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ネーシア諸島でダンジョン攻略である。創造神ミルユーが絡んでいると予想されるが確証は得ていない。ただ、この歪な世界にダンジョンと呼べるものが他にもあった事と、ダンジョンマスターなる称号を耳にすれば自ずと可能性は高まる。
「どうする? 1〜2時間歩くか秒で行っちゃうか」
「ふっ、言葉だけ聞くと出鱈目な提案だな。特に問題が無ければ早く行きたい所ではあるが」
「じゃあ、サクッと行こう」
大南という島の港町から北へ歩いていたのだが人影は全くといって無い。一応探りを入れるが問題無いだろう。瞬時に洞窟付近の村からやや離れた林の中に移動する。
「なんというか、辺鄙な所だな」
サイの言葉に首肯して返す。
「でも、ちょっと面白い? おかしいと言うか……」
植生は北島、小南とそう変わらない筈なのに木々に含まれるマナ量が多い。それだけではなく、ここら辺を取り囲む物質全てのマナ保有量が他の地域よりも多いのが分かる。
「どういう事だ?」
「なんか周りの物全部が他の場所の物よりもマナ量が多いんだよ」
「それは何か弊害でも?」
「いや、はっきし言って分からん。こんなのは俺も初めてだからな」
「だが、例のダンジョンとの関連は予想出来る?」
「そうだなぁ。決め付けは良くないけどそう考えるのが妥当だよな」
「まずは村で手続きだな」
村の周囲には「それ意味ある?」といった趣きの木の柵がぐるりと立っている。かろうじて村の入り口を示す門もあるのだが、誰かが居る訳でもなかった。すんなり敷地内へ入ってきても誰も声を掛けるでもない。門から手近な民家の前で2脚の椅子に座り小さなテーブルの上に置かれた飲み物を飲んでいる男女に問い掛ける。
「あのぅ、ダンジョンの入場許可証みたいのが欲しいんですけど?」
「ほぇ〜、洞窟の挑戦者か? 久方ぶりだりゃ〜」
「1年前が最後だったかえ? ほれ、あっちゃの一等大きいんとこ行け〜」
会釈をして教えてもらった建物へ向かうと入り口の上に大きな看板が取り付けられている事からただの民家ではない事を理解する。
「なんて書いてあるの?」
『ガイアの大穴』
「だけ?」
『肯定』
「ふむ……」
気を取り直して建物の中へ入ってみる。奥にカウンターがあり座っている男女2名が受付なのだろうな。
「ダンジョンに挑みたいんだけど?」
「うおっ? 本当っすか?」
男性の方が大きな声を上げる。
「ほんとほんと、南の港で聞いてきてるから大体の事は分かってんだけど入場許可が必要なんでしょ?」
女性の方が受け答えをする。
「そ、それでは、この紙に……と、登録用紙へ記名……ご、ご記入願えますか? あ、3人共、それぞれれに、です」
不慣れ過ぎる程に人が来ていないと……。
「分かった」
用紙を受け取り、俺の分はキュリヤに頼む。
「不明瞭な部分とか怪しい所は無いか?」
『否定、名前の記入を兼ねて、事故等があった場合に迷宮側は責任を負わない旨への了承のみ』
「書けましたか?」
3枚共提出して確認を待つとすぐに許可が降りる。
「はい。大丈夫です? これのが、あれです。あの、ライエンスです」
「だ、大丈夫か? ライセンスで良いのか? 洞窟の迷宮への入場許可になるんだよな?」
「ひゃい! 可能な程に可能です!」
「マッジかよ! あっこに入んのかよ! ッベーぜ! ダンジョニンかよ!?」
不安しか感じない2人の対応にこちらがオロオロしてしまう。
「た、頼むからちゃんとしてくれ」
「はあ? あと何が要りますか?」
「これでダンジョンアタックは認められたのか?」
「だいですぇ、いえ、大丈夫です?」
「これを持って行けば良いんだな?」
カード状の物を受け取り確認する。
「はい。大丈夫なやつです」
ヤバい、ポンコツ過ぎて愛おしくなってきた。
「ふっ、ならば早速行ってみよう」
サイは最終確認だと認識して洞窟へと歩き出す。若干の不安を残しながらサイの後を追う様に建物から離れた。
……許可取りは必要だったのだろうか? 洞窟の入り口まで来て更に不安が募る。入り口には1人の男が端の方で椅子に腰掛けているのだが、俺達が入っていこうとするのを止めるでもなく咎める訳でもなく座ったまま動かない。勝手に入って良いものなのか考えるが、何も言われないのならばと勝手に入っていく。寝ているのか? やはり微動だにせず座ったままだった。
「良いのか?」
「知らんよ? 許可証もあるし止められもしなかったし良いんじゃね?」
岩山にぽっかりと口を開けた洞窟の入り口を潜ると大気中のマナに水分が多量に含まれている事に気付く。俺には分かりにくいが湿気が多いんだろう。
「それじゃあ、神さん方は極力手を出さないで欲しいんだが」
「良いよ。キュリヤもな?」
『渋々了承』
「ハハッ、うちの参謀殿は意外と戦闘狂だからな」
「ふっ、手に負えない場合は頼む」
「オーケー」
入り口から暫くは割と広い1本道が続いた。下位のゲルが数体現れたが特に苦労もせずにどんどん進む。天井から落ちて来たものもサイは驚きもせずに対処していた。すると最初の分岐点だ。
「進路はどうする? 楽しみが減ると思って中は全く探ってないけど最短ルートを探せば一直線も可能だと思うぞ」
「いや、そこも含めて自分を試したい。良いか?」
「勿論、勿論」
サイは迷わずに右側の通路へ入っていく。ここからはご丁寧に備え付けられていた壁の灯りが無くなる様だ。人間のサイは見えているのだろうか……。
「すまん、やはり無理だな。灯りを点けるぞ」
「ハハッ、やっぱりか」
大きな肩掛け鞄からランタン? とにかく手持ちの照明を取り出して左手に持った。
「あんたは光が無くてもお構いなしなんだろ?」
「そうね……それでも人間の目で見る色彩は懐かしくも羨ましいと思うけどな」
「ふっ、お互いないものねだりってとこだな」
進む事数分、サイが灯りを腰の辺りにぶら下げた。前方にいる魔物の気配を察知したのだろう。体長1m弱の四足獣、それが6匹。速度をやや落とし警戒する様に進んでいくと2匹がほぼ同時に駆けてきて1匹が飛び跳ねて頭部を、もう1匹は低い姿勢のまま足元を目掛け襲いかかる。
「キュリヤ、アレなぁに?」
『大鼠、脅威度は低い魔物と補足』
「あー、小南で散歩してた婆ちゃんが言ってたやつか。すばしっこいカピバラ?」
サイは身を屈め足元狙いの1匹の顔面に横から蹴りを入れる。頭上を通り過ぎた1匹が着地した所へ向き直る前に横腹に蹴り、2匹は左右両側の壁に激突して絶命。まだまだ洞窟の浅い部分、サイの相手が務まる魔物は出ないだろう。
「素材の採取とかは手伝うか?」
「今の所良い。雑魚素材は無視だな」
その後残った4匹も瞬殺し洞窟の奥を目指して進み続ける。何度か大鼠と遭遇するもサイは獣型魔物を複数相手にしても全く危なげなく処理していく。
「……階段だな」
「階段だね。明らかに何者かの手が入ってるな」
綺麗に等間隔の段差が下へと続いている。
「まあ、行くしかないか」
サイを先頭に降りていく。第2階層といった所だろうか? それでもまだまだ余裕のサイは複数を同時に相手しようが、大鼠の群れが2桁になろうがお構いなしにどんどん進んでいくとまたもや階段を発見。ここまでは魔物も弱く、道も複雑ではなかったのでスムーズに進んで来られた。第3階層には新顔の魔物が登場した。新顔とはいえ俺も良く見知った相手、ナクトマンだった。森の中ならばもう少し脅威度が上がるのだろうが、平坦な閉鎖空間ではその実力を全て発揮する事も出来ず、次々とサイの後ろに屍を積み上げる事になっていった。不思議な事に森の個体とは違い7匹1チームという決まりは適用されておらず、3〜4匹で現れたりリーダー不在だったり、第4階層へと降りてくると8〜10匹が同時に現れたりしていた。しかしながらこの程度ではサイの足を止める事にはならず、進軍速度を落とす事なく順調に第5階層まで降りてきていた。
「ふぅー、流石に疲れが出るな」
「ハハッ、警戒を怠らずノンストップで魔物と対峙してれば疲れもするだろ」
「……比べるもんでもないが、神さんならば歩きながら触れもせずに魔物を消していくんだろ?」
「おっ、なんだ? じゃあ、縛りプレイでもしてみるか?」
「……。な、こんな所で、何を言ってる! お、俺は巻き込むなよ?」
「人型の人形で形状変化無し、遠距離攻撃の魔法も無し、手持ちの武器と素手のみでどうだ?」
「?? どうだ? と、言われても……」
「まぁ、少しやらせろよ」
サイは幼少期はともかくゲーム等をほぼやらずに過ごしてきたので"縛りプレイ"という単語を知らなかった。その為、脳内で解釈されたのは縄等で体を縛り付けるSMプレイの事だった。ミチオはミチオでそんな誤解が生じている事に気付かずに意気揚々と魔物を倒そうと先頭に立って進んでいったのだった。
「いたな、どれ!」
ひょこひょこ飛び跳ねながらナクトマン4匹が接近してくる。右手にマチェットナイフを握り間合いをはかっていると後続の敵4匹の接近も確認する。右前方から大きく飛び上がってきた1匹に袈裟斬りに振り下ろしたマチェットナイフが刺さり、左の肩口から胴体の中心辺りまで切り裂いて止まった。素早く手前に引き抜き、横回転をしながら足元に迫る1匹を前蹴りで後方へ蹴り飛ばす。その真上、天井に両手を着いて勢いを付け飛び掛かる1匹が放つドロップキックの様な両足蹴りを右へ回り込み躱すと同時に胴体をマチェットナイフで叩き斬る。両断とまで綺麗にはいかなかったが命は無いだろうと次のターゲットへ意識を向ける。自分の左側やや前方、様子を見ていた1匹が動く前にその後ろから迫っていた集団から飛び出した1匹が右手にした棒状の武器を振り上げると襲いかかってくる。武器を払うつもりで外側へ向けて振ったマチェットナイフが二の腕ごと斬り飛ばし、後続を察知してすぐに返す刀で正面に迫っていた1匹の首を横から切り裂いた。入ってきた方の逆側の鎖骨辺りで刃が止まると、胴体を前蹴りで後ろへ倒しナイフを引き抜く。やぶれかぶれに飛び掛かる残りのナクトマン4匹だったが間合いの合わない相手は一旦蹴り飛ばし、不用意に飛び込んでくる相手の喉元にマチェットナイフを突き刺し、他の1匹には垂直に振り下ろすと頭蓋骨を砕き顔面を両断。程なく8匹のナクトマン全てがマチェットナイフの錆となるのだった。
「コイツ、まだ生きてるな」
唯一右手に武器を持っていた個体がうずくまる位置まで行き胸に刃を突き立てる。
【身体操作(人間)】
「ハハッ、サイよりも危なっかしいか?」
『肯定、動きの洗練度合いに差異。続いて当機に先頭を移譲する事を希望』
「サイ、良いか?」
「……お言葉に甘えてもう少し休ませてもらおうか」
キュリヤが一行の先頭を担い洞窟を進んでいく。
「あんた、肉弾戦のみでもやるもんだな」
「そうか? まぁ、ナクトマンの相手は慣れてるしな。投石も立体的な動きもしてこなけりゃあんなもんだろ?」
「ふっ、並の傭兵より凄いと思うぞ」
縛りプレイの説明をしながらキュリヤの後ろをのんびり着いて行った。




