衣服問題
「俺たちが持たないよ~」
「人間の男は情けないわね。でも確かにもう日も暮れるし、ある程度飲料用に城内に運んだら今日は休みましょ」
「正直その言葉を待っていました~」
適当な容器をかき集めて温泉水を入れて城内へ戻り、食事は食糧庫にあった食料で済ます事にした勇者一行。ルビィは今まで人間と同じものをあてがわれていた様で、しばらくは大丈夫そうな穀物や野菜、保存食があった。調理できる場所も見つけたので料理はティモシーが用意する。リーンがやるわけもないし、シュリは子供だし、独身歴が長いティモシーはある程度の料理が出来るのだ。
「あれ……? 俺は何しよう?」
シュリは早速温泉水の成分を調べているし、パイは井戸を掘削した。リーンは勇者でみんなのリーダーだし、ルビィもまだ子供で魔王城に囚われていたから身体も心配。となると、何だかテオは自分だけが役立たずなのではだと感じ、ティモシーに手伝いを申し出たが色々と失敗して追い出されてしまった。
「役立たずになってしまう! せめて城内を探索して何か役立つものを探そう! ……ん?」
やっぱりルビィはテオの後を付いて来る。もうテオは待ってろとか休んでろとか言うのは止めた。一緒に魔王城を散策しよう。ルビィは監禁されていたのだから色々と新鮮な筈だ。
「お腹空いただろう?」
三階への階段を昇りながらテオが聞いた。
「ううん、携帯食料食べたし」
「あれじゃお腹空くよ。今ティモシー様がご飯作ってくれてるから一緒に食べようね」
「……うんっ」
屈託なくそう頷いて微笑むルビィはとても可愛い。子供としての可愛らしさ以上に、純粋そうな表情や大きな瞳がルビィを魅力的に見せる。何かもっとルビィが食べられそうなものはないかと探してやりたいくらいには可愛いと思う。
何故、ルビィはここでこんな目に合っていたのか。
「魔王城から見えるお月さま綺麗だね」
すっかり暗くなった魔王城の空には大きな月が浮かんでいた。昼間はどんより曇っている事が多いが夜は月が浮かぶ。魔王城の不思議な天気事情である。
「ルビィの部屋には小さな窓しかなかったから、こんなにちゃんと見たの初めて」
「そっか……。ずっとあの部屋に閉じ込められていたの?」
「うん、そうじゃないとご飯もらえない」
「寂しかったね」
「ううん? パイや、他の友達も良く来てくれてたから大丈夫」
それを聞いてテオは少し安心する。パイの他にも友達が居たらしい。その友達は魔瘴気から逃げてしまったのだろうか。
「どうして……閉じ込められていたか、分かる?」
もしかしたらルビィにとって言いたくない、辛い過去を思い起こさせる質問かも知れないと思ったテオは遠慮がちに聞いてみた。
「ルビィは、凄く醜い」
「え?!」
「いつもご飯を持って来たあの三本角に言われてた。ルビィは醜くて出来損ないの魔王だって」
魔族と人間はやはり相容れないのだろうとまたテオはしみじみ思う。美醜感覚が絶対的に違う様だ。
「そうか、酷いね……。それに人間の女の子に向かって魔王だなんて」
「良く分からないけど、魔王の力を取り戻す為に言う事を聞けって……。そしたら世界を手に入れるその時にきっと本来の力が戻るから、その時にうんと役に立てって」
ルビィ本人も言う様に、テオにもさっぱり意味が分からない。
「うーん、やっぱりルビィは魔王の力を増幅させるための生贄か何かとして捕らえられていたのかなぁ? 魔王が出来損ないと言うなら今ここに居ないのも納得だし……」
テオが自分の顎を摘まみながらうーんと唸ると、ルビィは心配そうにテオを見上げた。
「あ、ごめん、もう大丈夫だから……。これから色々美味しいもの食べようね」
「うん!」
食べ物もそうだが、寝る場所もついでに散策しようとテオは細かく三階の部屋の扉を開けて回った。どうやらあの三本角の部屋はリーンが使うと決めたらしい。一番上等そうだし当然だろう。
「他に良い部屋がなかったらルビィもリーンと同じ部屋に寝かせてもらうと良いよ。リーンはとっても優しいからきっと……」
「テオと一緒が良い」
「え? 俺と一緒?」
服の端をツンと摘ままれて上目遣いをされると、どうもマズい。ルビィもまだ小さいし、今までよほど寂しかったのだろう。
「うん、良いよ。じゃあもっと快適な部屋を探そうね」
「うん!」
二人はゆっくり歩きながら扉を開けて細かくチェックしていく。
気になる部屋は二つあった。
一つは両開きの扉が開かない、突き当りの部屋。やたらと周りの空気もじめじめしていて部屋にするには向いてなさそうだ。なので部屋にするつもりはないが鍵がかかった部屋がなかったので気になる。落ち着いたら無理やり開けてみても良いかも知れない。
もう一つはとても快適な……衣裳部屋だ。
人間から奪ったものだろうか? 人型の魔族も多いし、着飾りたい気持ちは同じらしい。大量の衣服の保管に向いているカラリとした部屋だ。ここに寝具を運び入れれば良さそうである。
それに、今ルビィが着ているのはみすぼらしい白いワンピースだ。このままではサイズが合わないだろうが、作り直せば良い。これから長い期間をここで過ごす事になるのだとすれば暖かい服も必要だろう。
「よっし、持てるだけ持って皆のところへ戻ろうか。そろそろティモシー様がご飯を作り終わってるかも知れない」
食事は一階の謁見室の様な場所でみんなで食べる事にした。食糧庫と台所もあって所謂生活動線と呼ばれるものの都合がよさそうだったからだ。そこに戻ると誰が探して来たのか十分な大きさのテーブルと人数分の椅子がある。まだ食事は並んでいなかったのでテオは大量に抱えて来た服をそこへ並べた。
「て事で! まだまだいっぱい人間が着れそうな服がありましたので、サイズ直して着ましょうよ!」
「ま、この面子相手に着飾る必要もないけど、着替えは欲しいわよね」
「気が利いたもの持って来たじゃないですか~。じゃー僕が針とか糸とか作るんで、テオは全員分の下着も作って下さいね」
「うん! やった事ないけど頑張っ……」
「すぱ」
テーブルに並べられた服を一枚取って裏表を念入りに確認してから、パイはルビィに自分の糸を這わせた。そしてそれを切って服の上に並べ、その通りに裁断していく。どうやらあの糸はメジャー代わりだろうか?
そしていつもお尻から出ていた糸を指先からも放出し、それらを器用に縫い合わせ……。
「あら、凄いじゃない!」
「パイコ! やはり俺のパイコは世界一だ!」
「ぷい!」
あっと言う間にルビィの身体にぴったりの服を作り出してしまった。スピードもさることながら出来の方も申し分ない。




