予期せぬエラー
背中に聞こえる爆発音や結界音に怯えながらもテオはルビィに声を掛け続けた。すると腕の中のルビィからか細い声が聞こえる。
「あなたは……リーンの盾?」
「えっ? 何? 大丈夫! 良く分からないけど何とかなってるから! 良く分からないけど!」
「これじゃ……あなたが傷付いちゃう……」
ルビィがそう言うと、とうとう結界が破れる音がした。だがそれは三本角の攻撃で壊れたのではない。結界内からの衝撃を受けたのだ。テオにはそよ風程にも感じなかったが、内部からの衝撃波は結界を破り、そのまま三本角を部屋の隅まで吹っ飛ばした。
「ぐぎゃっ……!!」
「な……何だ?」
驚いてルビィを庇っていた身体を起こし、後ろを確認すると三本角が床に這いつくばっているではないか。
「なら……あなたの盾は、私……」
テオの下で守られていたルビィは立ち上がり、倒れたままの三本角に一歩近付いた。
「ぐ……く……クソガキが……何のつもり……だ」
「この人……美味しいご飯くれた」
言いながらまた一歩近付く。
「ああん……?」
「この人……私が食べ終わるまで待っててくれる」
また一歩。
「おいおい……てめぇ、ちょっと目ぇ離した隙に何餌付けしてくれてるんだよ……」
三本角は口の端を歪めて強い態度を見せたが瞳の奥が怯えている。
「この人、私を見る目が恐くない」
一歩一歩近付く度、ルビィの小さな身体に蒼白い炎が上がり始めた。
「おいおいおい……」
「この人、私に……名前くれた!」
ちろちろと燃えていた蒼炎は、ルビィがそう言ってカッと目を見開くと一気に燃え上がって天井に広がった。かと思うと、それはまたルビィの元に収束して猛烈な威力を含んだ火の玉になり、三本角目掛けて放出された。
「おいっ……! やめ」
言いかけた言葉など待ってはくれない。三本角はものすごいエネルギー波で吹っ飛ばされ、部屋の扉も、その先の廊下も、全部突き抜けて魔王城の外へと消えた。いや、外へ出る前に蒼炎の中で消滅したのかも知れない。
「な……な……」
テオはまだ目の前で起こった出来事を正しく処理出来ない。
お腹を空かせた可愛そうな少女、三本角の強そうな魔族、その次……その次だ。一体何が起こった?
「ルビィ……? 今の……今の炎はルビィがやったの……?」
ルビィは立ったまま動かない。
「ルビィ?」
異変に気付いて近付くと、ルビィがドッとその場へへたり込んだ。
「ルビィ! 大丈夫?」
「ふふ……ルビィ……私の名前……」
慌てて抱き起こし顔を覗き込むと、ルビィは満足そうに笑ってからカクンと脱力してしまう。もし本当にあの蒼炎をルビィが出したのだとしたら当然身体の負担も大きいだろう。あの蒼炎の威力はリーンと同等か、もしかしたらそれ以上なのではと感じる。おそらく魔族にとっても脅威の筈。だから幼い頃から監禁されていたのではなかろうか、テオはそう考えた。
それにしてもである、今ので魔王城に大きな穴が開いた。当然結界も破られたであろうが今魔王城はどんな状況だろうか?
「ルビィ、ゆっくり寝かせてあげられないけどごめん、運ぶよ?」
気絶した様に眠ってしまったルビィに一応の断りを入れてテオはルビィを抱えた。握力の落ちたテオにも問題なく運べるくらい華奢だ。
部屋を出ると、扉から廊下を挟んで真っすぐ突き当たった壁に穴が開き、魔王城内が騒然としていた。四方八方から魔物の唸り声が聞こえてくるのだ。
「やっ……やばい!」
ルビィを守らなければと走り出すテオ。城内の様子も先程とは変わっている。どうやら結界が破られた事により、中にかかってた幻覚魔法的なものが消えた様だ。今までいくら探しても見つからなかった下へ続く階段を発見した。とにかくリーンと合流しなければなるまい。
しかし、その階段の途中で下から上って来た大量の魔族と出くわしてしまう。
「……!」
今は誰の補助もなく、腕の中にはルビィが居る。逃げるしか道はない。逃げて、どうにかリーン達に探し出だしてもらうしか方法が思い付かない。それさえも出来るかどうか分からないが……。
とにかくまた上に戻ろう。そう思い一歩後ろへ下がった時、どこからともなく警告音と声が聞こえて来た。声は人間の女……の様な声だがどこか不自然だ。
『予期せぬエラーにより魔王城の結界が破られました。それにより幻影システム、他城内システムはすべて崩壊。魔王城管理システムのマニュアルに則り、まもなく魔王城周辺を魔瘴気で覆います。効力は百年。各魔族の判断で脱出して下さい』
どこから聞こえて来るのかは分からないが、どうも魔王城全体に聞こえて来る様である。そしてそれを聞いた階段に押し寄せていた魔族たちが顔を青くしてワッと下へ戻った。更にそのまま、どこか空いている所から、あるいは強引に壁に穴を明けて、外へ飛び出して行っている様なのだ。




