99年と11ヶ月30日
「くそっ! 結局分からない事だらけじゃないか」
そう言ってルビィを抱えたまま悔し気な表情を見せるテオの横顔を、不思議そうに眺めながらシュリがリーンに耳打ちする。
「勇者さま、テオの最後の質問……意味わからないんですが」
「はぁ~」
シュリの言いたい事がすぐに分かったリーンが頭を抱えた。
「その……ルビィとか言う子に懐かれたわけ?」
「あ、はい。ルビィってのは俺が勝手に呼んでるだけで、どうやら魔王城に監禁されてたみたいなんです。クソガキって呼ばれて虐められてて、絶対助けてあげたいなって。あ、でも結局その虐めて来た奴は何故かルビィの身体から出て来た青い炎に焼かれて死んじゃいました!」
リーンとシュリは顔を見合わせる。
「何故か身体から出て来たって……」
「魔王城内部もなんか嫌な派閥とかあんのかしらね……ま、それはもう良いわ」
「良いんですかねぇ……?」
「あんたに懐いてるなら責任持ちなさいよね、テオ」
「もちろんです!」
リーンが諦めた様に言うのでシュリもそれ以上は何も言わなかった。それよりも確かめねばならない事は山ほどある。
「とりあえず得られた情報だけで動くしかないけど……」
「要するに魔王城には結界を破られた際に勇者に嫌がらせする魔瘴気って仕掛けがあったわけですね」
「魔王城に住んでる様な上級魔族も逃げ出す障壁。つまりあたし達は魔王城に閉じ込められた」
「ちょっと待ってよ~! 僕まだ色んな研究が途中なんですけどぉ~?!」
無効まで九十九年十一ヶ月三十日、である。
「いつからこのシステムが導入されたのか知らないけど、結界を壊さず魔王城に侵入出来るブレイズオーブはやっぱり持ってた方が良かったって事?」
「そういう事ですね! 省エネの為に一応持ってくとか言ってましたけど必須アイテムじゃないですか!」
「でもあたし結界壊してないじゃない。不具合で壊れた結界に反応してヤバい障壁作っちゃったとかそれは回避出来ないもの」
「あっ、結界が壊れたのは不具合じゃないですよ。さっき言った何故かルビィの身体から出た青い炎が勢い余って魔王城の壁まで突き破っていましたから」
「結局そいつのせいかよ!」
「怒らないであげて!」
大事そうにルビィを抱えたままのテオを見て、またリーンとシュリは顔を見合わせた。これから何度こんな思いをするのだろうか。
「はぁ、とにかくその魔瘴気とやらがどんなものでどこまで覆っているのか確認する必要があるわね。行ってくるからあんた達はこの魔王城の中をしっかり調べておいて。この他にも何か仕込んであるかも知れないんだからね」
「わ……分かりました。でも魔王城の声で、城内システムが崩壊とかって聞こえて来たし、見えなかった階段とかも見える様になってるのでたぶん大丈夫だと思います。だからここはシュリに任せて俺も……」
「ダメダメ! その子はあんたに懐いてるんでしょ?! 絶対に一緒に居なきゃダメよ!」
「リーン……。やっぱり優しいんですね」
「責任持ってって言ったでしょ! 良いから調べておいてよね! もしかしたらしばらくここに居なきゃいけないんだから!」
うっとりした目で優しいなどと言われたリーンはそうまくし立ててパッと小窓に飛び移り、そこから細い身体をするりと滑らせた。ここは二階から三階の階段の途中であるがリーンならこれくらいの高さはなんて事はない。
「もう行っちゃった……。それにしても城から禍々しい雰囲気がなくなったね。本当に魔族たちが出て行っちゃったんだ」
「魔族が居ないって事は……このでかい城を自由に出来る! 豪華なお家がゲット出来ちゃいましたね!」
「あはは、シュリは能天気だなぁ」
「テオに言われたくないですよ。冗談ですし。僕早く帰って研究室に籠りたいんですから」
「よし、言われた通りに魔王城を散策してみよう。でもまずはルビィがゆっくり休めるように上の階へ戻るか」
肩を竦めるシュリに気付かず、テオはルビィを背負って魔王城の散策を始めた。まずはルビィが居た最上階へ戻る。
最上階にはルビィが居た中央に畳が置かれただけのだだっ広い部屋以外にも何部屋かあった。一つは寝室の様で大きなベッドが置かれていた。おそらくはあの三本角が使っていたのではないだろうか。
「よし、ルビィはここで休ませよう」
「目が覚めた時にテオが居なかったら暴れませんか?」
「あははっ! 一体この子を何だと思ってるんだい?」
「そっくりそのままお返しします」
「ルビィも俺の背中より広いベッドの方が言いに決まってるよ」
もう数部屋はだいたい本や食料品等が雑多に置かれていた。ルビィの食事、三本角の娯楽等々、言ってしまえば物置だろう。
あとは下へ降りる階段が一つだけだ。
「一気に下まで降りて上がって来ようか」
最初の様に階段が見当たらなくて困る事もなく、まずは地下まで降りて来た。
「結構部屋数ありますよ。全部調べてたらキリがないかも」
「そうだなぁ、とりあえず怪しげな扉から調べよう」
「どこが怪しげなんです?」
「それはほら、勇者パーティの一員なら分かるもんだろう?」
「昨日結成されたばかりですけど……」
「それ言わないで! 俺たちは長い間一緒に苦楽を乗り越えた仲間で、言葉では言い表せない絆とかあって長年の冒険者の勘とかあるって事にして!」
「事にしても良いけど真実は曲げられませんよ」
「わぁん!」
随分年下の筈のシュリに譲られつつ正論をぶつけられてテオは情けなくなって泣いた。
「でも……勇者パーティだからってワケじゃないけど僕こっちの方角に何だか胸騒ぎを覚えます」
「おお! きっとそれは勇者パーティの一員だからだね!」
「ついさっき前置きしたのに……ああ、そういう事にしても良いって僕が言ったんだった」
「どっちだい?!」
分かりやすくテオは元気になってシュリに道案内を急かす。どうやら本当に胸騒ぎを覚える方向があるらしくシュリはこっちですと歩き出し、鉄製の扉の前に立った。




