りたかっただけだよ!!」
「なぁっ?!」
ラミア……。上半身が人間で、下半身が蛇の魔族だ。シードの蛇への異様な執着は……つまりそう言う事だったらしい。
「うわぁ~! また出たあぁ~っ! ティモシー様やダレルさんと同じ性癖の人おぉ~!」
二人のお陰で多少の耐性はあったとは言え、まさか勇者城の大臣までもそんな性癖を隠しているとは思わなかった。テオは大いに驚き、尻もちをつく。
「勇者が魔王の力を取り込めばあらゆるものを崇高な生き物に変える事が出来る。歴代の勇者はその力を神鳥に注いで来たと言うが私は力ずくでも! 騙してでも! その力を私のヴィーラに注がせるつもりだったのだよ! だがこの状況ならそんなまどろっこしい事はしなくて良いだろう」
「え?」
「死に掛けの魔王でも同じ空間に居るだけでその力は発動する。捉えてラミアを作り出し、私にだけ忠誠を誓うよう洗脳する……!」
それが本当なら、魔王の力は制御出来るものではないと言う事だ。確かに思いもかけずに魔族を生み出してしまうのは危険だろう。古から倒すべきものとして認識されるのも無理はない。
「さぁ! 魔王を頂くぞ! 勇者は殺す! 私が新しい支配者となり! ラミアと愛で溢れた日々を送るのだ!」
高らかに笑うシードの周りに部隊の人間が集まって来た。もしかしたらこいつらも洗脳されているのだろうか。うっとりとシードを崇拝する様な瞳で見つめる彼らの首元には、小さな蛇が絡んでいたのだ。
「うるっさいわね……」
シードの高笑いで感情を逆撫でられたリーンは、毒の回る身体を引きずって魔王城から顔を出した。その後ろにティモシーもパイも見える。もしかしたら背が低くて見えないだけでルビィも居るのかも知れない。
「おやおや、これは勇者殿……」
「出て来ちゃダメですよ! リーン!!」
シードはもともと優秀な魔法使いだ。大したモーションも詠唱もなく、風の魔法を作り出しては迷わずそれを放った。リーンまでの到達時間が一番早いのが風の魔法だったのだろう。
しかしそこは歴代最強勇者である。同等の風魔法を瞬時に作り出しそれを相殺させた。ぶつかり合ったそこから爆風が生まれ、テオのところまで衝撃がやって来る。
「まだまだお元気な様子で……」
言いながらもシードは攻撃を重ねた。次々と風魔法を発動させてはリーン目掛けて鋭く斬り込む。そしてそれを見た魔法部隊も目標をそこに変える。
属性魔法には得手不得手があるが、全員が一番得意な魔法を放っているのだろう。風・火・雷などが一ヶ所に集まり、凄まじい光や轟音が生まれた。リーンはその光の中ですべての魔法を相殺している。
「おいやめろ!!!」
テオが一番近くの魔法部隊に飛び掛かって止めさせたが、すぐに他の魔法部隊からの攻撃を受け、弾き飛ばされてはたくさんの切り傷を負った。風魔法だ。
「やめろよ!!!」
もう一度近くの魔法部隊に飛び掛かり、今度は炎魔法で吹き飛ばされ先程の切り傷が悲鳴を上げる。
「や……め……!」
何度も何度も飛び掛かり、何度も何度も弾かれるテオ。いい加減しつこいと、魔法部隊の一人が止めを刺そうと倒れたテオに近付いた。すると、近付いて来たその男は背中に攻撃を受けテオを通り越して吹っ飛んでいった。




