魔王城のキノコ
「リーン?! 開けますよ? 良いですね?!」
乱暴に扉をノックして返事を待たずに侵入する。
「朝から慌ただしいわね……返事を待たずに入ったらノックの意味がないでしょう」
いつもの軽口が聞こえたのでホッとしたのも束の間、リーンはまだベッドの上で、やはり皆と同じ真っ赤な顔をしていた。光水晶への魔力補充はしたくても出来なかったのである。
「リーン、大丈夫ですか? 実は、他のみんなも同じ状況なんです。一体何が……」
「何って……どう考えても昨日のキノコでしょうね……。あんた一人だけ元気なのが証拠よ」
「でもっ、毒はないってシュリが……!」
「……魔王城に生えてるキノコなんてあたし達の常識じゃ測れない可能性もある……ただのキノコじゃなかったって、事よ。はぁ、ずっと調子が良いから……油断……したわ……」
「リーン!」
気丈な態度を取ってはいたが、リーンはずるずるとその身体をベッドへ沈ませた。
動けるのはテオだけだ。とりあえず全員を看病する為に一ヵ所に寝てもらう事にした。一番環境の良さそうなリーンの部屋に一人一人運ぶ。畳を並べてパイが作った布団を掛ける。食事を用意してやる。リーンとティモシーはどうにか自分で食べるくらいの体力はあったがその他は口まで運んでやった。
「ふぅ」
「悪いわねテオ……」
「そんな事言わないで下さいよ、俺キノコ嫌いで良かったです。みんな早く良くなって下さいね」
テオは明るくそう言ったがこうして安静にしていれば良くなると言う保証はない。明日にはもっと酷くなって、死んでしまうかも知れない。本当は不安で押し潰されそうだ。
当然もともとあった解毒薬も試したが効果はなし。シュリの指示通りにテオが研究室で薬を調合してみたがそれも効果が出なかった。もっとこの毒について知る必要があるのだろう。
「俺、夕飯にはなんか栄養が付きそうなもの持って来ますね」
肉でも食べられれば良いのだが魔瘴気のお陰で鳥も寄ってこない。この中に全部揃っていると思ったのに、こんな時に何一つ出来ない。やはりここはまがい物の楽園だったのだ。そう思い、テオは忌々しく魔王城を覆っている魔瘴気に目を向ける。
「あれ?」
外はどんよりと曇っていて時間も良く分からない。人工太陽に慣れて今の景色に違和感を覚えるが、違和感の正体は太陽がないだけではなさそうだ。
魔瘴気が薄くなっている――。
魔王城を覆っていた濃い緑色の瘴気が明らかに薄くなっているのだ。
「リーン、見て下さい。魔瘴気が……」
リーンは上半身をベッドに起こし窓から魔瘴気を見てなるほどと頷いた。原因に心当たりがあるらしい。
「この魔瘴気は魔王城が作り出したものだけど、魔王の力を利用しているから当然魔王の存在に左右されるわ。魔王が死んだら爆発、魔王が眠れば百年後に消滅、病気の時なんて想定はしてなかったと思うけど、おそらくそれが原因で薄くなってるんじゃないかしら」
「はぁ……」
イマイチ言っていることが良く分からないテオは生返事をした。魔瘴気と魔王が関係しているとして、どうして魔王が病気だと分かるのだろう。魔瘴気が薄い、イコールどこかで魔王が弱ってる、と言う事だろうか。
「凄いですねリーンは!」
テオが分かっていない事はすぐに気付いたリーンだが今は説明するのも面倒くさい。
「じゃあ俺、外へ出てお医者さんを連れてきますよ!」
「は? 何言ってるのよ、薄くなってるだけで効果は続いているわ。触れただけで死ぬかもしれない。あんたじゃ……」
「魔瘴気が薄くなるほど魔王は弱ってる……その仮説が正しいなら、このまま魔王が弱り切って死んだらここは爆発するって事ですよね。のんびり回復を待ってる状況じゃないです」
「それはそうだけど……」
連れて来た医者がどうにか出来るとも限らない。そもそも連れて来れるかも分からない。魔瘴気の外は魔物でいっぱいなのだ、剣の握れないテオに何が出来るだろう。
「もっと、他に方法が……」
リーンはどうにかテオを止めようと言葉を探したが、熱に浮かされた頭では思考がまとまらない。このままではテオが危険な目に合ってしまう。
「じゃぁ早速行って来ます! みんなの枕元に水と食料を置いて行きますから、しばらく辛抱していて下さいね! 必ず戻りますから!」
「テオ……テオ!」
すぐにでも飛び出して行きそうなテオにリーンは必死で手を伸ばした。しかしその弱弱しい腕はテオに届かず、テオの背中はどんどん遠くなってしまう。
「……テ……オ」




