第十話 戦闘訓練? いいえ、ただの喧嘩です(後)
「大丈夫か優之介?」
優之介を受け止めたのはさっきまで伸びてた斬波だった。
「いっつつ……、ボコボコにされちゃいました」
「あれ多分ソフィーに言われてるな……。まぁそこでお前は寝てな、仇はとってやんよ」
斬波は優之介を端に寝かせた後、ゆっくりと歩いてクラウディアの前に立った。
「最後はシバ殿か、体は大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
斬波はどこかで聞いたことがあるような台詞を言いながらゆっくりとぶっきらぼうに木剣を肩に担ぎ、クラウディアが木剣を構える。
「……早く構えよ」
「優之介には奇襲を仕掛けて俺には構える時間をくれるのか? やっぱりソフィーに優之介を鍛えるように言われてるなぁ?」
「ユウノスケ殿だけではない、君も鍛えるように言われている」
(一朝一夕でどうにでもなるようなもんじゃないだろ……)
「そうかい、なら胸を借りるとするかね」
斬波は口には出さず心の中で愚痴をこぼした。
斬波とクラウディアが睨み合いを始め、お互いに動きがないまま時間だけが過ぎていく……。
「夢咲さん大丈夫ですか?」
「あ、佐々木さんでしたっけ? 自分は大丈夫ですよ」
「二人共どうしたのでしょうか……?」
優之介が二人を注視していると横から市之丞が優之介の具合を心配して声をかけた。
優之介は打撲程度の怪我しかしてないので問題ないとだけ返した。他の転移者も優之介の様子を身に集まって来たので、優之介は後から集まってきた人達にも身体は大丈夫とだけ伝えて、視線をクラウディアと斬波に戻した。
「お互いの動きを読み合ってるのね……。どっちも隙がない」
斬波とクラウディアを見ながらそう呟いた葵に優之介は質問した。
「わかるのですか? 斬波さんの方は隙だらけに見えますけど……」
「目がお互いを捉えて離してないもの。それに、殺気もビシビシ伝わる」
「へぇ……」
葵に感心する優之介だったが、そもそも何故彼女はそんな事が分かるのか、優之介は疑問に思ったのだが……。
「おぉ! 流石剣道日本一!!」
「優里音、これくらい普通だっての……」
葵の友人であろう優里音が葵を茶化したので、優之介の疑問は直ぐに晴れた。剣道日本一なら今の答えも先ほどの彼女とクラウディアの模擬戦も見事なものだったのも納得できる。
優之介と葵達が他愛のない会話をしている間、斬波とクラウディアの二人に少しだけ動きが見られた。
「あの二人、まだ睨めっこしてる~」
「いや、クラウディアさんの方が少しずつ間合いを詰めているぞ!」
クラウディアがじりじりと斬波との間合いを詰めていく……、その時だった。
「ん~♪ ん、ん、んん~~♪ ん、ん、ん~ん、んん~~♪」
「なっ!?」
クラウディアは驚いた、斬波が鼻歌を歌いながらゆっくりクラウディアに歩み寄ったのだ。
「貴様ッ……!!」
――カァン! ―
呑気に歩み寄る斬波に隙ありと斬りかかるクラウディアだったが受け止められてしまった。鍔迫り合いに入るがクラウディアは両手で木剣を持っているのに対し、斬波は片手のまま、しかも左手は腰に当てて余裕そうにしている。クラウディアの表情が不満一色に染まった。
「両手で剣を持たないか! それでは深く斬ることはできないぞ!!」
「剣で斬る必要はない」
「何ぃッ!?」
「剣は斬るためではなく、突くために特化した武器だからな! アニメや漫画で剣を振り回してるシーンを見る度にいつも思うんだ、剣は突くための武器なのに何で皆斬り掛かるんだろうって……。まぁ、叩き斬りに行ってるだけなんだろうけど」
「…………?」
(あにめ? まんが? とは何なのだ……? 何かの演劇か?)
この話は優之介も知っていた。以前、剣は真っ直ぐな刃と言う構造上、本当の真価は突きに集約していると斬波から聞いたことがある。斬波とオタク談義をしていた時は、敵を斬る為に使う武器は日本刀が一番だと、二人でよく結論づけていた。
剣の扱い方に観点を持って優之介は打ち合うクラウディアと斬波を見る。両手で木剣を持ち、体全体を使い綺麗に斬りにかかるクラウディアに対し、斬波は片手で木剣を持ち、まるで鈍器で去なすかのように最低限の力だけで振り回している。一見クラウディアの方が優位に見えるが、実際は斬波の方が身体に掛かる負担が少ないので、長期戦に持ち込めば有利になるのは斬波の方だろう。やがて、クラウディアに疲れの色が見え始めていた。
「はぁ……はぁ…………」
「どうした、終わりか?」
「ええい! きちんと模擬戦をしないか!」
「クラウディアにとっては模擬戦だけど、俺にとってはただの喧嘩だ。可愛い俺の弟分の仇討ちってところかな」
「喧嘩……」
「剣術なら負けるだろうけど、喧嘩なら負けないぜ」
「望むところだぁ!!」
カァン! カン、とまた再び打ち合うクラウディアと斬波。美しくキレのある斬撃を繰り出すクラウディアと、無骨ながらも相手の動きを見切り、木剣で去なしつつカウンターを叩き込む斬波の攻防は優之介達ギャラリーの視線を釘付けにした。
打ち合いが続いて約五分が経過した時だった……。
「やぁっ!!」
――カァーン! カランカラン―
クラウディアの鋭い斬撃が斬波の木剣を弾き飛ばした。誰しもがクラウディアの勝利を確信したその瞬間――。
「……隙だらけだ」
「なっ!?……ぐふぅっ!!」
斬波が一気に距離を詰め、剣を振り抜いたままのクラウディアの腕を掴みそのまま背負投を決め、投げられて動けないでいる彼女の首筋に向かって、斬波はスッと手刀を振り下ろし寸止めをした。
「You Lose」
「その言葉の意味は分からないが、私は負けたようだ……」
クラウディアが自身の負けを宣言すると、ギャラリー達は歓声を上げて斬波とクラウディアに駆け寄り、二人の健闘を讃えた。
クラウディアと斬波の模擬戦は、剣の試合ならクラウディアの勝利、戦闘なら斬波の勝利で幕を閉じた。
アクセスありがとうございます。
お盆休みを活かしてお話を書き溜めれば良いなと思っています(^^;)




