魔王城スローライフ計画
「ルビィ、魔瘴気って聞いた事ある?」
期待薄にリーンはルビィにそう聞いてみるがルビィはぽかんと口を開けている。
「無自覚か……めんどくさ。テオ、あんた仕切りなさいよ」
「ええっ! 俺がですか?!」
「あたしは勇者だけど魔王討伐以外の仕事はサボっても良いでしょ?」
勇者とはそういう事ではないと思ったテオだったがリーンの理不尽にはいちいち逆らわない。しかし何をどう仕切れば良いものかと悩む。
「えっとー、司会を任されましたテオです。何をどうすれば良いのか……俺自身分からないんですけどー、正直俺はリーンと一緒に居られれば後はどうでも良いかなって思ってるので、みんながどうしたいのかを聞かせて下さい」
「ひえー、さらっと熱烈な事言ってるのにやっぱりポッとしないどころかなんか当然みたいな顔してる勇者さま可愛げない~、どんまいテオ!」
「ちゃちゃを入れるなシュリ。お前には分からないかも知れないがただ愛する者と一緒に居たいと言う気持ちは何よりも尊い。私もパイコと共に居られれば後はどうでも良い」
「ぷい!」
「あ、ごめんルビィ、パイが何て言ってるか通訳してくれない?」
「通訳も何もぷいって言ってるだけじゃないの」
リーンがそう突っ込んだがルビィはコクリと頷いた。
「パイコって言うなこの変態。もう一回言ったら糸でぐるぐる巻きにして今度こそ絞め殺す。最後まで苦しむ様に足の骨から順番に折って行くから覚悟しておけ」
「今のぷいにそんなにいっぱい込められてたの?!」
いつも可愛らしい声で言葉にもなっていない声を発するだけだったので、ティモシーに対してこんなに具体的な敵意があるとは思わず、ティモシー以外はギョッとした。
「ああパイコ、そんなにも私の事を考えてくれていたなんて感激だよ。まだ出会ったばかりなのにすっかり夫婦みたいだね」
「はい、じゃー次の人の意見聞きます。ルビィはどうしたら良いと思う?」
このティモシーにも少し慣れて来たテオが話しが続きそうなティモシーをぶった切ってルビィに話しを振った。
「ルビィはテオの盾」
「ぺる」
「パイはルビィの友達だからずっとルビィと居るって」
またルビィがパイの言葉を教えてくれる。
「んっ?」
ここまでの意見を聞いてシュリは気付いた。
「これ……、パイの言葉がルビィの通訳通りだとしたらですよ? 勇者さま以外魔瘴気から出なくても困んない人達ばっかりじゃないですか」
「あたし以外? あんたはどうなのよ? シュリ」
「テオには言ったけど、僕ここの地下に住むって決めてますもん」
「え?! そんな事言った?!」
確かにあの研究室を見た時そんな事を口走っていた気がしないでもないが本気だとは思わなかった。
「ふぅ~ん? あたし以外ねぇ……。あたしが出たいって言えばシュリだけが残る事になりそうだけど、出たくても出られないしねぇ」
討伐が必要だと思う魔族はここには居ない。全員が帰る事に執着がない。待っている人が居るわけでもなく、それぞれの大切な人はここに居る。
「みんな意見は言いました。あとはリーンだけです」
「なるほど……じゃぁ~……」
ぐるりと会議に参加した面々を見渡して、結局リーンが最終的な決定を下す。
「ここでみんなで暮らしましょう!」
予想外な決断にその場にいた全員が「えー!」と仰け反る……と思ったのはテオだけで他の面々はうんうんと頷くに過ぎなかった。
「まっ……魔王城で?!」
「そうよ」
けろりとリーンが答える。
「だってみんな帰る理由ないんでしょ? ルビィとパイに至ってはもともとここの住人だし、あたしは魔王討伐だって必要ないってずっと思ってたし、魔王城がこんな風に封印されてたら誰も文句言わないわ。言いにも来れないし。出られないーってジタバタするよりここの生活を楽しんじゃえば良いじゃない」
「魔王城の生活を楽しむなんて事……」
「題して! 魔王城スローライフ計画よっ!!」
「題する必要ありました?!」
さすがのテオもそこまで楽観的な考え方が出来ずに戸惑う。このパーティの中で一番常識人なのは実はテオなのかも知れない。
「賛成とか反対とかの話しではありませんが賛成です。しかしながら題するならアラクネパイコとのイチャラブライフ計画です」
「僕共同生活って苦手だからずっと研究室に居ても良いですよね?! 題するなら【ショタ】魔王城の地下に最高の研究施設を見つけたのでそのまま住み着いて研究三昧の日々を送る事に決めました! ~もう絶対に外へ出ません~【天才魔法科学者】」
リーンの提案に前向きな二人に、ぎゅっ! とテオにしがみ付くルビィとその後ろでルビィを見守るパイ。
「ぺる」
「なんて?」
「早く覚悟を決めてルビィとの子供を作った方が良い」
「なっ?!」
「ちょっとあんた! さっきから嘘言ってんじゃないわよ!」
テオ以上に反応するリーンにルビィはなぜ怒るのだろうと不思議顔だ。パイが本当にそう言っているかどうか確かめる術はない。
「一念発起して魔王討伐に来たって言うのにまさかこんな事になるなんて……」
「魔王討伐を出来なくしたのはあんたでしょ? テオ」
「え? 何故です? と言うかリーン、まだ全部は見ていませんがこのお城あまり人間の住処に向いていないですよ」
一応の戸惑いは見せたものの、テオは早速ここで暮らす具体的な想像を始めた様だ。




