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ネーシア諸島の南部に浮かぶ小島、その名も小南。以前サーフィンが盛んな時期があったと聞くと湘南? などと思ってしまう。波乗りを広めたという件の人物に創造神が連れて来た元地球人であった痕跡を見つけて妙な感慨を覚えるのだった。
「なんだかな……」
「ふっ、神さんでもセンチメンタルか?」
「そんなんじゃない、気がする……」
そうして、ふと思い出してサイに告げる。
「そういや隣りの島には洞窟らしき場所があるぞ? ダンジョンになってるんじゃないか?」
「藪から棒に……そんなゲームみたいな話を……」
「まぁまぁ、行くだけ行ってみようぜ」
あまりポンポン瞬間移動をして俺達一行が船に乗った形跡がないと不審がられるのを避ける為にわざわざ漁村から……。
「キュリヤ、ここの隣りのあっちの方に見えるやつね。あの島の名前は?」
『大南、港町の名前はそのまま港』
「サンキュー」
漁村の桟橋まで戻った俺達は船を探す。手近に居た人に尋ねると暇な漁師に金を払えば乗せてくれるとの事。
「あー、すんません。大南まで乗っけてくれる人を探してんだけど……」
「おお、3人か? 良いぞ」
すぐに見つかり漁村から出港した。
「あんた、前にも来てたよな?」
「振る舞いがあった時だな」
「やっぱりそうだ! あれ以来振る舞いは無いな」
なかなかの速度だと感じるスピードでボートはぐんぐん陸を離れ、逆に進行方向の島がみるみる近付いてくる。
「こんな田舎に何度も来る奴なんて珍しいな」
「いやぁ、美味い魚に誘われてな」
「そうか、そりゃ嬉しいな」
「なぁ、渡船が頼めるって事は釣船も頼めるのか?」
「釣船? 沖で釣りでもするのか? 漁師でもないのに?」
「考えただけなんだけどさ。針に餌付けて錘で落としたら何か釣れそうでしょ?」
「そりゃ、なんかは釣れんだろ」
「でだ、漁師のノウハウで良い釣り場へ連れてってもらって大漁! とか大物! なんてなったら楽しいだろうな……なんてね」
「ははははは! 面白い事考えるもんだな」
どんどん近付いてきた大南の港へ入るとボートは減速していって端っこにある桟橋へ着けた。
「助かったよ」
「暇な時ならいつでも歓迎だ」
金を払うとすぐに戻るという男に軽く手を振る。
「船は少し苦手かも……」
道中おとなしかったサイが呟いた。
「船酔いか?」
「かもな……」
たかだか10分程度で情けない。ゲルの視野に慣れる方がよっぽど……ま、言うまい。
「さて、まずは下調べだな」
大南は入り組んだ海岸線の歪な形をした島だ。その中心よりやや南に大きな洞窟の入り口と思われるものがある。この港からは北西方向になる。洞窟付近に集落があるのでまずはそこを目指すのが良いだろうか。
「こんちはー!」
港から一段高い位置にある大きな建物の周囲にいる人達に声を掛ける。
「なんだ?」
漁師には見えない細身の男が応えてくれる。
「邪魔して悪いね。大南は初めてなんで何か情報でもと思って……」
「ああ、ならばここで良い。あそこから中に入ったら人が居る筈だ。そこで聞け」
男が指差した場所へと進んでいくと入り口の向こう側にカウンターがあり女性が応対してくれる。
「どの様なご用件でしょうか」
「あぁ、大南へは初めて来たもんで何か観光情報とか注意点、なんでも良いから聞いておこうと思って」
「そうですか、ようこそいらっしゃいました。目的地はお決まりですか?」
「いやぁ、なんせ小南からノリで来ちゃったもんで……」
「それは、そ、そうですか……」
そんな奴いないのか?
「それではご希望のもの、例えば……」
『名物料理を希望』
「うふ、お食事ですね? ご存知かとは思いますがネーシアは島国なので海産物には自信があります。内陸へ入ると穀物やヤギなども生産されています」
「ちらっと聞いた話では内陸には大きな洞窟があるとか?」
「そうですね。昔は流行っていたみたいなんですけどね……」
「ん? 強いて言えばその噂を聞いて来た様なものなんだけど?」
「皆さんは傭兵ですね? 戦闘経験が無い方にはまずお勧めしてませんが……。んんっ! 迫り来る魔物! 極限の環境! 命を賭けたアトラクションを君は攻略できるのかっ!!」
「ど、どうした?」
「失礼しました。あの洞窟は奥へと進むと魔物が強くなる迷宮になっているんです。それで、先程の口上は迷宮がまだ活気に溢れていた頃のキャッチコピーでして、私は今回で2度目なので上手に出来たか分かりませんが……」
どうもきな臭くなってきた。
「迷宮に挑むには登録が必要になります。こちらでも可能ですし洞窟の側にある村でも可能な筈です。ただし……」
「迷宮内で起こる全ての不利益は自己責任。所持品の紛失、怪我や仮に死亡しても迷宮管理側は一切責任は取らない?」
「そ、そうですね……その通りです。良くご存知で」
「似た様な場所がうんと遠くにもあるんだよ」
「へー、そうなんですね! お兄さんはそこを踏破してきたとか?」
「いや、かなりの深部までは行ったけどね」
「それならば! もしかして、もしかしちゃったりします?」
「なになに?」
「とっ……ても久しぶりに踏破者が出ちゃったり?」
「聞いたら行ってみたくはなったけど、どうだろうね? 難易度によるとしか言えないかな?」
「お察しの通り今は寂れていて挑戦される方も超ぉぉ少ないんですけど一点だけ、本当に命の危険がありますのでくれぐれも慎重に判断して下さい」
「ちなみになんで寂れたの?」
「それはそうでしょう。何人もの方が戻って来ないんです。……それは、そういう事なんでしょうね」
「死人が出過ぎて過疎ったダンジョンてどんなだよ!?」
「?? ん? えっと、とにかく、そういう事なんです。えっと、えっと、あとは……ダンジョンマスターという方が言ったとされる言葉が伝わっています。"ガンガンいこうぜ"だそうです」
一気に嫌な予感が膨れ上がる。
「ダンジョンマスターは存命なのか?」
「たぶん無理じゃないでしょうか? 廃れてしまったと聞くのが150年は前になるらしいので……更にそれ以前の方という事になりますからね」
「そっか、洞窟の近くにある村の規模は? てゆうか準備は港町でしていった方が何かと揃う感じか?」
「そうですね。村には最低限の施設しかありません……。と、思います。はっきり言って私、行った事がないので古い情報の可能性がある事をお伝えしておきますね。ごめんなさい」
「いや、大丈夫、助かるよ。サイは何か?」
「特に無いな」
「キュリヤは?」
『ここならではの郷土料理は?』
まだ食べ物の事考えているかよ!
「ならではの料理……皆さんにピッタリなのがありますよ。マンガ肉はご存知ですか?」
『否定、説明を要求』
「これは件の迷宮内でしか手に入らないらしいのですが骨付きのお肉……」
「あー、悪い! もう結構だ。俺が後で説明する」
「そ、そうですか……。これもご存知なんですね」
「まぁね、他に教えてもらえそうな事は?」
「はい、島の最北端には北港という町が、東にも東港という町があります。西側の海沿いには港を建設出来る様な場所が無いのでありません。基本的にここを含めた3つの港町が海上移動の拠点となっております。内陸には村というか、集落というか小さな規模のものしかありません。1番大きな規模の集落がここになりますね。あと、島自体の魔物の脅威度は高くありません。一般人ならばともかく傭兵の3人組であれば問題無いかと思いますが油断だけはしないで下さいね」
「そんなとこかな?」
「そうですね……。はい、以上ですね」
「最後にここはどんな施設でお姉さんは何者なの?」
「えっ!? こ、ここは港湾管理事務所、他の町だと役場の様な施設ですね。私は訪問者様の案内係です」
「そうだったのか。外の男性にあそこ行って聞けとしか言われてなくてさ」
「うふふ、漁師さんですかね? 簡潔というか、つっけんどんというのか……」
「なんにせよ助かったよ、ありがとう」
フロントの女性に感謝をしてから表へ出る……その前に最後に聞き忘れた事を思い出す。
「ごめん、最後の最後にもう1個、洞窟まではどの位の時間だろう?」
「あ、そうですね。こちらもお伝えし忘れてました。ゆっくり行っても2時間あれば到着しますよ」
サッと軽く手を上げて今度こそ港湾管理事務所から出て町の北へ向けて歩き始める。
「神さん、ダンジョンマスターってのは?」
「一般論、というか俺の知ってる知識だけで言うとダンジョンを作ったり或いはダンジョンの管理をしてる者、ダンジョンの支配者とも取れるだろうか? 割と広い意味にも使われそうだからあまり勝手に定義付けるのもな?」
「そうか、で、やっぱり?」
「不確定ながら可能性は高いだろうな」
「やはりそうか。オレは島の散策よりは迷宮探検の方が興味があるんだが」
「勿論俺達もだ。な、キュリヤ?」
『肯定、並びにマンガ肉の説明を要求』
「覚えてたか……」
「ふっ、それならばオレでも想像出来る」
キュリヤに説明したのだが『何故その形状なのか理解不能』だとか『非合理的』だの言い出す。
「だから、マンガ肉って呼ばれてんだよ」
そもそも現実ではあり得ないファンタジーを描いた物がファンタジーみたいな現実には存在している可能性……頭がこんがらがってきた。




