↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑦千年の都ー」
1777/1837

Side Barock.「正滅する居城」

※バロック視点の三人称です。

 他種族連合第三グループに課せられた任務は、それほど難易度の高いものではない。地下を遊泳可能というメロの能力に依存するものであるが、転移からそう時間もかからず完了する見込みだった。少なくともバロックはそのように楽観視し、メロに殺される憂いばかりを心中(しんちゅう)で膨らませたきらいがある。


 地中から見える白銀色の空間。あれがオブライエンの居城なのは分かる。ただ、いくつもの部屋が現れては消える状況は想定していなかった。


「ウチのポーチから共益紙(きょうえきし)出してくんない? ペンも」


 メロに水を向けられて、バロックはまたぞろ唖然とした。つい「なぜドルフではなく私に?」と問いが溢(あふ)れる。


「ドルフは戦闘要員じゃん。ウケる。ウチは両手塞がってるし、共益紙の内容を確認すんのも、地図(・・)を描くのもバロックの役目っしょ。フツーに考えて」


 そうだ、とバロックは吐息を漏らした。自分がなぜ選ばれたのか理解はしている。そして彼女の態度も考えてみれば妥当だ。殺すのなら目的を果たしてから。それまでは遺恨をひた隠しにして仲間として振る舞うのが適切。自分ならそうする。


「失礼」


 メロが肩がけにしたポーチを開け、共益紙とペンを取り出した。


 自分の命については諦めがついている。あとは役目をまっとうするだけ。


 共益紙には今まさに文字が書き込まれているところだった。転移した場所が地上ではなく地下である旨と、集合場所のやり取りが為(な)されている。グレキランス壁内の本来の区画が入れ替わっている点も綴られた。


 共益紙をメロに見せる。彼女の肩から顔を出したドルフは、随分と渋い顔になった。


「なに言ってんだ、これ。わけ分かんねえ」


「ドルフは分かんなくていいんじゃね? ギャハハ! ウチも全然分かんねーけど! ま、バロックは理解出来るっしょ?」


「……まず、『夢の管理者』はミスをしていません。注文通り、私たちをグレキランスの地下に転移させた。ところが地下にもグレキランスがあった。厳密には、地上のグレキランスを人間含め、丸ごと地下に移したのでしょう。魔力で分かります。私たちが転移した地下グレキランスには多くの魔力が点在していましたから。街の区画を入れ替えたのは念のためといったところでしょうか。私たちが容易に合流出来ないよう、策を講じたのです」


「へー」とメロは聞き流す。ドルフはますます渋い顔になり、途中からはひたすらぼんやりした表情を浮かべていた。


 説明する甲斐(かい)がない。二人とも理解を放棄したように見える。


 バロックは溜め息をつき、上を見上げた。


「白銀色の部屋は、区画入れ替え後の王城の対角にあるようです。壁からおよそ数百メートル」


 言って、バロックは手元の共益紙に、正滅するオブライエンの居城の概(おおむ)ねの位置を書き込んだ。


 そして厄介な代物へと目を戻す。神出鬼没の小部屋へと。


「もしグレキランスがちゃんと地上にあって、ウチらが地下に転移してたら全滅だったじゃん。マジウケるんですけど」


 なんだ、ちゃんと説明を聞いてたのか、とバロックは少々感心した。まあ、仕事が終わればこちらを抹殺する相手に感心するのは滑稽(こっけい)だが。


 彼女の言葉は正しい。もし想定通り地下に転移したなら、メロ以外は全員地面の下で窒息死だ。絶えず出現と消失を繰り返す部屋に運よく転移出来たとしても、部屋と部屋とを結ぶ道がない。先遣隊はメロを除いて無力化されたことだろう。つまりは、地下にグレキランスが移されたのはむしろ幸運と言える。


 道がない点は問題視していない。道を作れる者がいると聞きおよんでいる。しかし闇雲に作れるものではないからこそ、地図を記す者が必要なのだ。地図というより設計図と呼ぶほうが正しいか。


「コンマ五秒」呟くと、二人の視線を感じた。「あの部屋はコンマ五秒で消えます。いや、違うな……コンマ五秒で部屋全部の配置が変わっているようだ。位置は変われど、部屋数は同じ。部屋のサイズや形状も、よく観察すれば同じです。すべての部屋がコンマ五秒ごとに瞬間移動している」


「コンマ五秒って、結局何秒だよ」とドルフ。


「五秒じゃね?」とメロ。


「……一秒の半分です」


「一秒って半分にできねえだろ」


「そもそもコンマってなんだよ。ギャハハ!」


 バロックは咳払いののち「教養……」と小さく呟いた。そして続ける。「ともかく、とても速いということです。そして部屋は全部移動しています」


 ドルフは「最初からそう言えよ」となぜか不満顔だ。メロはというと「ウケる、同感なんだけど」と笑う。


 この二人は状況の深刻さを理解していないらしい。共益紙の受け取りを辞退しなくて良かったと心の底から思った。


 二人のことはいい。問題はどうやって地図を作るかだ。


 バロックは無言で、移動する部屋を見つめた。よく見ると全部の部屋が白銀色というわけではない。橙色に染まった部屋もあれば、室内のなかば以上が赤い液体を湛(たた)えている部屋もある。部屋の総数は二十。それらがコンマ五秒間隔で一斉に位置を変える。一見すると不規則だが、目を凝らし、配置を頭に叩き込むと、気付きがあった。地中に潜って観察してから、一度として同じ場所に部屋が移動していない。


「で、どうすんだよ」


「時間をください」


 素早くドルフに返す。彼の表情を一瞥(いちべつ)する余裕すらない。神経が擦り切れるほど集中し、脳が焼けるほどバロックは観察と記憶に徹した。そして計測もおろそかにしない。


 三十分経過して、ようやくバロックは口を開いた。


「メロさん。私の指差す方角に泳いでください」


「オッケー」


 これだけの時間待たされたにもかかわらず、彼女の返事はどこまでも気軽だ。


 遥か斜め下へと泳いでいく。目指すのは移動する小部屋を俯瞰(ふかん)出来る位置。


「止まってください」


「はーい」


 横になって上を見上げる。ここからはまた観察だ。ただ、いくらかの余裕はある。喋るくらいなら問題ない。


「約二十分、観察に徹します。お二人は雑談していても結構です」


「寝てていいか? 暇だし」


「いや、普通に考えて駄目っしょ。バロックが頑張ってんだから」


 集中力に乱れはないが、そういうことは言わないでほしい。懸命になっているのは確かだが、彼女の口から放たれると、どうも複雑な心境になる。衒(てら)いのない評価の裏に、巧妙に隠された殺意を読み取ってしまうのだ。どうせ殺すのならたっぷり油断させて、なんなら和解したと思わせてから地獄に突き落とすほうが溜飲(りゅういん)は下がるだろう。


 心に兆(きざ)した鬱気(うっき)から目を背けるために口を開く。


「ドルフ。貴方は何分、息を止めていられますか?」


「一分くらいじゃねえかな。昔友達とやったなぁ。桶に水を張って、先に顔を上げた奴が負けるゲーム」


「ウチは何時間でも平気。人魚だし。ギャハハ!」


 それはそうだろう。


「で、なんで息のことなんて聞いたんだよ」


「十分(じゅっぷん)」目まぐるしく移動する大小様々な二十の部屋を俯瞰して言う。「すべての部屋が十分間隔で規則的に移動しています。そして、一度移動した場所は十分経たない限り、どの部屋も訪れない。つまり十分間、ただの地中なんです」


 きっと首を傾(かし)げているであろうドルフが「それがどうしたんだよ」とぞんざいに訊(き)いてきた。


 メロはなにも言わない。それがなにを意味するか関心がないのか、それとも理解したうえで黙しているか。おそらく後者だろう。彼女は存外聡(さと)い。知っている範囲の物事であれば、正解までの道にたどり着く。


「術者によって個人差はありますが、転移魔術には時差があります。並の魔術師でも一秒程度といったところでしょうか。もし『夢の管理者』の転移が、地下の地下、今頭上にあるいずれかの部屋に対しておこなわれていたなら、例外なく転移時差で埋まっていた。地中が再び部屋になるまで十分間。それほどの時間を無呼吸で生存するのは、あのゾラでも無理でしょう」


 オブライエンの殺意を感じ取るには余りある事実だ。各部屋を隔離(かくり)するだけでは不充分と判断したに違いない。


 もうひとつ、口には出さなかったが問題がある。


 コンマ五秒で瞬間移動する部屋の地図など作れない。普通なら。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『バロック』→オオカミ族の集落の長。知的で冷酷。相手を屈服させることに興奮を覚える性格。支配魔術および幻覚魔術の使い手。詳しくは『Side Mero.「緋と灰の使者」』にて


・『メロ』→人魚の族長。小麦色の肌を持ち、軽薄な言葉を使う。口癖は「ウケる」。なにも考えていないように見えて、その実、周囲をよく観察して行動している。仲間思いで姉御肌。地面を水面のごとく泳ぐ魔術を使用。詳しくは『745.「円卓、またはサラダボウル」』『746.「笑う人魚」』にて


・『ドルフ』→『緋色の月』の四番手で、トナカイ族の獣人。別名、鉄砕のドルフ。タテガミ族との混血。血の気の多い性格。身体硬化の魔術を使用する。『骨の揺り籠(カッコー)』を襲撃したが、最終的にリフによって撃退された。貧弱なトナカイ族を食わすため、仕方なく『緋色の月』に協力している。詳しくは『816.「地底への闖入者」』『817.「鉄砕のドルフ」』にて


・『夢の管理者』→人々の夢を管理する老人。実は『気化アルテゴ』の影響で異能を得た人物。あえて分類すると他種族にあたる。彼が仕事場にしている睡蓮の塊根から、別の場所へ人々を送り込むことも可能。戦争において他種族連合をグレキランスの地下に送り込む役目を負っている。詳しくは『第三章 第二話「妖精王と渡し守」』『897.「夢のはじまり」』『第四章 第三話「永遠の夜ー⑤霧海の繋ぎ手ー」』にて


・『オブライエン』→身体の大部分を魔力の籠った機械で補助する男。王都内の魔具および魔術関連の統括機関『魔具制御局』の局長。自分の身体を作り出した職人を探しているが、真意は不明。茶目っ気のある紳士。騎士団ナンバー1、紫電のザムザを使って『毒食の魔女』を死に至らしめたとされる。全身が液体魔具『シルバームーン』で構築された不死者。かつてのグラキランス領主の息子であり、ラガニアの人々を魔物・他種族・血族に変異させ、実質的に滅亡させた張本人。外界で活動しているのは彼の分身『二重歩行者』であり、本体は一切の魔術的干渉を受けない檻に閉じ込められている。詳しくは『345.「機械仕掛けの紳士」』『360.「彼だけの目的地」』『間章「亡国懺悔録」』にて


・『共益紙(きょうえきし)』→書かれた内容を共有する紙片。水に浸すと文字が消える。詳しくは『625.「灰銀の黎明」』にて


・『転移魔術』→物体を一定距離、移動させる魔術。術者の能力によって距離や精度は変化するものの、おおむね数メートルから数百メートル程度。人間を移動させるのは困難だが、不可能ではない。詳しくは『4.「剣を振るえ」』にて


・『グレキランス』→通称『王都』。周囲を壁に囲まれた都。また、グレキランス一帯の地方を指して用いられる。詳しくは『第九話「王都グレキランス」』にて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。