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20 伝える想い、伝わる想い2

「……まだ何か」

「俺もしていい?」

「何をか聞いてもよろしいでしょうか」

「恋人同士のキスがしたいなって。……君の唇に」

「…………」

「あっ、もちろん無理しないで! 両思いってだけでも嬉しいし! ただ、もっと嬉しくなりたいなー……なんて、贅沢なこと思ってみたりして」

「はい……」

「いいってこと?」

「お願いします」

「お願いされちゃうっ」


 一呼吸の後。近いてくる表情が普段の可愛いだけとは違って、ドキリとする。


「俺もね、エマちゃんが好き。最初から、ずーっと恋してる。君の盾になれて嬉しかった。この傷も勲章だよ」


 いきなり唇ではなく、額や鼻筋にしてくれるのが嬉しい。

 子猫キトゥンブルーの瞳がすぐ側にあって、その美しさにうっとりとし。まつげも、なんて長いのかと見惚れてしまう。


「俺のプロポーズ、受けてくれてありがと。……大好きだよ」

「わたくしも――」

「――エマ、いるんでしょ? アシュリーの今日の具合、どう?」

「はい、陛下。先生の外出許可はまだですが熱も出ておらず、食欲も通常に戻っております」

「あ……そ、ですか。でも、ええっと……――ごめんなさい、お邪魔しました」


 そーっとドアを閉じようとする陛下を、アシュリー様が全力で引き止め出す。


「この馬鹿アレク! 戻って来い! 何事もなく行かせるか!」

「心底ごめんなさい……!」

「ごめんなさいで済んだら、騎士団なんていらないっての! ようやく両思いになれて、あとちょっと……あとちょっとでエマちゃんの唇が俺のものになったのに、なんでこのタイミングで来る!? ほんっと、お前ってば昔から空気読まないとこあったよね!!」

「ドアの向こうで、そういう展開になってるなんて察せるわけないじゃん! ていうか展開はやっ! もうそこまで行く!?」

「俺は、俺のものになったからには全力で手を出していく派なんですぅー! そうでなくたって、エマちゃんで出すもん出してたんだしさ!」


 私で出す?


「精液ですか?」

「おっふ……!」

「エマの直球!!」

「濁したほうがよかったのですね。では、アシュリー様は夜な夜なわたくしでみだらな行為を想像し、ひとりで楽しまれていたと」

「うっ……なんかえらいダメージが……。はい、そうです、ごめんなさーい……」

「以前ならまだしも今は嬉しいだけですが、想像でわたくしをどうこうするよりも、直接されてはいかがでしょうか」

「うぇぃっ!?」

「あるいは、呼んでくださればわたくしが処理のお手伝いをいたしますが」


 素直な気持ちを伝えると、ふたりが喉の奥で小さく唸った。


「……エマって、こういう知識もちゃんと真面目にあるんだね。でもすっごいお誘いなのに、淡々と言うからいやらしさが微塵もない」

「俺はそういうエマちゃんを乱したいの……!」

「君ってそこに興奮する性癖なんだ」

「そうです! てことで俺が元気なの分かったんだし、邪魔してんな! 帰れ!」

「この流れからまた再開する!? 逆にすごいね!?」

「するか! そうじゃなくて、ふたりの時間を――……っ、いてて……」

「アシュリー様!」


 頭を押さえるアシュリー様を、今度こそベッドへ横たわらせる。


「叫ぶと、さすがにまだ傷に響くねー……」

「もうすぐ先生の回診ですし、このままお休みになられてください。わたくしはいったん、部屋へ戻ります」

「もう少し一緒にいたいっ」

「いいえ、なりません。よく考えれば、キスをして興奮してしまうのもよくありません。すべては、通常業務に戻られてからといたしましょう」

「そんなの拷問じゃん……!」


 足をばたつかせ「やだやだやだ!」と子供みたいに駄々をこねだす体に、ブランケットをかけてあげる。

 

「寂しいのは、わたくしもです」

「ほんと? じゃあ、毎日お見舞いに来てくれる? で、イチャイチャはしていい?」

「節度を守ってくださるなら」

「おっぱいに顔を埋めさせてください!」

「承知いたしました」

「なんで承知出来るの!? エマの節度ってそこ!? ていうか興奮しちゃうよ!?」

「布は巻いている状態で服の上からであれば、問題ないと判断したのですが」

「あ、なるほど――……って、なるほどでいいのかなあ……」

「わたくしの体はアシュリー様のものです。現状ですと興奮しないを前提となりますが、アシュリー様が自分のものをどうにかしたいのであれば、どうにかしていいのでは」

「極論が過ぎる……!」

「エマちゃん、あのさ。そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺、無理やり何かしたくはないよ。ちゃんと合意の上でなきゃ嫌だ」

「……お優しいアシュリー様」

「優しいのはエマちゃんでしょ。いい? 相手が俺だからって、嫌なら嫌って言うこと。約束ね」

「はい」


 指を絡めるみたいに握りしめられ、私からも手の甲を撫で擦ると、アシュリー様は目を閉じた。


「あー……幸せ……幸せで、眠い……」

「薬のせいです。どうぞ、ゆっくりお休みください」

「うん……お休み、エマちゃん。……アレクも……色々心配かけて……ごめん――……」


 眠りにつくのを見守り、そっと指を離す。

 陛下に促され廊下に出ると、すぐに伝えられる感謝の言葉。


「エマ、ありがとう。アシュリーを受け入れてくれて」

「違います。アシュリー様が、わたくしを受け入れてくださったのです。なにも分かっていないわたくしを、一途に求めてくださったのです」

「そっか」


 歩きながら、陛下がぽつり呟く。


「僕はね。おじさんが……彼の父親が亡くなってから、ずっと無理しているのを知っていた。国王になってからも、僕の頼れる幼馴染のお兄ちゃんで居続けてくれた。そのせいで、彼にはいわゆる青春時代がなかったよ。平和のためという大義名分があるにしたって、僕は間違いなく、アシュリーという青年の人生を変えてしまった」

「アシュリー様も、出来ないことは出来ないとおっしゃいます。その彼が今の道を歩んでいるならば、納得してなのではないでしょうか」

「うん……でもね、やっぱり僕は償わなきゃいけない。彼に限った話ではないけれど、僕が革命を起こすと言わなければ、彼の父親も死ななかったかもしれないんだ」

「犬に噛まれたのと革命は関係ないのでは……」

「僕の指示で、敵の情報を得るべく駆け回ってくれていた最中なんだよ。もちろん、無血開城といかないぐらいは承知の上での革命だ。分かっていても、僕もおじさんが大好きだった。そのおじさんにアシュリーを頼むって……幸せにしてやってくれって、死に際にお願いされてね。……君という相手が現れてくれたおかげで、ようやく約束を果たせそうだ」


 足を止めた陛下に習えば、自然と向き合う形になる。


「僕は、ふたりを伴侶同士であると認めるよ。同時に君を、騎士団長の補佐役に任命もする。いつでも一緒にいてあげて」

「わたくしを補佐役に!? さすがにそれは、みなが納得しないのでは……!」

「そこはもう国王命令でなんとでも――なんてね。命令は冗談で、そもそもうちの騎士団は実力主義だ。君みたいに新人だった子が認められて、すぐに他の新人教育に任命されたり、訓練長に任命されるのは知ってるね?」

「知ってはいますが、騎士団長の補佐というくらいをいただくには、わたくしは新人が過ぎるかとっ」

「確かに、これに関しての先例はない。だからこそ、君はいっそう励まなくてはならなくなるね。自分より認められる相手が現れれば、落とされる。不正行為が発覚すれば僕も容赦ないから誰もしないし、完全なる実力主義だよ。だからこそ、君なら誰も文句は言わない。ここに来て間もなかろうと、君は素晴らしい騎士だ。何より、アシュリーが選んだ」

「伴侶だからだと、やっかまれるのでは」

「君はそれを払いのけられない?」

「……いいえ。おごらず、実力で批判を跳ね返したいです」

「うん、いいね。君は強い。その強さでアシュリーを守れる。ふたりで、これからもこの国を導いて。僕でよければ手助けさせて」

「もったいないお言葉です……!」


 片膝をつき、こうべを垂れる。


「アシュリーが回復次第、任命式を行う。伴侶の件もその場で伝えるから、君もそのつもりで」

「はっ……!」


 遠のく足音が消えてようやく顔をあげ、剣のつかを強く掴む。

 伴侶でいるためにも、補佐であるためにも、私はこれからさらなる努力を積み上げよう。

 どちらの場所も、絶対に誰にも譲りたくはないのだ。


(アシュリー様……)


 指先に残る、彼の唇の感触。

 そこへ、そっと唇を落とす。


(ありがとうございます)


 私に新しい道を作ってくれて。

 その道を、共に歩めるという喜びを与えてくれて――。


 **********


 親愛なるお父様、お母様へ


 大変ご無沙汰しております。ずいぶんとお手紙を書けず、申し訳ございませんでした。

 ですがこうして書けるということは、悩み事が全て解決したと思っていただいて問題ございません。


 私は、本当に恵まれております。ふたりの子として生まれ自由に育てていただき、こうしてなりたい騎士にもなれている。それだけでなく、一生お傍にと誓える方とも出会えたのです。

 アシュリー様は強く美しく、なのに可愛らしい一面も持っている素晴らしい方です。その方の盾となれる喜びは、こうして私がこの世にあるからであり、そうしてくださったのはお父様とお母様です。

 私に生を与えてくださり、本当に感謝いたします。


 そこで、おふたりにアシュリー様をご紹介したく。

 とはいえ忙しい方であり、距離も距離。すぐにご紹介出来ないのですが、彼はぜひ、私の祖国にて一度挨拶をとおっしゃってくださっております。

 それまでは、手紙で自分を知っていただければとのことでした。近い内に私の手紙と共に、彼の手紙も同封させていただきます。


 こちらの景色は真っ白です。雪を見るのは初めてではありませんが、平地まで真っ白というのは初めてであり、驚きつつも美しい光景だと毎朝感動を覚えております。

 春になりこの雪が溶けた頃、彼と共に帰国いたします。楽しみにしていてください。私もその日を、今から心待ちにしております。


 おふたりも、どうぞ健やかであられませ。

 それでは、またお手紙いたします。


 エマ = ウィルバーフォースより

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