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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑦千年の都ー」
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Side Meena.「球状兵器」

※ミイナ視点の三人称です。

 ミイナは苛々していた。『親爺(おやじ)』が攫(さら)われてからずっとだ。ウィンストンの潜伏する手狭な住居で機を待っているときも変わらない。作戦決行が紙に記されてからも。


 だからこそ、リビングの中央に地下への入り口が開通したとき、ようやく苛立ちは収まったのだが、ウィンストンの言葉で再燃した。


 ――まだです。


 執事野郎はそう呟いて押し留めたのである。これにはさすがに血管が破裂しそうだった。『親爺』に作ってもらった金棒――執行獣(アメミット)でこいつを叩き潰してやろうかと思ったくらいである。結局思い留まったのは、ウィンストンがあまりに真剣な目をしていたからだ。ひとを騙して小馬鹿にする連中がどんな目をするか、経験上理解している。この執事には欠片も嘘がない。


 それからしばらく待機して、ようやくウィンストンは教えてくれた。『親爺』のいるであろう場所と、そこへの道筋を。よし、と入り口に踏み出しかけたところをまた制止されたので、たぶん、頭の血管が切れた。気付いたときには腹に目がけて拳を振るってしまったが、初動の段階で防がれたのには驚いたものだ。


 ――客人を待ちなさい。


 これもウィンストンの言葉である。彼の頭に計画があるのは重々承知していた。だが、それは見通せるものではないし、何度問いかけても教えてくれない。無駄口が厳禁なのは分かっていても、もう少し理由を喋れよ、と内心で苛立ちが膨張する。


 そして彼の言う客人――他種族たちが訪れ、ようやく彼女は地下へと一番乗りしたのだ。大切な魔具(・・)、執行獣(アメミット)を携(たずさ)えて。


 白銀色の階段を駆け下り、廊下を進み、階段を登り、角を曲がって、どんどん先へ向かう。途中にある部屋は一瞥(いちべつ)だけで通り過ぎる。目印は赤い液体の部屋だ。その部屋の次にあるのが『親爺』のいるであろう大部屋。いない可能性はもちろんある。だが、確証なんて得られはしないのだ。だからこれも虱(しらみ)潰しの捜索の一環。ほんのわずかでも可能性があるのなら、がむしゃらに動き回るのが性(しょう)に合っている。ウィンストンの潜伏先での待機時間のほうがよほど苦痛だ。


 決して足を止めずに、それにしても、と思う。


 この道は誰が作ったんだ。無駄ばっかで、ちっともセンスがねえ。


 ミイナが誤解するのも無理はない。地下空間が瞬間移動していたなんて知らないのだから。


 さすがに息が上がりそうになったところで、ミイナは異常を察知した。遥か後方の他種族の足音とは別に、ガシャガシャと小うるさい金属音が前方から聴こえたのだ。音はひとつところに留まらず、みるみる近付いてくる。


 やがて角を曲がって現れた物体を目にし、彼女は唖然とした。廊下をすっぽり覆うサイズの白銀色の球体がいたのだ。そいつらには太い足がついていて、こちらへと走ってくる。腕はない。その代わりなのかなんなのか、身体の前面から短い筒が伸びていた。筒はミイナに照準を合わせている。


 咄嗟(とっさ)にしゃがみ込むと、筒が滑らかに移動し、こちらを常に捉えた。


 筒の先が紫色に輝くと同時に、光線が照射された。彼女が素早く壁の凹(へこ)み――筒の死角に身を隠さなければ、身体の中心に穴が空いていただろう。


 ミイナは白銀猟兵(ホワイトゴーレム)を知らない。これが白銀猟兵(ホワイトゴーレム)の亜種であり、階段に侵入した時点で一斉稼働したことも、無論把握していなかった。


 通常、白銀猟兵(ホワイトゴーレム)は感知圏内(けんない)のアルテゴに反応して稼働する。地下の地下――この白銀空間を跋扈(ばっこ)する亜種はその限りではない。相手が何者であれ、あらかじめ地下に存在していた者以外を感知した時点で行動を開始する。


 あれが味方ではないのは一目瞭然。光線が危険なのも察した。照射から時間を置かずに凹みから飛び出し、執行獣(アメミット)を振り上げる。


「邪魔すんじゃねえよ!!」


 ここまで走り続けた疲労もあって渾身(こんしん)の一撃とは言いがたいが、地面を叩き割れる程度の威力だったのは間違いない。しかし、球体は微動だにしなかった。筒状の砲口はミイナを捉えて、すでに輝きの兆(きざ)しがある。


 ミイナが執行獣(アメミット)を盾に使ったのは妥当な選択だ。実際、光線はそれで防御出来たのだから。しかし、あちら側の威力のほうが高かった。光線が直撃した部分が削られたのは、彼女の怒りを惹起(じゃっき)するに余りある事態である。『親爺』が丹精込めて作ってくれた魔具を傷付けられて黙っていられるはずがない。


 ミイナは雄叫びを上げ、再び執行獣(アメミット)を振るった。先ほどよりもずっと威力の高い攻撃だったのは言うまでもない。筒は破壊され、球体は凹み、亀裂が生(しょう)じていた。


 彼女は肩を大きく上下させ、荒い呼吸で球体を見据える。このまま何度か執行獣(アメミット)で殴れば、こいつを壊せるだろう。しかし彼女はその場から動けなかった。体力が尽きたわけでもなく、休憩しているわけでもない。壊れた球体の後ろに、別の球体がいるのが見えたのだ。騒々しい機械的な足音はずっと先で鳴っている。音がみるみる遠ざかるように感じるのは、連中が去ったことを示していない。律儀(りちぎ)に並んでいるのだ。廊下に。ずらりと。


 目の前の球体を粉々に破壊したとして、次の球体を相手にしなければならない。何十体、いや、何百体いるかも分からない謎の球体を。一度でも力がおよばなければ光線の餌食になる。ミイナは無鉄砲だが、そんな彼女をして躊躇(ちゅうちょ)させるに余りある状況だった。


「どした、ニンゲン」


 背後で朴訥(ぼくとつ)な声がして振り返ると、球体ほどではないがずんぐりした者がいた。棍棒を担いだトロールである。


 執行獣(アメミット)で球体を示した。


「あの球野郎が道を塞いでる。一個はアタシがブッ飛ばしたけど、奥に何個もいやがる。硬えし、光線撃ってくるし……」


 口にしていて嫌気が差した。


 こんな球ごときでなんで足止めてんだよ。

 何個だって潰せばいいじゃねえか。

 なんのためにここまで来たんだよ。

 その程度の覚悟なのかよ。

『親爺』を助けたくねえのかよ。


 憤りが全部、自分の心を刺してくる。動けよ臆病者、と罵っても身体は硬直していた。


「これじゃ、『親爺』のとこまで行けねえ」


 言ってから、奥歯を割れんばかりに噛みしめる。


「そか」


 トロールは素朴な返事をし、大きく手を振った。ミイナへ。次は天井へ。次は左右の壁へ。そして足元へ。


「……なにしてんだ?」


「よんでるから、まて」


「呼んでる? なにを」


「ハコビヤ」


 要領を得ない会話に、ミイナは首を傾げた。


 不意に床から赤いものが現れたので、ぎょっとする。よく見ると小麦色の肌をした赤毛の女性だ。しかもかなり美人。


 彼女はトロールを振り仰(あお)ぎ「呼んだ?」と訊(たず)ねる。


「よんだ。そこのニンゲン、こまってる。タマがジャマで、とおれない。メロ、たすけてやって」


「あーね」


 メロと呼ばれた女性はこちらを向くと、首を横に振った。


「ごめんだけど、無理なんだよね~。試したんだけど、地面に入(い)れるのは出来なかった。マジ最悪。地下のグレキランスからも入れられなかったし。だから入り口に戻っても無理。地下が固定された影響、みたいな? ワケ分かんないけど、駄目だった」


 メロがなにを言っているのか、ミイナには一向に分からない。頭が疑問符と焦りで埋め尽くされる。


「そか。どうしよ」


「ウチに聞くなし。ウケる! あー……真面目にアドバイスすると、あの球は一番近くの奴にしか反応しないから、一番近い部屋まで戻って、そこにおびき寄せるしかないんじゃね? その隙に通路を進めばいいっしょ。あと、爆発しないからそこは安心してオッケー」


「メロ……なんでタマのことしってる? オマエ、うらぎった?」


「裏切ってねえし! ギャハハ! 地面のなかから見てたんだけどさ、球が動きはじめてすぐ、ドルフが通路に入ったんだ。今も戦ってる。ウチ、ヤバくなったらすぐドルフを地面に戻すつもりだったんだけど……駄目だった。あいつさ、今、血まみれになって頑張ってんだ。だから早く助けに行ってやって。マジで。お願いだから」


 分からないなりに伝わるものがある。メロの仲間が大変な目に遭っていて、でも彼女の側からはどうにも出来ない。声の調子で、それが演技でもなんでもないと把握した。


「わかた。いっかいもどる。そのまえに、ニンゲン、オマエ、はこぶ。メロのサクセン、みんなにつたえて。ドルフのことも」


 なんの返事もしていないのに、トロールが遠慮なしにミイナの身体を持ち上げる。『え』とか『おい』とか、それしか言う隙がなかった。彼女の身体はトロールから次のトロールへとどんどん運ばれていった。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『ミイナ』→アカツキ盗賊団のリーダー。詳しくは『第二話「アカツキ盗賊団」』にて


・『親爺(おやじ)』→アカツキ盗賊団の元頭領。クロエの所有するサーベルは彼が製造した。詳しくは『40.「黄昏と暁の狭間で」』にて


・『ウィンストン』→『毒食(どくじき)の魔女』の邸で執事をしている魔術師。丁寧な口調の壮年男性。ジェニーとは犬猿の仲。昔から魔女の命を狙って暗殺を繰り返している。魔女を殺害したオブライエンに並々ならぬ復讐心を持っている。詳しくは『第八話「毒食の魔女」』『279.「物好きな主人」』にて


・『メロ』→人魚の族長。小麦色の肌を持ち、軽薄な言葉を使う。口癖は「ウケる」。なにも考えていないように見えて、その実、周囲をよく観察して行動している。仲間思いで姉御肌。地面を水面のごとく泳ぐ魔術を使用。詳しくは『745.「円卓、またはサラダボウル」』『746.「笑う人魚」』にて


・『ドルフ』→『緋色の月』の四番手で、トナカイ族の獣人。別名、鉄砕のドルフ。タテガミ族との混血。血の気の多い性格。身体硬化の魔術を使用する。『骨の揺り籠(カッコー)』を襲撃したが、最終的にリフによって撃退された。貧弱なトナカイ族を食わすため、仕方なく『緋色の月』に協力している。詳しくは『816.「地底への闖入者」』『817.「鉄砕のドルフ」』にて


・『トロール』→よく魔物に間違えられる、ずんぐりした巨体と黄緑色の肌が特徴的な種族。知能は低く暴力的で忘れっぽく、さらには異臭を放っている。単純ゆえ、情に厚い。『灰銀の太陽』に協力。詳しくは『741.「夜間飛行」』にて


・『魔具』→魔術を施した武具のこと。体内の魔力が干渉するため魔術師は使用出来ないとされているが、ニコルは例外的に魔術と魔具の両方を使用出来る。詳しくは『間章「亡国懺悔録」』にて


・『執行獣(アメミット)』→アカツキ盗賊団団長のミイナが所持する金棒。詳しくは『22.「執行獣」』にて


・『白銀猟兵(ホワイトゴーレム)』→人を模した、ずんぐりとした物体。オブライエンの量産している兵器。指令を送ればその通りに行動をすることが出来る。動きは機敏で、硬度は高い。破壊時に自爆する。詳細は『幕間.「白銀空間~潜入~」』『幕間.「白銀空間~白銀猟兵と一問一答~」』『幕間.「白銀空間~魔具制御局~」』にて


・『アルテゴ』→オブライエンの発明した兵器。『固形アルテゴ』『液化アルテゴ』『気化アルテゴ』がある。詳しくは『間章「亡国懺悔録」 幕間37.「アルテゴ」』にて


・『固形アルテゴ』→オブライエンの発明した兵器。固形。詳しくは『間章「亡国懺悔録」 幕間37.「アルテゴ」』にて


・『液化アルテゴ』→オブライエンの発明した兵器。液状で、外気に触れると『気化アルテゴ』となる。詳しくは『間章「亡国懺悔録」 幕間37.「アルテゴ」』にて


・『気化アルテゴ』→オブライエンの発明した兵器。『液化アルテゴ』が気化したもの。膨張を繰り返し、急速に広がる。吸引した人間は多くが魔物となり、一部が他種族に、ごくごく一部が『黒の血族』へと変異する。オブライエンは双子の兄であるスタインの体内に『液化アルテゴ』を設置し、生命活動の停止に伴って外気に触れるよう仕組んだ。スタインが処刑されたことにより、ラガニアは滅亡することとなった。詳しくは『間章「亡国懺悔録」 幕間37.「アルテゴ」』にて


・『グレキランス』→通称『王都』。周囲を壁に囲まれた都。また、グレキランス一帯の地方を指して用いられる。詳しくは『第九話「王都グレキランス」』にて

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