夢から覚めて
「なんだ……あれ……」
「またキモいって言うか? お前もついさっきまでああなっていたぜ?」
全員が地面に這いつくばって低く呻いている。
「うあああ……はあああ……」
そうしてニタニタ笑っては身体をビクビク震わせている。何だか性的に喜んでいるようにも見えるではないか。自分も同じ姿を晒していたと思うといたたまれない。
「今全員がマタンゴの幻覚の中にいる状況だ」
「マタンゴの……。じゃあ魔王城から飛び出して来たあの煙はマタンゴの胞子だったって事か」
「そうだ。この状態から抜け出すには強い精神力、あるいは外部からの強い刺激が必要になる」
「なるほど! 俺は強い精神力で抜け出せたわけか」
「頭部からかなり出血あるから後でちゃんと手当してな?」
「……で? 俺だけ助けてどうしようって言うんだ?」
「魔王城を守ろうじゃないかって話しだよ。手を貸す。ここはもうお前らの家なんだろ?」
突然現れて偉そうに手を貸すとは随分図々しい言い方だ。そもそもダレルのキノコでテオ以外が弱ってしまったのが原因ではないか。だが、とりあえずシード達を足止めしてくれたのは事実である。
「あいつら何のつもりか知らねぇが大群で押し寄せて俺たちの庭を燃やしやがった。庭には俺たちの子供が大勢居るってのによ」
「きつ。子供ってキノコの事言ってます? あいつらは勇者城の……」
「連中が誰かなんてどうでも良いんだよ!」
「……まぁ共通の敵が現れたってところですね」
「そう言う事」
「分かりましたよ。ただし後でキノコの罰は受けてもらいますからね! で、どうやるんです?」
「そこはまぁ……相談だよ。とりあえず足止めはしてやったんだから次はそっちがアイデアを出す番だろ? ちなみに俺は半分マタンゴになったからあまり戦闘に向かない」
「はぁ、ノープランですか。リーンにブチ切れられてもおかしくないおじさんですね」
医者を連れて来ると約束したのにこんなおじさんを連れて行ったらさぞリーンは怒るだろう。テオは覚悟をして四階のみんなが寝ている部屋へ戻った。
「誰それキモ?!」
リーンは相変わらず毒で動けない状況ではあったが幻覚からは目覚めていた。と言うか幻覚にはかかっていなかった様である。
「テオ……どこ行ってたの……」
ルビィも同じだ。幻覚系の術は強者には効かないと言うのが通説だが、やはりルビィは特別なのだとテオは相変わらず脳天気に考える。
「とりあえず全員を幻覚から呼び覚ましてから説明します。悪いけど叩き起こしますよーっ!」
ティモシーはシードの魔法部隊の連中と変わらぬ表情をしていた。ニタニタと幸せそうなその隣りで、対照的にパイは苦し気に唸っている。
死なない程度に殴ってティモシーを起こすと、何故かパイは同時に正気に戻った。
「幻覚でも何でもパイコと居られたら私はそれで良いのに……」
「ぷい!」
「夢の中にでも干渉してたのかな……シュリは……」
「ああ、シュリはまだ幻覚の中なんですね。幸せそうな顔して憎たらしいのですぐに私が……」
そう言ってティモシーがモーニングスターを振り上げたのでテオは慌ててシュリの両頬を高速で叩いた。
「わわーっ! シュリ! 起きて! 早く起きて殺される!!」
「ふわっ?! 何だ……とても良い夢を見ていたのに……。立派な研究室で僕好みの天使を作り出す夢ですよ」
「え? シュリの研究のゴールって天使を作り出す事なの? スケール違い過ぎて俺自分が見た夢が恥ずかしいよ……」
「どんな夢見たのよ?」
熱に浮かされた顔でリーンが小首を傾げる。
「あ、いや……全然恥ずかしくないです!」
鮮明に幻覚の中で見た夢を思い出してテオは目を逸らせた。それに、この勇者様とどうこうなろうだなんて、難易度的には天使を作り出すのと変わらないかも知れないのだから。
「とりあえず、連れて来たのがお医者さんじゃなくてごめんなさい! 状況を説明させて下さい!」
もともと人に分かりやすく何かを説明する事が苦手なテオが懸命に状況を説明する。
シードに裏切られた事、毒キノコの犯人がここにいる事、共闘を持ちかけられているが何の作戦もない事、マタンゴとダレルは一心同体な事、テオの中で大事な事を包み隠さす全部話したらかなりのヘイトがダレルに集まった。
「元はと言えば全部あんたのせいじゃないの……! それで違う敵が出て来たから手を組もうだなんて……! ぜぇぜぇ!」
「それ俺も思いました! 思いましたけどとりあえずは我慢しましょう?!」
リーンはふぅふぅと息を整える。熱が上がってしまいそうだがテオのいう事も最もだ。後で八つ裂きにすれば良い。
「うう……全員幻覚からは覚めたのは良いが、そいつの毒キノコのせいで使い物にならないのは変わらないぞ」
ティモシーが熱のせいか悩みのせいか、ううんと唸る。
「この毒の原因が分かったなら僕解毒薬作れますよ。こんな調子なので時間掛かると思うしマタンゴ娘の協力も必要ですけどね」
おお! と全員がシュリに期待の目を向けた。
「俺手伝うよ! 手足に使ってくれ!」
「もちろん俺も協力する。どうすれば良いんだ?」
「傘の部分を僕に下さい。それを元に成分を調べます」
シュリの言葉に「では早速」とテオがマタンゴの頭に手を掛けたが、ダレルはそれを弾いた。
「やめろっ!! 傘の部分をよこせだと?! これはマタンゴにとって髪みたいなもんだろ! 女の髪ってのは大事なもんだろうが! よくもそんな極悪非道な事が言えたな!」
「太陽が邪魔だからって俺たちを殺そうとした人間が何言ってんですか!」
「うるさいっ! それとこれとは……!」
テオとダレルは激しい言い争いになり、体力のない他の面々はそれに介入する元気もない。リーンだって言いたい事がいっぱいあるが、怒ると言うのは実に体力を使う物なのだ。
「ノコ」
そこに唯一口を挟めたのがルビィだった。
「手伝って、ノコ……」
「ルビィ? 一体何を言って……」
次の瞬間、ポロリ……と、マタンゴの傘が落ちた。




